第48話:影の双子(ダブル・バインド)
1. 拒絶の訪問者
「兄さん……。みんな、兄さんを怖がってる。こんなの、私が助けてほしかったお兄ちゃんじゃないよ」
玉座の間に響く遥の声。だが、悠真の背後に控えるルシフェルは鋭く目を細めた。
「……下がりなさい、遥様。主様、これは『本物の妹』ではありません。生体サインこそ一致しますが、精神波形にノイズが混じっています」
「わかっている。……遥、お前は誰だ?」
悠真が静かに問いかけると、遥の影が不自然に伸び、その中から一人の青年が這い出すように姿を現した。それは、悠真と全く同じ容姿を持ちながら、憎悪と劣等感に満ちた瞳をした「もう一人の悠真」だった。
2. 棄てられた残滓
(【天使の図書館:緊急警告】:個体識別不能。……主が第45話でシステムと融合した際、排出された『人間のエゴ(バグ)』が実体化したものと推測されます)
「……ははっ、冷たいなぁ、自分。俺は、お前が『完璧な管理者』になるために邪魔だと思って捨てた、ドロドロした感情の塊だよ」
影の悠真は、歪んだ笑みを浮かべて遥の肩に手を置く。
「お前は神様になって、世界から『無駄』を失くした。でも、人間っていうのはその『無駄』でできてるんだよ。嫉妬して、奪い合って、不合理に誰かを愛して……。お前が消したその『毒』こそが、俺だ」
シャドウが手をかざすと、悠真が統治したはずの地上の人々から、どす黒い霧が立ち昇り始めた。それは、悠真の「完璧すぎる管理」に対する、人々の無意識下のストレスと反発心だった。
3. 反逆のプログラム
「俺は、お前が作ったこの『綺麗な檻』をぶっ壊してやる。みんな、神様に管理されるより、泥まみれで足掻く自由が欲しいんだよ。……なあ、そうだろう?」
シャドウが指を鳴らすと、地上の各都市で、悠真のシステムに従っていたはずの人々が暴徒化し始めた。彼らは使徒たちが与えた食糧を投げ捨て、自らの「ランク」を剥奪しようと暴れ出す。
「……不合理だな。救いを与えれば、次は自由を欲しがるか」
悠真は玉座から立ち上がり、シャドウを見据えた。
「シャドウ。お前を消去すれば、地上の混乱も収まる。……だが、それは俺が『自分自身の一部』を永遠に否定し続けることと同義だ」
「やってみなよ。俺を消せば、お前はもう二度と、遥を『妹』として愛せなくなる。心を持たないOSに、家族なんて理解できないからな!」
神としての「正解」と、人間としての「欠陥」。
悠真は、自らが生み出した最大のバグ(自分自身)との決戦を余儀なくされる。




