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第30話 始末屋の死

 キノは襟を掴まれてミユキと移動している。

 祭殿から出たところへ、ちょうど彼女が駆けつけたのだ。

「なにをしていたんです?

 アスカさんを一人で行かせるなんて、よりにもあなたが」

「それを承知でも――私には、こうするしかなかった。

 あなたをアスカさんの元へ連れていく」

 キノも連れて行ってもらえるなら、それに越したことはないが、

「あの人、死ぬ気ないですよね?」

「……わからない」

 ミユキは言った。

「あの人は優しい人――本当はこんな世界で、自分のためになんて生きられない人で、とっくに全て投げ出してたっておかしくなかった。

 もう、楽にしてあげていいのかもしれない」

「そんなわけない!」

 キノは断言する。

「あんたもアスカさんも、生きて幸せにならなきゃダメだ!

 俺やカリンにも、それができるって、あんたらが示そうとしたんじゃないか!

 それを途中で投げ出そうなんて、俺は絶対に許さない!

 マギアホルダー!」

 参入したばかりの彼へ、最初の指示を飛ばした。

「ミユキさん、あなたは転移スキルを?」

「使えない、あれは使徒級のものを転用しているだけだよ、プレイヤーでできるのは限られる」

『問題ない、私ならまとめて全員、あなたが行った場所ならば飛ばそう』

「行けるってことだな、聯合へ!」

 キノ、ミユキ、アキトの一行はマギアホルダーのスキルを発動し、一気に跳躍する。

(これが呪術塊じゅじゅつかい――精霊に擬態した思念情報の束、オルタナとそう変わらない。

 思念体だってならなぜファントムにならなかった?)

 アキトが詳しく語る様子はなかったが、生前は神官だったらしいことも仄めかされていた。

 今は大した問題ではない。


「ギルド聯合の共同設置本部敷地内か――俺は初めてだが、ミユキ」

「災鴉がやったものじゃありません、あれはプレイヤー特攻を持ってますけど更地を作る芸風じゃないので」

「聯合自らの焦土作戦と?

 とち狂っているなぁ、輩。跳んできたなら、ここからどうする」

「なにがあろうと聯合の決議の流布を確かめてから、アスカさんに合流する。

 そういう手筈です」「……間に合うか、一先ず進むぞ」

 そうしてさらに、大規模な放射攻撃の跡が見えたなら、森林部のバトルフィールドへと誘導される。

 時おり聯合所属のプレイヤーが倒れているので叩き起してアマトの行方をうかがうが、彼らは大抵一瞬で急所近くを突かれて昏睡していた。よく生きていたものだが、そこがアマトのアバターコントロールの絶妙なところということか。

 問題は彼の安否なのだが、それを殺したがっている奴らに聞くしかないという段階で、ミユキの苛立ちがあからさまに募っている。

「あんたら聯合が悪巧みしなければ、こんなことにはならなかった!」

「盗賊女、お前が自分で絞めてきた主人の首だろうに」

「――」「ミユキさん、そんなヤツは」

 鳩尾に膝が入る。きっとアマトも同じことをしていただろうというぐらい、彼女の背中に面影を見たキノであった。

「この先結界があるな、契約紋の制御を阻害されたなら、そちらで袋叩きに遭っている可能性が高い」

「聯合のギルマスどものまんまんなかに無策で飛び入るんです?」

「少なくともミユキらはそのつもりだな」

「あの人を逃げおおせたところで、俺たち犬死にでは?」

『今からでもやめることはできるぞ』

 マギアホルダーの言うとおりだ。

「今更……死にに行くわけじゃない、見届けるんだ、俺たちは」


 森を抜けると草原だった場所に複数のクレーターができている。頭上に我を忘れていそうな災鴉。

 こちらに気づいて襲ってきた。

「アスカさんの!」『制御を喪っているな、術者が生きているかは怪しいが』

「ねぇ発言はちょっと空気読んでッ!?」

 どのみちそれを確かめるところだが、マギアホルダーとの連携は今後ともキノの課題だ。

「向こう」

 アキトが気づいてミユキの肩を叩く。

 ――アマトが獅子の纒を着たカレイドと交錯し、膝を崩している。

「アスカさん!!?」


 *


 アマトは自身のHPの全損と仲間たちの到着を確認して、嘆息する。

(あとは彼らに託す、か)

