第19話:深海の帰還と、揺らぐ序列
1. 崩壊する深海都市
精神世界での激闘が終わり、悠真の意識が現実の肉体へと戻ったとき、視界に飛び込んできたのは崩落する海底都市の断末魔だった。
魔力源であったサタンが変貌したことで、ゲートの構造を維持していた魔力の糸が次々と断ち切られているのだ。
「……主よ、お怪我はありませんか?」
傍らには、純白の鎧を纏ったルシフェルが静かに佇んでいた。現実世界においては、彼女の姿は悠真以外の人間には「高密度の光の粒子」としてしか視認できないよう、ガブリエルが情報操作を施している。
「ああ、大丈夫だ。それより、氷室さんたちは……」
悠真が周囲を見渡すと、そこにはサタンの『絶対服従』から解放され、虚脱状態で倒れ込む氷室咲とS級ランカーたちの姿があった。ゲートの崩壊に伴い、海水が凄まじい圧力で流れ込み始めている。
「ルシフェル、力を貸せ。ここを全員連れて脱出する」
「御意。我が主の命ならば、この海すら切り裂きましょう」
2. 救世主の凱旋
【スキル:絶対支配——空間干渉】
悠真は新たに得たスキルを発動した。周囲の「水の流れ」という物理法則を一時的に掌握し、迫りくる海水を押し留める。
さらに、ルシフェルが放つ神聖な魔力が、気絶していたランカーたちの肉体を保護する結界となった。悠真は、自ら氷室咲を抱きかかえ、崩壊するゲートの出口へと最短距離で跳躍した。
(【効率化された動作(ルーティン・最適化)】:現在のB級ステータスにより、これまでの数十倍の精度と速度で実行可能)
数分後。東京湾の海面に、巨大な水柱と共に悠真たちが飛び出した。
待機していた特対庁のヘリや救助艇の隊員たちは、その光景を呆然と見守っていた。日本最強のS級チームが全滅しかけたゲートから、一人の「C級(表向き)」の少年が全員を救い出したのだから。
3. 三人の使徒、集結
数日後。特対庁の極秘医務室。
ようやく意識を取り戻した氷室咲は、自分のベッドの側に立つ悠真を見て、複雑な表情を浮かべた。
「……また、あなたに助けられたようね。天野」
「運が良かっただけですよ。サタンは、自滅したんです」
悠真は淡々と嘘を告げる。だが、氷室の瞳には、以前のような「格下を見る視線」は微塵もなかった。彼女の『情報の独占欲』は、悠真という「底知れない深淵」への畏怖へと変わりつつあった。
その頃、特対庁の別室では、三人の元悪魔卿が顔を合わせていた。
「あら、お姉様。随分と可愛らしい姿になられて」
ガブリエル(元レヴィア)が、皮肉めいた、しかし嬉しそうな微笑みを浮かべる。
「フン……。相変わらず口の減らない妹たちね。だが、認めざるを得ないわ。あの主の隣こそが、私の新しい居場所よ」
ルシフェルは、誇り高く腕を組んだ。
「これで、『情報』『財』『武力』。主を支える三本の柱が揃いましたね」
バルクァン(元マモン)が、満足げに手帳を閉じた。
悠真は、自らのステータス画面を見つめた。
* ランク:B
* 保有使徒:ガブリエル、バルクァン、ルシフェル
* 次の目標:悪魔卿ベリアル(怠惰)
(悪魔卿はあと四人。俺の成り上がりは、もう誰にも止められない)
特対庁という組織すら、もはや悠真にとっては自分の目的を果たすための「道具」の一つに過ぎなくなっていた。




