ぽっかりと穴のあいた心
◇
ピィー!というヤカンから吹き出す蒸気に、私の意識は戻ってきた。
「あちちっ」
水と合わせてぬるま湯を作る。
風呂なんて贅沢なものはなく、置いてあったタオルで体を拭う。
先ほどまで埃っぽい部屋を掃除していて小汗をかいていたので、さっぱりした気持ちになれる。
既に陽は傾き、薄暗くなった部屋には魔石を埋め込んだライトが弱々しい光を発していた。
どういう原理で動いているかは謎だけど、私に埋め込まれた記憶だとこの世界には魔法がある。魔術がある。魔物がいる。貴族がいる。王様がいる。
「ごくごくありふれた異世界」なんて言っても差し支えない。
そんな世界で、私はどうしたらいいのだろう。
実は今の私から占いの力はなくなっているということには気づいているのだが、同時に女神様から与えられた未来視というスキル、これも似たようなものだった。
今の所、スキルレベルは1。
効果は「他人または特定の場所の二十四時間先までを視ることができる」というものだ。
つまり、期限付きの占いみたいなものだ。
占いのせいで親友を亡くした身(少なくとも私はそう思っている)としては、同じような力を使うことに拒否感があった。
親友を失った虚無感は、いまだに私のこころにぽっかりと穴を開け、何もかも飲み込んでいく。
湯を沸かし直して白湯を入れ、一人テーブルにつく。
「・・・」
言葉は出ない。
とくに今は自分でも混乱していると自覚している。
寝てしまおうか。時が解決する、なんて簡単に思わないけれど、もう何もする気が起きない。
とくにこの世界ではまだまだ魔石を使用したランプなどを一晩中つけておく、というようなことは裕福な家庭がすることであり、庶民はさっさと寝てしまうらしい。
そうしよう。
白湯を飲み干し、キッチンに隣接している寝室に向かう。
——猫が、いた。




