第23話:禁じられたログと、外側からの審判
1. 無意識の最深部『最果ての学舎』
悠真がベリアルの「夢」に同調し、沈み込んだ先にあったのは、黄金の草原でも豪華な王宮でもなかった。そこは、色褪せた机と椅子が並ぶ、静まり返った「放課後の教室」のような空間だった。
(【観測対象:ベリアルの無意識領域】:特性:データの忘却墓場。ここにある情報はベリアル自身もアクセスを拒絶している「堕天前の記憶」の断片である)
悠真は、教室の中央にある一台の古い端末に触れた。
「ガブリエル、このログを解析できるか?」
『……主よ、これは驚きました。このVRMMO『エリュシオン』の基幹プログラムの一部に、天界の知識体系が混入しています。ベリアルは、自分の記憶をサーバーのOSそのものに変換して、この世界を構築したようです』
つまり、このゲームを破壊することは、ベリアルの魂を物理的に引き裂くことと同義だった。悠真が救済(30話)に向けて慎重に動かなければならない理由がここにある。
2. 現実世界での危機:サーバー破棄計画
一方、現実世界の特対庁本部では、氷室咲の不在を突いて、強硬派のランカーたちが動き始めていた。
「意識不明者が1億人を超えた! もはや悠真一人のハッキングで解決できる規模ではない。サーバーを物理的に破壊し、悪魔卿ベリアルを強引に現実世界へ引きずり出すべきだ!」
声を上げたのは、アメリカの最大手ギルド『リバティ』から派遣されたS級ランカー、アイアン・デューク。彼はベリアルの能力を「人類に対する宣戦布告」とみなし、東京にあるメインサーバー・センターへの爆撃すら示唆していた。
「お待ちください! サーバーを破壊すれば、中に閉じ込められた人々の脳に致命的な負荷がかかります!」
バルクァン(元マモン)が財務官の立場から制止するが、力こそが正義と信じるデュークは聞く耳を持たない。
「犠牲はやむを得ない。悪魔卿一人のために文明が停滞するなどあってはならないのだ。……実行は48時間後。それまでに解決できないなら、我々が動く」
3. ベリアルの目醒め
仮想空間の「学舎」に、地響きのようなノイズが走った。
現実世界での「サーバー破壊」という殺意を敏感に察知し、ベリアルの無意識が防衛反応を示し始めたのだ。
「……ねえ、どうして……。どうしてみんな、放っておいてくれないの……?」
教室の隅に、膝を抱えて座る少女の幻影が現れる。それはベリアルの本来の姿、元大天使スロウスの思念体だった。
「外は怖い。壊されるのは嫌。……だったら、みんな一緒に、もっと深い眠りに落ちればいいんだ……」
ベリアルの瞳が、虚ろな紫色から、すべてを拒絶する漆黒へと染まっていく。
仮想世界全域で、「心地よい眠り」が「死のような昏睡」へと急速に悪化し始めた。
「主よ、タイムリミットです! 48時間以内に彼女の深層心理にある『拒絶の核』を書き換えない限り、現実の爆撃か、仮想世界の精神死か、どちらかが訪れます!」
「……上等だ。ベリアル、お前が引きこもりたいなら、俺がその扉を無理やりぶち破ってやる」
悠真は、学舎の奥にある「禁じられた扉」へと手をかけた。




