第40話:鉄の掟と、汚れなき人質
1. 新秩序の胎動
原典領域を掌握した悠真の周囲では、崩壊しかけていた世界が急速に再構築されていた。だが、それは元通りになることではない。悠真の意志が反映された、より厳格で、より「合理的」な世界への作り替えである。
「主よ、現実世界との境界線における魔力濃度の調整、完了しました。これより、全人類への『適性ランク』の強制付与を開始しますか?」
ガブリエルが、もはや神の代行者のような冷徹さで問いかける。七人の使徒たちは、それぞれが世界の新しい「法」の象徴へと変貌していた。
「ああ。力ある者が正しく導き、無能な者が分をわきまえる世界。それが俺の望む秩序だ」
悠真の瞳には、かつてのような「成り上がり」への渇望はない。あるのは、巨大なシステムを運用する管理者のような、静かな光だけだった。
2. 現実からの通信:卑劣なる一手
その時、悠真の視界に強制的な割り込み通信が入る。それは『天使の図書館』の防御を潜り抜ける、現実世界の物理的な「暗号通信」だった。
『……聞こえるか、天野悠真。いや、新世界の神(仮)と言うべきかな?』
モニターに映し出されたのは、世界冒険者連盟(WAF)の最高幹部、ボードワンの醜悪な笑みだった。彼の背後の椅子には、猿ぐつわを噛まされ、青ざめた表情で震える一人の少女――悠真の妹、天野遥の姿があった。
「遥……っ!」
「おっと、動かないでくれ。君がその『神の力』でこちら側に干渉しようとした瞬間、彼女の首に巻かれた魔力爆弾が作動する。……これは君が作ったシステム外の、極めてアナログな物理装置だ」
3. 神の秤と、人の情
ボードワンは、悠真が「全知」に近づいたからこそ、あえてシステムとは無関係な「暴力」を選んだのだ。
「君は今、世界を再定義しようとしている。だが、その数式に『妹の命』は含まれているかな? 一人の少女を救うために世界の修復を止めるか、あるいは妹を見捨てて完璧な神になるか……。さあ、選んでくれ」
(【天使の図書館:シミュレーション】:現実世界への直接介入による救出成功率:0.003%。……主の魔力が現実に干渉する速度よりも、爆弾の起火速度が上回ります)
「主様……行かないで。あんな人間、今すぐこの世界から消し去ってしまえばいい……」
アスモデウスが悠真の腕に縋り付き、甘く、残酷な誘惑を囁く。
悠真の指先が、世界の設計図の上で止まった。
完璧な秩序か、それとも不合理な情愛か。
七人の使徒たちが、固唾を飲んで悠真の背中を見つめていた。




