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好きな人の“好き”を、私は尊重しない自由を選ぶ  作者: 妙原奇天


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第3話「時間割改革」

 時間割は人格の設計図だ――そう書いた紙を机の前に貼り、私は朝の光で紙縁が透けるのを見た。昨日までの私の設計図は、丁寧に塗り分けられているようで、実は他人の色で上書きされやすかった。授業、委員会、舞踏会の段取り、ユリウスの練習相手、同級生の恋路相談。どれも不要ではない。でも、どれも「空白」を嫌う埋め草の性格を持っている。空白は不安を呼ぶ。予定で隙間を埋めるのは、布団の綿を詰めるみたいに安心する。だが、それがいつしか窒息へ傾く。


 私は週次の時間割に、新しく一枚の空のマスを設けた。誰のためでもない、目的未定のブロック。欄外に、鍵の小さな絵を描く。鍵は開けるためにある。開けるためには、鍵穴を探す時間が要る。見たことのない扉の前に立つには、予定の空白が必要だ。


 空白の一マス――一週につき一回、半日ぶん。そこに何を置くかは、週が始まってから決める。未来の自分に任せる練習。従来なら、躊躇なく「ユリウスの手伝い」「舞台補修」「友人の相談」で埋まっていただろう。私はペン先をマスの上で一度止め、息を通してから、横に細字で書く。


 ――今週:王立文庫・古写本整理(見習い)


 報酬は少額。けれど、たぶん未来の扉に繋がる。静かに積む作業が、今の私の心の速度に合っている。


 *


 王立文庫は学院の背後、小さな丘の内側をくり抜いた造りだ。上階には開架の新刊が並び、人の出入りが多い。地下は反対に薄暗く、時計の音だけが正確に動いている。階段を降りると湿り気の違いで皮膚が空気の質を理解し、呼吸が自然に深くなる。匂いは蜜蝋の甘さ、羊皮紙の粉、古いインクの鉄の気配、そして干草に似た束ねられた紙の温い匂い。音が吸い込まれる。言葉は、小さくなるほうがよく届く。


 私は受付で見習いの腕章を受け取り、案内に従って地下二階の作業室へ入った。長机が三つ並び、卓上に白布と刷毛、ピンセット、綿手袋、温湿度計、薄い鉛板の重し、そして小さな砂時計。窓はない。壁際の棚に「水洗不可」「金箔剥落注意」「指示札確認」と書かれた札がいくつも差し込まれている。作業室の真ん中、机の端で若い司書補が書類を束ねていた。


 「見習いのレーナさん?」


 青年は顔を上げた。灰がかった金髪を無造作に結び、目は澄んだ灰色。声は押し付けがましくない質量で落ちる。名札には「ノエル・ヴェルディ」とある。私は軽く会釈した。


 「はい。今日からお世話になります」


 「こちらこそ。まずは作業の流れを説明します。言葉が専門的に聞こえたら、すぐ止めてください。専門の言葉は工具です。握り方を間違えると怪我をします」


 要領の良い前置きだ。私は頷く。ノエルは油紙に包まれた一冊を慎重に開いた。羊皮紙の薄い冊子。表紙は退色し、背の綴じ糸が緩んでいる。小口に鉛筆で小さく「S-143」と書き込み。彼は指を湿らさず、空気でページをめくる。


 「基本は三つです。状態の“観察”、原因の“推定”、介入の“最小化”。――観察から。紙とインクの具合を、匂いと手触りで見ます。インクは鉄胆汁てつたんじゅう系。酸化鉄が多いと、時間で紙を焼きます。羊皮紙は動物の皮を薄く伸ばしたものなので、湿度に敏感。湿度が高いと波打ち、低いと割れやすくなる。温湿度計は机の真ん中。ここに置いた数字が、この机の“天気”です」


 ノエルの説明は、専門の言葉と平たい言葉の混ぜ方がうまかった。「鉄胆汁インク」を言った直後、「鉄の気配」と嗅覚に翻訳する。「コリレーション(相関)」と「目が合う回数」の例えで繋ぐ――と、まるで統計の授業の導入みたいに話しを噛み砕く。私は吸収速度が速い。けれど、その速度を自覚していなかったのだと、ふと気づいた。昨日まで、私は自分の学びを「誰かの助け」を通してしか確認してこなかった。ユリウスの横顔を眺め、彼の動きに合わせてこちらの段取りを最適化する。それ自体は好きだと思っていた。でも、本当に好きなのは、目の前の素材を理解して、最小限の手数で未来に渡すこの手触りだ。インクの経年、綴じ糸のテンション、背のクラックを見て、修復より「そのままが正義」の判断を下す勇気。それが好きだ。


