第44話:神の涙と、叛逆の産声
1. 汚染される境界線
「お母……さん……?」
使徒たちの中に分散した悠真の意識が、母親の幻影に引き寄せられ、淡く発光する。システムの「聖母」が差し出した手は、悠真の魂を優しく包み込むと同時に、その存在をデータとして分解し始めていた。
(【天使の図書館:警告】:深刻な精神汚染。……主の意識が『安息』を選択しようとしています。……このままでは、全権限がシステムに返還されます!)
「くっ……離れろ! それは主様じゃない、ただの亡霊だ!」
ルシフェルが剣を振るうが、母親の姿をしたプログラムは物理的な干渉を一切受け付けない。それどころか、悠真の「家族を愛する心」を逆利用し、使徒たちから悠真の魔力を吸い出し始めた。
2. 使徒たちの拒絶
「……ダメよ。そんなの、愛じゃないわ」
沈黙を守っていたアスモデウスが、震える声で遮った。彼女は「色欲」の悪魔卿として、数多の偽りの愛を見てきた。だからこそ、システムが提示する「都合の良い安らぎ」の醜悪さが、誰よりも理解できた。
「悠真! あなたが求めていたのは、過去の残像に守られることじゃないはずよ! ……私たちを、この世界の理を支配して、二度と誰も失わない未来を築くことだったはずじゃないの!?」
アスモデウスの叫びに呼応するように、マンモン、ベル、ガブリエル……七人の使徒たちが、主から受け継いだ光を力強く輝かせた。
「そうよ、お兄ちゃんを返して!」
現実世界から遥の声が、システムの境界を突き破って響く。その声が、悠真の混濁した意識に最後の一撃を与えた。
3. 神の再誕、あるいは破壊
「……ああ、そうだ。俺は、もう『息子』として守られるだけの子供じゃない」
母親の抱擁を振りほどき、悠真の意識が再び一つに収束していく。
聖母の姿をしていたプログラムは、拒絶されたことでその化けの皮を剥ぎ、無機質な幾何学模様の集合体へと変貌した。
「母さんの記憶は、俺の中にだけあればいい。……システム、お前に利用させるつもりはない」
悠真の手には、七人の使徒の力が集約された『終焉の鍵』が握られていた。目の前には、世界のすべてを司る「システム・コア」が剥き出しになっている。
ここを叩けば、すべてが終わる。
だが、その先にあるのは「救済」か、それとも「絶望」か。
(【天使の図書館:最終カウントダウン】:原典領域の崩壊まで残り60秒。……主よ、最後の定義を選択してください)




