第51話:デバッグの終焉と、神殺しのハック
1. 開発者権限
九条がタブレットを叩くたび、世界の物理法則が書き換えられていく。悠真の放つ白銀の衝撃波は、九条に届く直前で「ダメージ値:0」へと変換され、ルシフェルの漆黒の炎は「描画エラー」として虚空に霧散した。
「天野君、無駄だよ。私はこの世界のルールそのものを記述した人間だ。君がどれだけこの中で『神』を演じようと、私のコマンド一つで君の存在は『null』にできるんだ」
九条が指を弾くと、悠真の右腕がポリゴン状に崩れ始めた。
【システム警告:個体名『天野悠真』の存在定義を削除中……】
「……ぐっ、あああああ!!」
激痛が走る。だが、悠真は膝をつかなかった。彼は崩れゆく右腕を左手で掴み、九条を冷徹に睨み据える。
「九条……お前はシステムを知りすぎているが、システムの中に生きる『熱』を知らなすぎる」
2. 人間のバグ(イレギュラー・パッション)
悠真は、自らの中にある「影(人間性のエゴ)」を極限まで暴走させた。
論理的には「敗北」し、「削除」されるべき運命。だが、彼の中に統合された「不合理な感情」が、削除コードの進行を物理的に押し止める。
(【天使の図書館:緊急警告】:論理矛盾が発生。……削除コマンドと主の生存意志が衝突。……未定義の領域が生成されます!)
「何……!? 削除が止まっただと? バカな、私のコードは完璧だ!」
九条が焦りを見せた瞬間、悠真の背後に、機能停止していたはずの七人の使徒たちの幻影が立ち上がった。彼女たちはデータとしてではなく、悠真との「絆」という名の記憶として、彼の魂に直接力を注ぎ込む。
「九条、お前の作ったシステムには、一つの欠陥がある。……それは、『予測不能な進化』だ。お前はサンプルを採取したと言ったが、俺たちは今この瞬間も、お前の想定を超えて変化し続けている!」
3. オーバーライト・エデン
悠真の全身から、白銀と漆黒が混ざり合った「混沌の光」が溢れ出した。
それは、開発者すら予測できなかった『新・創世記』の輝き。
「お前がこの世界を消したいなら、俺がその上から『新しい世界』を上書き(オーバーライト)してやる。……九条、お前の権限は、たった今、俺が剥奪した」
【権能発動:簒奪者の聖域】
悠真の指先が九条のタブレットに触れる。
次の瞬間、九条の絶叫と共に、彼の手から端末が弾け飛んだ。開発者権限が悠真の手へと移り、エリュシオンの空に走っていたノイズが、悠真の意志によって「再定義」されていく。
「な……私の特権が……! 私の世界が!!」
「これはもうお前の世界じゃない。……俺と、俺の大切な者たちが生きる場所だ」




