第35話:簒奪の牙と、狂愛の共鳴
1. 牙を向く絆
「ガブリエル、目標をロックして。ルシフェル、その首をボクの足元まで運んできてちょうだい」
マンモンの冷酷な声が響く。かつて悠真の盾であり矛であった二人の女性使徒は、意思を失った機械のように悠真へと襲いかかった。
ガブリエルの【情報解析】が悠真の回避ルートを先読みし、ルシフェルの【漆黒の炎】が逃げ場を塞ぐ。自分自身が育て上げ、最高に効率化した連携攻撃が、今度は自分を殺すための凶器となって降り注ぐ。
「……っ、流石だな。俺の教えた通り、一切の無駄がない」
悠真は防戦一方だった。魔力障壁はルシフェルの断罪の剣に紙のように引き裂かれ、意識はガブリエルの精神干渉によって混濁していく。
2. 詰みの盤面
「あはは! 惨めね、天野悠真。全部失って、一人で砂を噛んで死ぬのよ。それが『持たざる者』にふさわしい最後だわ!」
マンモンが黄金の椅子に深く腰掛け、勝利を確信する。悠真のHPは残り10%を切り、ステータス画面には致命的なダメージ警告が点滅していた。
だが、悠真は血を吐きながらも、微かに口角を上げた。
「……マンモン。お前は『嫉妬』で何でも奪えると思っているようだが、一つだけ、計算外の不純物が混ざっているぞ」
「……何ですって?」
3. アスモデウスの遺産
悠真の胸元に刻まれた、アスモデウスの『執着の刻印』。それが、悠真の瀕死の状態に呼応して、どす黒い紫色の光を放ち始めた。
(【天使の図書館:イレギュラー検知】:アスモデウスの残存思念が暴走。……負の情動を糧に、使徒とのパスを『強制再連結』します)
「ガブリエル、ルシフェル! お前たちの主は誰だ? システムの契約か? マンモンの命令か? ……違うだろう。俺への、消えない『執着』だけが、お前たちの真実のはずだ!」
悠真は、アスモデウスから受けた「狂愛の呪い」を、自身の魔力回路を通じて使徒たちへと逆流させた。
『……ぁ……ああ、主……様……』
ルシフェルの剣が、悠真の喉元数ミリで止まる。彼女の瞳に、マンモンの支配を上書きするほどの、昏い情熱が宿る。それは「忠誠」という綺麗な言葉ではなく、アスモデウスが植え付けた「この男を誰にも渡したくない」という根源的な独占欲だった。
「な……!? ボクの支配を、色欲の呪いで塗り潰したというの!?」
「お前は『嫉妬』で奪うが、アスモデウスは『執着』で縛り付ける。……残念だが、彼女の呪いの方が、俺とこいつらの絆には馴染みが良かったらしい」
ガブリエルの演算がマンモンを敵として再認識し、ルシフェルの剣先がマンモンへと向けられる。
「……さあ、奪い合いの続きをしようか。次は、お前の命を俺がもらう番だ」




