第29話:知識の欠落と、毒入りの晩餐
1. 喰らわれる『図書館』
ベルゼブブの権能『万物捕食』が、悠真の存在定義そのものを侵食し始めた。
「あはっ! 美味しい! こんなに密度の高い『知識』、初めて食べるよ!」
ベルゼブブが空空を咀嚼するたび、悠真の脳内にノイズが走る。
(【警告:外部記憶領域、第14層から第22層まで消失。スキル『構造解析』の使用不可】)
「……っ、俺の『知識』を、直接削り取っているのか……!」
悠真の視界から、敵のステータスや構造を示す青い幾何学模様が次々と消えていく。全知の瞳が「盲目」へと追い込まれていく恐怖。氷室咲が加勢しようと踏み出すが、悠真は片手でそれを制した。
「来るな、氷室さん! 近づけばあんたの魔力も、あいつのデザートになるだけだ!」
2. ガブリエルの隠し味
脳内が激痛に震える中、悠真の意識の深層でガブリエルの冷静な声が響いた。
『……主よ、予定通りです。あえて情報の防壁を解き、彼に「特定のデータ」を優先的に喰わせました。……バルクァン、ルシフェル、準備を』
「……ああ、わかっている。……おい、大食漢。俺の知識は美味いか?」
悠真はふらつきながらも、不敵な笑みを浮かべた。ベルゼブブは、デザートを前にした子供のように目を輝かせ、悠真の「核心」とも言える魔力の塊を一気に飲み込んだ。
「ごちそうさま! ……え? ……あれ……? なんだか、お腹が……変だぞ?」
3. 論理矛盾の「食中毒」
突然、ベルゼブブの体が内側から膨れ上がり、苦悶の表情を浮かべた。
(【天使の図書館:カウンター・プログラム『無底の飢餓』発動】)
悠真が喰わせたのは、単なる知識ではない。
「食べれば食べるほど『空腹感』が増幅され、最終的に自分自身の存在すら食べ尽くす」という、論理矛盾の極致にある呪詛だった。
「う、うわぁぁぁ! お腹が空く! 食べても食べても、自分が消えていくみたいだ!!」
ベルゼブブの「食べる」という概念そのものがバグを起こし、彼は自分自身の腕や魔力を無意識に食い千切り始めた。
「主様、今だよ! あいつの胃袋が、自分を消化しようとしてる! 今なら、あいつの『核』に手が届く!」
ベルが叫ぶ。悠真は欠落した知識を補うように、使徒たちの魔力を右手に集束させた。
欠落した『構造解析』の代わりに、悠真は「自らの痛み」を座標にして、ベルゼブブの喉元へと手を伸ばした。
「……ベルゼブブ。お前の空腹を、俺の『支配』で満たしてやる」