 「ここに薄いシミがあるでしょう」


 ノエルが示したのは下部マージン、親指の腹ほどの淡褐色。


 「これは水ではなく油脂。指の脂か、蝋燭の蝋かもしれません。染み抜き剤を使うとインクが流れます。ここは“記録”に回す。汚れを消すことが正義ではない。汚れにも、当時の空気が含まれる。――インクの染み抜きは“可能でもやらない”判断の代表です」


 私は身を乗り出しそうになる体を抑え、呼吸を整えた。舞台裏での私なら、目に見える不備は即座に取り去るほうが効率だと判断していたはずだ。けれど、文庫の地下でそれは傲慢になる。過去に対して「今が正しい」と言い張るのは、時間の暴力だ。私は小さく頷き、シミに「×」ではなく「△」の印をメモに書いた。介入の保留を示す記号。午前のうちに、私はこの机の“天気”を身体で覚えはじめていた。


 「背綴じの糸は麻。弱っているところだけ補強する。『全部結び直す』は気分がいいけれど、しない。気分を作業に混ぜないのが基本です」


 ノエルは麻糸を一本手に取り、針の向きを示した。「針穴は古いほうを使う。新しく穴を開けると、未来の修復者の選択肢を減らす」。私はその言葉に、境界の地図の一節を重ねた。――自分の選択のために線を引くが、他人の未来に壁を建てない。似ている。似ているものは、別の場所を照らす。


 砂時計が音もなく落ち切る。ノエルがそれを逆さにした。「集中の単位はこの砂一回分。二回やったら十呼吸分の休憩。休憩も仕事です。休みなくやると、手が“善意の暴走”を起こす」


 善意の暴走。昨日まで何度も、私の手がやらかしたことの名前だ。私は苦笑をこぼし、手袋を外して指を伸ばした。薄い紙粉が指腹に残る。指粉を見つめる時間があるのが嬉しい。舞台では片付けに追われ、指粉を見る暇はなかった。


 午前の終わり、ノエルはさりげなく尋ねた。「学院の委員は、降りたんですよね」


 「はい。代わりに“仕組み”を置いてきました」


 「仕組みは、人より長持ちします」


 短い言葉が重い。青年の声音に押しつけはない。判断の痕跡だけが残る。押し付けがましくない教え方は、信頼の香りがする。私は「ありがとうございます」とだけ言い、午後の作業に移った。


 午後は、インデックス付け。背に書かれたかつての分類記号を、現行の体系に対応させる作業だ。似ているが違う記号を、ひとつずつ対応表で照らす。S-143は旧王暦の説教集、現在の記号ではRP(religio-practica)群の第四樹に入る。私は差分を紙片に書き、小さな箱に収めた。箱には「誤植注意」「旧記号の魅力に酔わない」と注意書き。魅力に酔うのは簡単だ。古い記号には時間の埃がきらきら混ざる。けれど、酔いは判断を甘くする。この部屋では、甘さが刃になる。


 ふと気づく。私の「好き」は、こういう手触りの学びだったのだ。素材に触れ、名前を与え、未来の誰かの手が滑らかに動けるように最小限の段差を削る。昨夜まで、ユリウスの横顔を眺める時間に上塗りされて見えなくなっていただけ。好きが見えなくなるのは、嫌いが多すぎるからではない。好きの上に、別の誰かの好きが積み重なって層を作るからだ。層は厚いほうが暖かいが、重みで感覚が鈍る。


 夕刻が近づき、作業を切り上げる時間になった。ノエルは作業記録の欄に私の名を記し、「吸収が速いですね」とだけ言った。褒め方が、最小限で気持ちよい。「速い」は「雑」を褒めることもあるが、彼の「速い」は「理解の筋肉がある」のニュアンスを含んでいる。私は素直に笑った。


 「空白の一マス、悪くない選択でした」


 「空白に自分の時間を置きたいと思って」


 「空白は不安です。未来の自分を信用できない人間ほど、空白を嫌う。信用は練習が要る。ここは練習場に向いています」


 ノエルの言う「練習」は、手首の角度を直すような練習のことだ。私は腕章を外し、机の上の砂時計を見た。砂の上に、一本の細い毛が落ちている。私の髪だろう。砂の白の上の黒。時間の流れるさまに一本の線。私はなぜだか、その「一本」が愛おしかった。


 *


 文庫を出て学院の門に向かうと、空の色は薄い青鼠に傾き、街路樹の葉の裏が風に返った。門の前で、アナスタシアと鉢合わせた。制服の肩章の蒼が夕光に沈み、彼女の目の蒼さだけが影を内側から照らしている。彼女は毒のない笑顔で礼を取った。