 事実を矮小化などさせない、必ずミユキたちが後を引き継いで……俺はここで終わる。

「……キューリ、ようやくお前のところへ行けるらしいぞ、悪友」

 俺が何を為そうとしたところで、みんな俺のことを嫌いらしいから、最早どうにもならん。

 なにも知らない他人が縁もない怒りをぶつける対象に俺を選んだ。

 或いはカレイドだけは、まともな品性を保っているのだからタチが悪い。

 もうここには、俺と彼だけだった。

「クラウンレグルスのパッシブスキル『レオニックバーストクロウ』は連撃だ、バイタルガッツで遺る程度のHPなど、余さず刈り取ってやる。

 レイド級変異種など相手にするよりは、余程歯応えのある戦いだった。

 だが、きみの負けだ」

「――」「言い残すことはあるか、始末屋?」

「あくまで……第二世代の排斥をやめるつもりはないか」

「これまでと変わらん、ソロプレイヤーについては止めたければ、きみらが俺たちを殺すしかない。

 きみのように牽制する力など、彼らにはないのだから。

 聯合の連中は、第二世代がこの世界に補填された意味など、これっぽちも興味がないだろう」

「まるであんたは、それを知っているような口ぶりだ」

「おそらく運営から密な接触があったのは、俺と君だけだろう」

「あんたは、いつ?」

「僕はイカロスの直後だ、きみは違うのか」

「……ゆーのすけさんが死んだ、あのとき」

「正直規則性が読めないな、相変わらずマテリアルシードの連中は、なにを考えているのやら」

「奴らは最初から、人間の良識や摂理で動かない。

 そこからはきみの頭で考えるしかなさそうだな」

「ひとつ、聞きそびれていた。

 きみは『始末屋』でないと云うなら、いったい何者のつもりだよ?」

「それは――もう一度、君と話せたときにしよう。

 そう長くは待たせない、だって」

 アマトの肉体の消失を待たず、ミユキがカレイドへ切りかかった。


「涙ぐましいほどの主従だな。ご主人はお前なら、俺を倒せると本気で考えたようだぞ」

「聯合をけしかけて、アスカさんを葬り去って……これで攻略が本当に進むとお想いで!?」

「うん、彼がいなくなっては聯合の馬鹿どもが付け上がるだけで、正直なところ旨みはない。

 あるいはきみを打ち負かせば、『絶対支配』の開示条件がわかるかもしれないが」

「あなたは――なんのために戦ってきたんです!」

「そりゃ愉しいからな」

 ミユキは眉を顰める。

「ゲームだから、肝心なとき、そんな言い訳ばかり、あなたたちは!

 もう聞き飽きてるんですよッ!!!」

 ミユキの猛攻は続く。

(単純な近接格闘性能だったら、三条アスカを上回る。

 彼が手塩にかけて育てるだけはあるな)

 彼女の肘の付け根をせき止め、その顎に指をかけた。

「!」

「いい女だ。

 こうしてあれに磨かれてきたわけか、で、抱いてもらえた?」

「――っ」

 そこへ割って入るのは、アキトからの攻撃だ。二人は逃れ、攻撃の余波はプレイヤーひとりを弾き飛ばす。

「あんたは?

 なるほど、ほんとにいたんだお兄さん……せっかくの出逢いに、野暮なことしないでほしいとこだケド」

「時間がかかり過ぎだぞ、ミユキ。

 プレイヤーひとりに手間取っている場合ではない」

「どうしてどいつもこいつも、私を苛立たせるんですか」

 アキトとの葛藤が溶けたわけではなければ、ミユキが苛立つのは当然だ。

 兄はお構いなしである。

「この場の誰も殺させない、死なせない。

 やつはそのつもりでこの場に臨んだ。

 ミユキ、今の俺たちにそれだけの価値と覚悟があるのか、やつに試されているとは想わないか?」

「死んだら終わりなんですよ、キューリさんも、あのひとも」

「そんな想いで、できもしない約束を交わしたのか」

「!」

 アキトは、アスカとミユキの交わした約束を知っている。墓所のとき彼が伝えたのだろう。

(間違っても、あの人が楽になっていいなんて、言うべきじゃなかった。

 私は何回間違えて、悔いるの――あの人の幸せは、私じゃ決められない)

『佐藤鳩里を取り戻す』『アキトを見つける』、約束の果たされぬうち、主従の契約は断たれたものの。

「……あぁ最悪、おかげで大事なことを、思い出しましたよ。

 私がそう思い続けるかぎり、私はアスカさんの主従なんですね」

 もう契約紋という形に縛られることはない。それを、兄の帰還こそが証明してくれている。

(あの人は契約紋を外しても、私との約束をここに果たしてくれた。

 結果をどう受け止めるかは、私自身だったのに――)

