第43話:七つの星と、偽りの聖母
1. 多元存在
「……あ、ああ……主様が、私の中に……」
ルシフェルが、自身の胸に手を当てて喘ぐ。悠真の存在――その魂と全権限が七つに分かたれ、使徒たちに注ぎ込まれた。彼女たちの背後には、悠真の「全知」を象徴する光の輪が浮かび上がり、その瞳は主と同じ黄金色に染まる。
(【システムメッセージ】:警告。個体名『天野悠真』をロスト。……否、対象は多元存在へと移行。……排除対象の定義が不可能です!)
悠真という「一点」を狙っていたシステムの攻撃は、目標を失い霧散する。代わりに、強化された七人の使徒が、亡霊の軍勢を圧倒的な力で蹂躙し始めた。
「主様の意志は、今、ボクたちと共にある。……さあ、奪い返させてもらうわよ。この世界のすべてを!」
マンモンが黄金の嵐を巻き起こし、数百万の亡霊を塵へと変えていく。
2. 聖母の降臨
亡霊が掃討された直後、原典領域の最深部から、この世のものとは思えないほど清らかな歌声が響き渡った。
『……もういいのよ、悠真。そんなに苦しまなくていいの』
光の中から現れたのは、アスモデウスの幻影でも登場した、悠真の亡き母親の姿だった。しかし、それはアスモデウスが作った偽物ではない。システムが悠真の記憶の深層から抽出した、「彼が最も逆らえない究極の安らぎ」という名の最終防衛プログラムである。
「お母……さん……?」
使徒たちの中に分散した悠真の意識が激しく揺らぐ。使徒たちの動きが止まり、システムはその隙を逃さず、母親の姿をしたプログラムから「存在消去」の光を放とうとする。
3. 母の愛と、システムの刃
『さあ、ここへ来て。すべてを忘れて、私の中で眠りなさい。それがあなたにとって一番の幸せなのよ』
母親が両手を広げる。その背後には、世界を完全に白紙に戻す「リセット・スイッチ」が浮かんでいた。悠真が彼女の抱擁を受け入れれば、彼は安らかに死に、世界は救われることなく消滅する。
(【天使の図書館:緊急警告】:精神汚染:『聖母の慈愛』。……主の意識の80%が、自己保存本能を放棄しようとしています。……抗ってください、主よ!)
「主様! 目を覚ましてください! それは貴方の愛した人じゃない、ただの数字の塊です!!」
アスモデウスが悲痛な叫びを上げるが、母親の姿をした「神の罠」は、悠真の精神を確実に蝕んでいく。
神になることを拒み、人間であることを選ぼうとした悠真の「甘さ」を、システムは冷酷に突き刺してきたのだ。