 「あなたが舞台周りを降りたの、良い判断だと思うわ」


 挑発ではない。彼女は彼女で、主役を続ける筋肉を鍛えている。主役の筋肉は、華やかなだけでなく、孤独の重さに耐えるための筋肉でもある。私は首肯した。


 「あなたの“好き”に拍手は送る。でも、私の空白は譲らない」


 「空白は、人に分けられない種類の贅沢ね」


 「贅沢というより、必需品。私には、そうでした」


 彼女は短く笑い、耳の後ろに髪を払った。「舞踏会の台詞、あなたのものを彼が今朝ようやく読み上げたわ。時間差でやってくる言葉ほど、よく効くの」


 彼――ユリウス。彼の指に結ばれていた蒼い紙片を思い出す。私の言葉は彼に届くのに時間がかかる。けれど、時間がかかったぶん、彼の中で噛まれ、消化される。咀嚼音は聞こえないが、表情に出る。私は彼の表情を未来に見るだろう。私の今夜の予定は、彼の表情待ちではない。空白の一マスは、譲らない。


 「あなた、王立文庫の地下に通うつもり?」


 「たぶん」


 「なら、よかった。わたしの扇、骨の一本が割れそうで。修復の相談に、文庫の人を紹介して」


 すぐに、と言いかけて、私は地図の線を見た。今週の空白はもう文庫で使った。紹介は時間の項目に入る。私は日取りを提案した。「来週の第三日、午後の“余白”。その枠で、紹介を――」


 「余白の予約、ね。いい言葉」


 アナスタシアは踵を返し、門の外へ歩いた。背筋がまっすぐで、重心の移動が舞台の上より静かだ。彼女は主役の筋肉で日常を歩き、私は境界の地図で日常を歩く。歩幅は違うが、方向は各自の中心へ向かう。それで十分だ。


 *


 寮の部屋に戻ると、机の上の時間割に新しい鉛筆の跡が一本増えた。《空白の一マス》の欄に、淡い指紋が重なる。文庫の粉だ。私は指でなぞり、粉を落とした。粉は消えたが、指先に手触りが残る。今日の空白が、ただの無計画ではなく、鍵として機能したことの証。鍵は、回して初めて鍵だ。


 私は時間割をゆっくり更新する。授業の欄に「統計入門:共分散と相関の違い/記述の倫理:事実の順序を保つ」を書き、余白の欄に「散歩(必須)」を太字で加える。散歩は“余白”でなく“項目”だと、昨日決めた。余白は他人が入りやすい。項目は、自分で守れる。


 机の引き出しから、昨日束ねた古い手紙を取り出す。封は切らない。紐は緩めない。見るだけで十分だ。誰かの幸福を祈って自分を少しずつ削っていた頃の私――彼女は確かに必要だった。あの時は、そうやってしか生きられなかった。けれど、今は鍵を持っている。紐は鍵の代用品だ。代用品は、鍵ができたら役目を終える。


 ランプの光を弱め、私は机の右上に小さなカードを置いた。蒼い細いリボンを通し、今日の感想を短く。


 ――空白は、不安の器。器に水を張れば、鏡になる。


 文庫で見た砂時計の白が、私の視界に重なる。砂は落ちて、器の形を正直になぞる。器が歪んでいれば、砂丘も歪む。器を整えるのが時間割の仕事だ。私は今日、器に空白を一マス作った。砂はそこに音もなく積もった。音がないぶん、積もり方の美しさに気づけた。


 ベッドに腰を下ろしたとき、扉が小さく叩かれた。廊下側から、二回。私は立ち上がり、ドアノブに手をかける。鍵はかけていない。扉を開くと、ユリウスが立っていた。髪に風の跡がつき、頬に薄い砂埃。彼は手短に用件を切り出した。


 「レーナ。今度の練習で新しい曲をやる。『群青の間奏』。俺が苦手な二拍三連が出てきてさ。足の置き方を見てほしい。……いや、頼む、じゃなくて、いつか、君の地図の“余白”が合えば」


 言い直した。彼の言葉は、遅れて届く。遅れても、変わる。私は扉の内側に立ったまま、頷いた。


 「私の“余白”は、予約制よ」


 「だよな」


 彼は笑って、しかし笑いすぎなかった。「いつもの俺なら、君の空白に自分を滑り込ませてた。今は、滑り込まない」


 「ありがとう」


 彼は踵を返し、そのまま廊下の明かりに溶けた。扉を閉める。ラッチの音が、今日の終わりに鍵を刺す。私はゆっくり息を吐く。胸の内側に、拍手の残響が小さく生まれ、すぐ吸い込まれた。外へ向ける必要のない拍手。自分の選択に送る最小単位の賛同は、音ではなく、呼吸だ。


 灯を落とす前に、机の片隅――空白の一マスの欄に、鉛筆で薄く鍵の歯を描き足す。歯の数は一本増え、形は昨日より少し整っている。鍵の歯は、増やし過ぎても回らない。必要最低限、しかし確実に。鍵穴に入れて、今日一日も回ったと確かめるように、私は指先を軽く回した。


