第36話:嫉妬の裏側と、空っぽの宝箱
1. 牙を剥く「愛の執着」
「……あ、ああ……主様……。申し訳ありません、このルシフェル……一瞬でも貴方に刃を向けた不徳、万死に値します……!」
マンモンの洗脳から解け、アスモデウスの「執着の刻印」に当てられたルシフェルは、かつてないほど昏く、熱い視線を悠真に注いでいた。彼女の放つ黒い炎は、マンモンの支配領域を物理的に焼き払い、強引に「悠真の領土」へと書き換えていく。
「ガブリエル、状況を報告しろ」
『……了解。マンモンの権能『嫉妬の簒奪』を、アスモデウスの残存思念による「共依存プロトコル」で中和完了。……主よ、今の彼女たちはシステム上の使徒ではなく、魂のレベルで貴方に縛られています』
「……皮肉なもんだ。呪いのおかげで、より強固に繋がるとはな」
2. マンモンの絶望
「嫌……嫌よ! ボクのものが……ボクが手に入れた輝きが、またボクの手をすり抜けていく……!」
マンモンが狂ったように叫ぶ。彼女が伸ばす「影の腕」は、悠真の力を奪おうとするたびに、ルシフェルの断罪の剣によって切り捨てられていく。
(【天使の図書館:深層解析】:マンモン(嫉妬)の精神構造を特定。……彼女の本質は「簒奪」ではなく、「喪失への恐怖」です。……過去、彼女は自身が愛したすべての価値を、上位システムによって奪われ続けた記録があります)
「マンモン。お前が欲しがっているのは、俺の力じゃない。……『奪われないという確信』だろう?」
悠真は、ルシフェルたちを制止し、一歩前に出た。
「お前がいくら他人のものを奪っても、お前の心にある『空っぽの宝箱』は埋まらない。奪えば奪うほど、お前はそれが失われる恐怖に支配されるだけだ」
3. 剥き出しの孤独
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!! 何も知らないくせに、偉そうに語らないで!!」
マンモンのドレスが弾け、中から巨大な「黄金の鏡」が姿を現した。それは彼女の本体とも言える魔導具。鏡には、悠真がこれまでに救済してきたベルやベルゼブブ、そして自分を拒絶したアスモデウスの姿が映し出されていた。
「みんな、あなたを見てる……。ボクのことなんて、誰も見てくれないのに! だったら、世界中から価値なんて消えてしまえばいいのよ!!」
マンモンが鏡を叩き割ろうとしたその時、悠真はその鏡に直接手を触れた。
「……なら、俺が定義してやる。お前という存在に、他人の模倣ではない『唯一の価値』を」
悠真の冷徹な論理が、マンモンの心の深淵へと流れ込む。それは救済か、あるいは更なる支配の始まりか。




