第2章:はじめての異世界タウンと、即バレ寸前のクエスト依頼!?
森を抜けた先にあったのは、小さな町だった。
石造りの建物が立ち並び、馬車が道を行き交い、道端ではリンゴのような果物が並んでいる露店。中世ヨーロッパ風のファンタジー世界をまるごと再現したような光景に、澪は小さく息を呑んだ。
「……すごい、ホントに異世界だ……!」
銀髪に蒼い瞳の絶世美少女、天野澪はその町の入り口に立ち、感動のあまりしばしボーっと立ち尽くしていた。
【背景神!あの町のクオリティやばくね!?】
【これもう映画のロケ地じゃん……】
【澪ちゃん可愛いし、背景映えすぎてて意味わからん】
【転生じゃなくて、異世界観光番組説】
「観光じゃないです……生活なんですけど……」
思わず配信画面にツッコミを入れるが、もちろん視聴者には聞こえない。
そう、彼女は“秘密配信システム”によって、現代世界に自身の異世界生活を配信されている唯一の存在。しかもこの配信、バズりまくっている。
現地ではただの旅人、美少女。
現代では人気急上昇中の「異世界リアル系配信者」。
本人にとっては、笑いごとではない。
「とりあえず、宿とご飯……あと、ギルド? 確か冒険者とか登録できるところ……」
スマホも財布もないこの世界、澪が頼れるのは配信システムの“初回報酬”で貰ったポーションと魔法書、それと、彼女の美貌のみ。
「……いや、外見で生きるのってヤバくない?」
【外見で余裕っしょ(確信)】
【顔だけでモンスター倒せそう】
【むしろ顔がチート】
【澪ちゃんがウィンクしたら村長倒れる説】
「倒れられても困る!」
◆
町の中に入り、澪は「冒険者ギルド」と書かれた木の看板を見つけた。
扉を開けると、ザワッと空気が揺れた。
豪快に酒を飲む戦士、魔法の杖を磨く魔導士、そして——全員の視線が、ドア付近で立ち尽くす澪に集中する。
「…………」
静寂。
そして、次の瞬間——
「「「誰だこの美少女!!」」」
ギルド中に響き渡るド直球な歓声。
【フラグ立った】
【RPGで最初に来る町、絶対こうなる】
【ナンパされるぞこれ絶対】
【イケメン出せ!澪ちゃん守れ!】
(守るのは自分です……!)
澪はビクビクしながら受付に向かう。そこには金髪で小柄なエルフ風の受付嬢が待っていた。
「ようこそ、冒険者ギルド《エルタス支部》へ。旅人さん、登録ですか?」
「は、はい……初めてで……」
「大丈夫です。お名前と簡単なスキルを教えてください」
「えっと、名前は……ミオ・シルヴァで」
(本名そのままは危ない気がするから、適当にファンタジーっぽくした)
「“光魔法適性・高”とありますね。かなりの素質です。魔法学院の推薦状をもらえるかもしれませんよ?」
「え……!? いや、そんな、私はただの……」
(ちょっと魔法出たくらいで推薦ってこの世界基準どうなってんの!?)
【澪ちゃん天才バレるの早すぎ】
【魔法学院編来るぞー!】
【また嫉妬ライバルが生まれるパターン】
「では、早速ですが初仕事のご案内を——」
と、そこへ。
ガチャッとギルドの扉が勢いよく開いた。
「いたか!? 銀髪の美少女がここにいると聞いたんだが——」
現れたのは、豪奢な白いマントを翻す金髪の青年。
整った顔立ち、堂々とした雰囲気——どう見ても、王子様。
「……は?」
「やはり……君が、銀の姫か」
「誰が姫ですかああああああああああ!!!??」
【出た王子!フラグ建築士来たぞ!】
【澪ちゃんツッコミ安定すぎて笑う】
【この人絶対レギュラー化するw】
【王子のくせにノリが軽いwww】
澪の異世界生活、そしてさらにバズっていく配信生活は、まだ始まったばかりである——。