第10話:欲望の罠(トラップ)とC級突破の糸口
1. 無効化される欲望のトラップ
『霞ヶ関金庫』のゲート内部は、金色の魔力が渦巻く、絢爛でどこか俗っぽい雰囲気に満ちていた。通路の壁面には、高純度の金塊や宝飾品が無造作に転がっている。
悠真が通路を進むと、床の一部が怪しく光り始めた。
(【観測対象:欲望の罠(強欲トラップ)】:起動条件:視界に入った財宝に対し、0.5秒以上の執着を示すこと。効果:ランダムでC級モンスターが出現、または装備品の魔力伝導率を急激に低下させる)
このトラップが多くの冒険者を苦しめていた原因は、その起動条件のシンプルさにあった。誰もが財宝に目を奪われ、無意識に欲望を示してしまうのだ。
悠真は、財宝を観測情報としてのみ処理し、一切の感情を挟まなかった。
【効率化された動作(ルーティン・最適化)発動】
彼の視線は、財宝を捉えても、瞬時にその先の魔力ノードへと切り替わる。悠真の体は、欲望のトラップの起動条件を完全に回避する、最適化された歩行パターンを維持した。
トラップは起動せず、転がっている金塊も、悠真にとってはただの飾りでしかなかった。
「欲望のトラップは、知識の前には無力だ。俺が求めるのは、力と知識だけだ」
悠真がトラップを回避しながら進むと、深層から一人のC級ランカーが血まみれで逃げ帰ってきた。
「やめろ!俺の魔石を奪うな!俺が命懸けで稼いだものだ!」
彼は、実際には誰もいない虚空に向かって叫び、自分の剣で自身の腕を傷つけていた。強欲の魔力による幻覚と自己攻撃だ。
(【観測対象:C級ランカー】:現在の状態:マモンの強欲魔力に完全に精神を支配されている。救済不可能)
悠真は、自滅していくランカーに目もくれず、先に進んだ。
2. マモン眷属の解析
さらに奥に進むと、マモンが創り出した眷属が現れた。それは、巨大な金色の甲羅を持つカメ型のモンスター、『ゴールドタートル』だ。
「グルアアア!」
ゴールドタートルは、その甲羅の硬さで有名だが、それ以上に冒険者を悩ませるのは、その甲羅が冒険者の所持金や魔石の数に比例して防御力を増すという特性だった。
(【構造解析完了:ゴールドタートルの甲羅】:特性:外部からの欲望の魔力を受け取り、防御力に変換する。弱点:甲羅と地面が接触する一瞬の隙間。攻撃角度:水平からマイナス5度)
通常、C級ランカーたちはこのモンスターを倒すために、高価な魔力弾や強力なスキルを乱用し、結果として多額の出費を強いられ、マモンの策略に嵌っていた。
しかし、悠真は違った。彼の目的は、経験値とマモンの力を得ることであり、無駄な金銭的支出はしない。
悠真は、ゴールドタートルの甲羅が地面に接触する、解析上の僅か0.01秒の瞬間を狙った。
【効率化された動作(ルーティン・最適化)発動】
悠真のショートソードは、D級の非力な筋力にもかかわらず、その最小の隙間に滑り込み、モンスターの甲羅を貫いた。
バリンッ!
ゴールドタートルは甲羅ごと砕け散り、膨大な経験値が悠真に流れ込んだ。
「これだ……!」
この一撃で得られた経験値は、通常のC級ゲート周回の十倍以上だった。マモンの眷属は、強欲の魔力で防御を固める代わりに、弱点を突かれた時の経験値還元率が異常に高いという特性があったのだ。
悠真のステータスは急速に上昇し、C級への壁が崩れ始めた。
3. C級突破の兆しとマモンの所在地
悠真は、ゴールドタートルを数体討伐した時点で、体感としてC級へのラインを突破したことを確信した。
(C級への壁は破った。そして、この眷属の発生場所の傾向から、マモンの製造拠点も、ほぼ特定できる)
悠真は、再び特対庁の氷室咲に暗号化された座標を送信した。
『マモン眷属の発生ノードを解析。悪魔卿マモンの製造拠点は、このゲートの最深部ではなく、地下金庫の換気シャフトに存在する可能性が高い』
悠真は、氷室咲がS級ランカーを送る前に、単独でマモンの懐に飛び込むため、換気シャフトの入り口へと向かった。そこは、多くの冒険者が「ただの空気孔」と見過ごす、マモンらしい地味で目立たない場所だった。




