第42話:亡霊の行進(ゴースト・パレード)
1. 弱体化した守護者
妹・遥を救うためにルシフェルを現実へ送り、リソースの40%を割いた代償は大きかった。悠真の頭上に浮かぶ『真理の冠』はひび割れ、その輝きは失われつつある。
(【天使の図書館:致命的エラー】:演算能力が著しく低下。原典領域の維持限界まで残り300秒。……主よ、システムは貴方を「もはや修復不能なバグ」と断定しました)
「……わかっている。だが、後悔はない。ガブリエル、敵の排除を優先しろ」
『了解。……ですが、主。来るのは悪魔卿ではありません』
白く塗り潰された空間の向こうから現れたのは、かつて悠真がこの『エリュシオン』で出会い、そして彼を「無能」と蔑み、あるいは彼に踏み台にされて消えていった**数百万のプレイヤーたちのコピー(ゴースト)**だった。
2. 数という名の暴力
「見ろよ、あの成り上がりを。結局、女一人のために世界を捨てたぞ」
「所詮は俺たちと同じ、欠陥品なんだよ」
亡霊たちが口々に罵倒を浴びせ、無数のスキルを放つ。一つ一つは弱いが、システムのバックアップを受けた「物量」は、弱体化した悠真の障壁を確実に削っていく。
「汚らわしい……。主様を、その醜い口で語るな!!」
「色欲」のアスモデウスが叫び、誘惑の魔力で亡霊たちを自壊させようとする。しかし、感情を持たないコピーたちに彼女の術式は通じない。「嫉妬」のマンモンが黄金の腕で応戦するが、奪うべき「価値」を持たない亡霊の群れに、彼女も苦戦を強いられた。
「主様……このままでは、押し切られます……っ!」
3. 最後の一線
亡霊たちの波が悠真の足元まで迫り、無数の手が彼の服を掴み、引きずり下ろそうとする。
その時、悠真の脳内に一つの「禁忌の選択」が浮かび上がった。
(【天使の図書館:最終提案】:主の『人間としての記憶』を完全に消去し、それを魔力に変換すれば、原典領域を100%再起動し、亡霊ごとシステムを消滅させることが可能です。……天野遥のことも、貴方は忘れることになりますが)
「……俺の記憶を、燃料にしろと言うのか」
悠真が目を閉じ、決断を下そうとした瞬間。
消えかかっていた彼の通信ログに、小さな、震える声が届いた。
『お兄ちゃん……。ありがとう。……でも、私のために、お兄ちゃんがいなくなっちゃうのは嫌だよ』
現実世界でルシフェルに保護された遥の声だった。
その不合理な「情」が、冷徹な方程式を再び狂わせる。
「……ガブリエル、提案を却下する。記憶は捨てない。……代わりに、俺の『存在そのもの』を七つに分割し、使徒たちに分け与えろ。俺が神にならないなら、俺たち全員で神を超えてやる」
悠真の体が七つの光に分かれ、使徒たちの中へと流れ込んでいく。
それは「支配者」としての地位を捨て、仲間と「共生」することを選んだ、成り上がりの果てにある究極の自己犠牲だった。




