第53話:銀の雨が降る街で
1. 融和した未来
悠真が「世界の理」となってから3年の月日が流れた。
かつての混乱は嘘のように収まり、地上とエリュシオンは完全に共生していた。空に浮かぶ浮遊大陸は、今や人類の憧れの地であり、高度な魔法文明の象徴となっている。
「――本日の魔力指数は安定。銀の雨の予報が出ています。傘を忘れずに」
街の大型モニターでニュースキャスターが微笑む。
「銀の雨」とは、過剰な魔力が大気中で結晶化し、キラキラと降り注ぐ現象のことだ。人々はそれを、世界を見守る「彼」の慈愛だと信じていた。
2. 遺された者たち
かつての「使徒」たちは、今や地上の守護者として、あるいは導き手としてそれぞれの道を歩んでいた。
ルシフェルはエリュシオンの近衛騎士団長として、秩序を乱す残党を討ち。
マンモンは巨大な商会の主として、世界の富を正しく循環させている。
そして、アスモデウスは悠真の妹・遥の側に寄り添い、彼女の成長を見守っていた。
「遥、またそのアルバムを見ているの? 彼はもう、あなたのすぐ隣にいるというのに」
アスモデウスの言葉に、18歳になった遥はふわりと微笑んだ。
「わかってる。でも、たまには『お兄ちゃん』として、この写真みたいに笑ってほしいなって思うんだ」
遥が指でなぞった写真には、成り上がる前の、少し尖っていたけれど優しかった悠真の姿があった。
3. 兆し:深層からの呼び声
その時、遥の胸元に下げられた『真理の欠片』が、微かに熱を帯びた。
それは、世界中に分散していた悠真の意識が、再び「一つの意志」として凝縮を始めた合図だった。
(【天使の図書館:再起動】:……個体名『天野悠真』の再構成率、99.9%。……主よ、長い眠りでしたね)
エリュシオンの最深部、誰も立ち入ることのできない「静止した時間」の部屋。
そこに、透明な光の繭が浮かび上がる。
数億に分かたれた魂が、世界を守るという役目を終え、一人の「人間」としての形を取り戻そうとしていた。
「……ただいま、遥」
実体を持たないはずの声が、遥の耳元で確かに響いた。