 *


 次の日も、私は空白のマスを使った。――「王立文庫・古写本整理 二日目」。ノエルはいつも通りの声で「おはよう」と言い、温湿度計を指で弾いた。カチ、と小さな音。数字は昨日より湿度が二つ上。私は羊皮紙の波打ちを指で確認し、薄い重しを増やす。吸い込まれる音。手の動きが昨日より少し遅くなっている。遅いほうがいい場面があることを、身体が覚え始めている。


 「今日は“背の開き”を見ましょう」とノエルが言い、背骨を指差した。「開く角度は九十度を超えない。人間の関節と同じです。無理に開くと、靭帯――ここでは綴じ糸――が伸びきって戻らない」


 「人も本も、可動域がある」


 「そう。可動域の尊重は、愛情の一部です」


 私はその言葉を胸に置き、ノエルの指の動きを真似た。指が触れたところから、紙の目が静かに返る。紙にも目があり、重心がある。舞台で人を動かすのと同じように、本にも「動かされ方の礼儀」がある。人に対する礼儀と、本に対する礼儀は通じる。通じるところで練習すれば、人にも優しくできる。私はそんなあたりまえを、今さら手で覚えている。


 昼の休憩、ノエルはパンを半分に割って差し出し、「質問を一つしていいですか」と言った。押し付けがましくない声は、条件をつける。


 「どうぞ」


 「“空白の一マス”って、怖くないですか」


 「怖いです」


 私は即答した。「でも、怖いを飼う練習をしています。怖いを見ないのは、飼っていないのと同じではないから」


 ノエルはパンをかじり、目を細める。「怖いは、飼うと愛着が湧く。手放しづらくなる。その時は、別の空白を作って、そこに怖いを移す」


 「移す」


 「本のシミを“保留箱”に移すのと同じです。棚をつくると、人はそこに戻せる。戻せる場所をつくるのが、整頓の本質」


 私は笑った。彼はわかりやすい言葉の使い方が上手い。専門の言葉を工具として使うセンスは、舞台の裏方で磨いた私のそれと相性がいい。相性のよさに甘えない、と自分に言い聞かせる。相性は、越境の口実になるから。


 午後、私は一冊の写本の見返しで、細い筆で書かれた祈りの言葉に出会った。――〈この書を見た人が、必要な言葉だけを持ち帰れますように〉。誰のものでもない手跡。古いインクが少し滲み、羊皮紙の毛穴に黒が吸い込まれている。私はその行を指でなぞらず、視線だけで読んだ。必要な言葉だけを持ち帰る。空白の一マスが、それを可能にする。


 作業を終え、文庫を出る階段の踊り場で、私は足を止めた。薄明かりの中、壁の石の継ぎ目に小さな金属の扉がある。空気が違う。普段気づかない角度で光が跳ね、扉の縁が細く光っている。手のひらを当てる。冷たい。ノブはない。鍵穴だけが、猫の瞳みたいに細く開いている。


 ――空白の一マスが鍵になり、地下書庫の扉が一枚、私の前だけ開いた。


 比喩で書いた言葉が、実際に目の前にある気がした。もちろん、これは非常口の点検扉で、夜間に文庫の職員が使うだけのものかもしれない。けれど、鍵穴は確かにそこにある。私は胸の内側で、今日描いた鍵の歯を指で数えた。一本、二本。まだ足りない。扉は今は開けない。開けないという選択が、鍵の歯を削る。焦らない。時間割の“空白”は、扉の前で待てる筋肉を作るための枠でもある。


 私は階段を上がった。夕焼けが外気を少し温め、学院の塔が桃色になっている。門を出るとき、巡回の守衛が軽く敬礼した。彼は私が委員を降りたのを知っているのかもしれないし、知らないのかもしれない。どちらでもいい。私は私の時間割に敬礼する。


 寮に帰り、時間割の“空白の一マス”に小さく「文庫・扉」と書いた。扉の存在を忘れないために。忘れる自由もあるけれど、私は忘れないほうを選ぶ。空白に書くのは矛盾かもしれない。けれど、ここに書いた文字は予定ではない。合図だ。合図があると、人は呼吸のタイミングを合わせられる。


 ランプを消す前、私の胸の内側で、拍手が一度だけ生まれて消えた。誰に聞かせるでもない音。自分の選択に向けた、最小単位の賛同。空白の一マスは、不安の器であり、拍手の器だ。器に水を張れば鏡になる。鏡に映るのは、明日の私。明日の私が鍵を持って扉の前に立っている。扉は、開くためにある。鍵穴は、待っている。私は目を閉じ、鍵の歯の形をもう一度指でなぞった。必要最低限。だが確実に。明日の砂時計が、静かに動き始める音を、耳の奥で聴いた。

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