第18話:傲慢なる王の失墜と、魂の調律
1. 精神の聖域
悠真の拳がサタンの胸元に触れた瞬間、周囲の深海の風景がガラスのように砕け散った。
物理的な衝撃ではない。二人の魔力が限界を超えて干渉し合った結果、意識が直接結びつく「精神共有状態」へと突入したのだ。
真っ白な空間。そこに、軍服を脱ぎ捨てた、傷だらけの大天使長ルシフェルが一人、座り込んでいた。
「……何の真似かしら。私の心の中に入り込んで、私の無様を笑いに来たの?」
彼女の声には、先程までの威圧感はない。あるのは、数千年の孤独が結晶化したような、冷たい静寂だけだった。
(【観測対象:ルシフェルの魂】:状態:自己崩壊寸前。原因:『完璧でなければならない』という強迫観念と、それに応えられない世界への失望)
「笑いに来たんじゃない。お前を、その『玉座』から引きずり下ろしに来たんだ」
悠真は、自らの意識を削りながら、ルシフェルに歩み寄る。
「お前は一人で立ちすぎた。だから、誰も隣に並べなかった。レヴィアもマモンも、お前の背中しか見ていなかった。だが、俺は違う」
2. 最後にして最強の『命令』
ルシフェルが顔を上げる。その瞳には、黄金色の光と漆黒の闇が混ざり合っていた。
「……思い上がるな、人間。私は王よ。誰にも跪かず、誰にも頼らず、この世界を導く者。私を救うなどという傲慢、許されるはずがない!」
彼女が右手をかざす。それは、精神世界における最大出力の言霊だった。
「オーダー! 『天野悠真、その存在を消去せよ』!」
空間そのものが悠真を否定し、消し去ろうと収縮する。意識がバラバラに砕けそうな激痛が走る。
だが、その時。悠真の背後に、二つの温かな光が重なった。
『主よ、屈しないでください! 私の情報が、貴方の存在を定義し続けます!』(ガブリエル)
『主よ、耐えてください! 私の魔力が、貴方の魂を補強します!』(バルクァン)
二人の使徒の想いが、サタンの絶対的な命令を押し返した。
「……独りで出す命令は、もう届かない。俺には、お前が捨てた『絆』という知識がある!」
悠真は、サタンの細い肩を力強く掴んだ。そして、図書館の奥底に秘められていた、最も純粋な「慈愛の知識」を彼女の魂に直接注ぎ込んだ。
3. 三人目の使徒
「……ぁ……あぁぁぁ……!!」
黒い軍服が光の粒子となって消えていく。サタンの背中から生えていた漆黒の羽根が、一枚、また一枚と、眩い白銀の色へと塗り替えられていく。
【スキル:天使の図書館(全知の瞳)——真の能力解放:堕天魂の浄化(超高密度)】
【悪魔卿サタン(元大天使長ルシフェル級)の魔力、スキル、記憶の吸収を開始】
これまでの二人とは比較にならない、暴力的とも言えるほどのエネルギーが悠真の肉体を駆け巡る。
【天野悠真:ランク C級 → B級】
【筋力:C → B+】
【魔力:B+ → A】
【新規習得スキル:『絶対支配』(対象の魔力循環を一時的に掌握・停止させる)】
光が収まった時、そこには純白の鎧に身を包み、長い金髪をなびかせた、神々しいほどに美しい騎士が立っていた。
彼女は戸惑ったように自分の手を見つめ、やがてゆっくりと悠真に向き直り、騎士の礼を捧げた。
「……負けたわ。私の『傲慢』も、この『魂』も、全て貴方のもの。……我が主、天野悠真。このルシフェル、これより貴方の剣となり、盾となりましょう」
最強の悪魔卿、サタンの救済。それは、悠真が「真の強者」として世界に君臨するための、決定的な一手となった。




