第27話:離反の氷姫と、新たな使徒
1. ベルの覚醒
特対庁の最深部、厳重に秘匿された「天野悠真専用フロア」。そこには、現実の肉体を得た四人目の使徒、ベリアル(ベル)が、巨大なソファの上で丸まっていた。
「……ふわぁ……。主殿、おはよ……。ここは、あの暗い箱の中より、ずっと寝心地がいいね……」
彼女はかつての悪魔卿としての毒気を失い、ただの無気力な美少女のような姿になっていた。だが、その指先は無意識に周囲の電子機器と同期し、膨大な情報を悠真へと流し続けている。
「ベル、気分はどうだ?」
「だるい……。でも、主殿がそばにいるなら、外の世界もそんなに悪くないかな……」
(【観測対象:ベル(元ベリアル)】:状態:現実適応率80%。能力:『遍在する電脳』。……彼女が起きている限り、悠真の視界には世界中の防犯カメラや秘密通信が常時表示される)
2. 氷室咲の決断
その時、フロアの重厚な扉が開いた。入ってきたのは、特対庁の制服ではなく、動きやすいタクティカルウェアに身を包んだ氷室咲だった。
「天野……いえ、悠真。特対庁の上層部は、世界冒険者連盟(WAF)に屈したわ。彼らはあなたの身柄と、その『知識』を国際管理下に置くことを正式に決定した」
彼女の表情は氷のように冷えていたが、その瞳には強い意志の火が灯っていた。
「私は、あなたを『検体』にするような組織にはもう戻らない。……今日付けで特対庁を辞職したわ。これからは、あなたの『個人秘書』として、あなたの野望に同行させてもらう」
悠真は微かに口角を上げた。S級ランカーであり、組織の象徴だった彼女の離反は、特対庁にとって致命的な打撃となるだろう。
「いいんですか? 安定したエリートの椅子を捨てて、指名手配犯になるかもしれない男についてくるなんて」
「安定なんて、あなたの隣にいる以上に退屈なものはないわ」
こうして、悠真のチームは、三人の元悪魔卿に加え、人類最強の一角である氷室咲という「実戦戦力」をも手に入れた。
3. 五人目の予兆:暴食の飢餓
悠真がベルから共有された「世界監視網」に目を通していると、ある不穏なデータが目に留まった。
「……ベル、この地域の食糧消費データがおかしい。異常に跳ね上がっている」
「ん……? それ、フランスの地方都市だね……。一週間前から、その街の住民が『いくら食べても満たされない』って、パニックになってるみたい……」
画面には、餓鬼のように痩せこけた人々が、家畜や生ごみすら貪り食う異様な光景が映し出されていた。
(【天使の図書館:自動解析】:事象:概念的飢餓。推定原因:五人目の悪魔卿、ベルゼブブ(暴食)の覚醒。特性:物質的な食事ではなく、他者の『生命力』を食糧として変換している)
「怠惰の次は、暴食か。……氷室さん、最初の仕事だ。フランスへ飛ぶ準備を」
「了解よ。……でもその前に、ルシフェルとバルクァンが、あなたのための『移動要塞』を用意したみたいよ」
窓の外には、バルクァンの財力とベルの技術が結晶化した、ステルス機能搭載の超大型プライベートジェットが浮遊していた。悠真の「成り上がり」は、もはや一国の枠を飛び出し、世界全土を舞台にしたチェスへと進化していく。