 それに気づくのが遅過ぎた、だけどここから始めるしかない。

「キノくんたちを守って撤退します、援護してくれますか、《《兄さん》》」

「最初からそのつもりだ。だがいいのか」

「なにが?」

「お前ならあのカレイドとかいうやつには、勝てるんじゃないの」

「一矢報いるくらいは、やってやりたいところなんですけど」

 ミユキとて、トッププレイヤー相手には警戒する。

 始末屋を倒すまでで彼らはすっかり消耗しているが、それでもすぐに立て直してきた。

「いくら回復スキルを扱ったところで、集中力は磨耗するはずなんですけど……まるで疲れてる様子が見受けないな」

 たぶん、既にミユキは気概で彼に負けている。

「ギルドを組んでもない頃のきみらが、それこそコソ泥同然に狩場をうろちょろしている間の僕らの努力を軽んじないでほしいところだが、レベリングは無慈悲だってことを、アスカくんや使徒級は証明しているからな。その気になればできんこともあるまい」

「これが命懸けでなければ、その誘いにも乗っていいんですけど。

 アスカさんの次ぐらいに面白い人だってのは、認めてあげますよ」

「俺に『絶対支配』さえあれば、あれだってすぐに侍らせたものを――あるいはきみたちが、彼の災鴉を引き継ぐだけか」

「!」

 途中からカレイドは、ミユキたちへの攻撃の手を止めている。

 ほかのギルドマスターたちとて、始末屋さえ排斥できたなら、彼らと敵対するだけの理由もない。

「本当にここのひとたちは、やる気がないんですね……あなた以外。

 以前、アスカさんが言っていました。

『この世界をゲームと割り切るか、生活の一部と取るかはひとそれぞれ。

 ただ誰だって、苦しんで死んでやる義理はない』って。

 受け売りだけど、なるほど、聯合の皆さんは『人生に負けてしまいました』か」

 災鴉の攻撃を振り切るのでやっとな、聯合のプレイヤーたちは苦い顔を作っている。

「あれほど強大となった災鴉を抑えられるとすれば、絶対支配をただ解放しているだけでは足らない、それを侍らせる力が要ると――自ら解き放っておいて、あなたがたは」

「三条アスカが死んだ今、あれを俺で殺すのは構わないが、きみらにもチャンスをやろう。

 彼が遺したものに見合うきみたちであったのか、俺は見届けさせてもらうよ」

 しかしクルーガーは、彼の意見に反発している。

「カレイド、勝手なことを!

 すぐにでも奴を消さなければ、聯合にも被害が及ぶ!」

「クルーガー。それがどうした?」「!?」

「ろくな攻略や挑戦を果たさず、末席に名を連ねる馬鹿どもが死んだところで。

 三条アスカは、あれを解き放って死んだ。あれのせいで誰が死んだところで――それは『始末屋』の不始末だろう?」

 それを聞かされた、クルーガーとミユキはぞっとする。

「……大したものだよ。あなたは、相変わらず」

「――」

 クルーガーにとっても、聯合の現状を維持することが彼の望みではない。

 彼の目的は『インサニスを新基軸としたプレイヤー秩序』を構築することにある、それがわざわざ聯合という形骸に頼り続けることもないのだ。結果として弱体化するならそれで一向に構わない、カレイドはそこまで読んでいる。

(アスカさんに責任を擦り付けようだなんて許せない、けど。

 彼はわかっているんだ、自ら動かないものに機会なんて与えられないと)

 ミユキは自身の手の甲に浮かぶ契約紋を見る。

(私の『絶対支配』、ね。あいにく拌契約紋は開放していないし)

 代償系回復スキルの計13回、無生物に対する行使。

 カレイドたちはその条件を知らず、どのみちミユキ自身、代償系回復スキルを持つユニットがいないまま。

(どのみち詰みか。兄さんかキューリくんのスロットに頼る?

 その場合はレベル差で、支配力ゲージをどう埋めるかだけど)

「兄さん、キノくん」「なんだ」「僕らのスロットですか」

「貸してくれる?

 こうなった以上、私たちで収拾をつけるしか――」

「まだですよ、ミユキさん」「そうだな」「え」

 キノたちはなぜか落ち着いている。

 マギアホルダーとやらを眷属において、いくらか強力なスキルを行使できるようになったからか。

 それとも……ほかの要因が?


「拌契約紋のスロットが、やつに向けても契約待機状態に入らない。

 向こうが興奮したり暴走すれば、むろん成功率は下がるが……そもそもの契約の糸口が立たないということは、だ」

「アスカさんの契約がまだ不完全な状態で続いている、つまり」

「!」

 三月天兎は、生きている。


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