我慢する人生は、もうやめる
こんなことが許されるのか。あまりにもひどいじゃないか。
けれど私は呆然と過ぎ去る兵士の背中を見送るしかなかった。
絶望。
その二文字が頭をよぎる。しかし驚いたのはその後だった。
「おお!ご苦労さんです!今回もガッツリ勝ってきてくだせぇよ!」
「兵士の旦那!うちの干し肉持っていきな!サービスするよ!」
「へへっ、戦争かぁ。こりゃあ勝った後の景気が楽しみだなぁ!また敵国の安くていい奴隷が入ってくるぞ!」
通りを見れば、近所の人たちは兵士たちに手を振り、あるいは歓声を上げている。誰一人として、重税や兵役に不満を漏らしている様子がない。むしろ、お祭り前のような高揚感すら漂っている。
「・・・なによ、これ」
戦争だよ?人が死ぬんだよ?なのに、どうしてこんなに明るいの?背筋がゾッとするような感覚。
ここは、私の知っている常識が通じない世界なんだ。
平和ボケした日本の感覚のままじゃ、ここでは食い物にされる。
「・・・どうしよう」
店の中に戻り、ガチャンと鍵を閉める。
静まり返った店内。女神様からもらった隠し扉の中の金貨が、急に頼りなく思えてくる。このまま何もしなければ、半年後には路頭に迷う。
奴隷?死んでもごめんだ。
(——稼がなきゃ)
OL時代の、あの胃がキリキリするような焦燥感が蘇る。
どうやって稼ごう。一番簡単なのはどこかで働かせてもらうのが一番だ。
——けれど。
こんな異世界の右も左もわからない状態の私が働きに出たらどうなるのか。しかも無駄に希少なハイエルフという立場がそれを難しくさせるのも容易に想像がつく。
なによりあんな価値観の人たちの中で、その下で働けというのか。
「・・・いやだ」
それだけは絶対に嫌だ。ふと、顔を上げる。
そこには前の住人が残していったカウンター、ショーケース。
古びているけれど、磨けばまだ使える棚。
「・・・お店」
ここは、私の城だ。
誰にも指図されず、私のペースで私ができることで生きていける。
「やるしかない」
私の中でなにかがふつふつと煮えたぎってくる。
苦しんだ自分の能力、親友の死、望んでもいない転生、理不尽な要求。
日本という、平和が享受されているからこそ悩んできた私の力。けれど私は、そんな窮屈な世界が大っ嫌いだった。占いという力のせいで私の感情は押し込まれ、固められ。
けれどここは違う。
自分が生きるためには理不尽を跳ね返すだけの力がなければ、生きられない。
覚悟を決めた。いや、我慢をしないことを決めた。
世界が理不尽を押し付けるなら、私はもう我慢しない。
この世界で、この店で、何がなんでも生きていくんだ。
翻訳スキルと未来視。そしてなけなしの残り半分の資金。これらをフル活用して、絶対に生き残ってやる。




