親友は、私の占いで死んだも同然だ
「俺を占ってほしい」
男まさりな彼女は金曜日の夜、私の家に上がってくるなりそういうと、脇目も降らずに私を見つめた。
何を聞いても答えない。ただ頑なに占ってほしいとだけ言ってくる。
占いは辞めたとしっているはずなのに、どうしてもと言って聞かないのだ。
さすがに鬱陶しくなって「何があったのかいうのが面倒ならそれすらも占うよ?」といえば「おう、そうしてくれ。そして俺にその答えをおしえてくれ」とまでいう。
そんなことはない。
私の占いは適当で、全部口から出まかせで。
その実、私の言葉が、力を持っているのだ。
けれどその親友はどうしてもと言って動かず、夜になり、朝になり。
「——わかった、わかったわよ。占えばいいんでしょ占えば。どうなっても知らないわよ」
日が変わってせっかくの休日。いくら親友といえど予定にない彼女で潰されたら癪に触るのだ。夜のおしゃべりは楽しかったけど。
「タロットでいいわね。あれなら大体のことは占えるし」
タロット占い。
簡単にいえばなんでも占える、困ったときはコレ、といった具合に私は使っていた。
手相は正直人によって千差万別だし、じろじろと他人の手を見るのも気が引けた。姓名判断は今やスマホで検索したほうが早い。水晶?リサイクルショップに売ったら一千円と言われた。三万円でかったのに。
私は引き出しの奥底にあったタロットを引っ張り出してきた。こればかりは捨てられなかった。父が十歳の誕生日に買ってくれたものだったから。
長いこと触っていなくても手に馴染むカード。昔取った杵柄、とまでは年齢を重ねていないけど。
——占いの結果は、あまり良くなかった。
「どうした、教えてくれよ」
「慌てないの。読み解くのに時間かかるんだから」
嘘だ。何千何万とタロット占いをしてきたのだ。一目見れば全てわかる。
「今、困っている。これからちょっとばかり高い困難が降りかかる。それを乗り越えられるかは、貴女次第」
「——そんなふわっとした占いだったか?」
「うっさいわね、占いなんてそんなものよ。天気予報じゃないんだから」
「ちなみに、乗り越えられなかったらどうなる?」
「・・・あんまり良くない。身を滅ぼすって出てる」
——身を滅ぼす。
解釈はいくらでもできる。
「ねぇ、お金に困ってるの?」
「ちがう」
「じゃあ男?」
「ちがう」
「仕事関係」
「当たらずも、遠からず」
「そっか」
じゃあ何もいうまい。
仕事関係ならたとえ身を滅ぼすといっても、酷いことにはならないと思った。
「ま、どうしても困ったらうちにおいでよ。居候の一人や二人くらい、養ってあげるわよ」
「そんなんじゃないんだが、まぁもしもの時はそうだな、頼む」
そういって彼女は家を出て行った。
「また来る、今度は美味しいケーキでも買ってくるよ」と別れを告げて。私が大の甘党だと知っているのは彼女くらいだった。
——翌週、彼女の訃報が入った。
死因は転落死。
階段で足を滑らせて転がり落ち、打ちどころが悪くそのまま死亡。
原因は書類を読みながら歩いていたことによる不注意。
その知らせを聞いて、私は仕事を辞めた。




