第24話 結界へ閉じ込められたプレイヤーたち
キノとアキトは、地表で待たされていた。
一度ピシカたちが戻ってきて、アスカがさっそく本題を切り出す。
「連れてきてくれたんだろうな。
ここの結界に閉じ込められた、すべてのプレイヤーを」
「あぁ、我々にもほかに手段がない。
探索にしてはやけに時間がかかったが、何かアクシデントでも?」
「いや、大したことじゃない。主従の絆を確かめあっただけだから」
「ほぅ……」
キノにはそれを聞いたアキトが苛立っていることの察せたが、藪蛇はごめんなのでそちらには突っ込まない。
(それってニャンニャンしてたってことじゃなかろうな?
カレンさんがいるのに、オルタナ相手にまで食指がなんて、そんなまさか)
キノがどうでもいいことを考えているうち、アスカは墳墓の高所へ登壇していた。
「お集まりいただいたプレイヤーの皆さん、初めまして。
あるいは一方的に僕の顔を見知っている方々もいらっしゃるでしょう。
僕が『三条アスカ』です」
「始末屋……の、ですか?」
ひとりの女性プレイヤーが、おそるおそる聞いた。アスカは頷く。
「僕自身そう名乗ったことはありませんし、別に嬉々としてプレイヤーキルしてきたつもりもないんですがね」
「ごめんなさい」
「いいえ構わないですよ。
あなたがたの現状は、実際厳しいわけですから――僕は今から結界を解放する、そのためのひとつ賭けに出ようと想います」
アスカがこの墓所フィールドを目指した、最初の目的を果たすべきときが来たようだ。
「結界を開放するなんてそんなこと、本当にできるのか!?」
一部のプレイヤーたちから口々にそのような声が上がるも、アスカはまずは手で制する。
「ご存知のように、結界を支える三方の支柱は破壊不能オブジェクトであり、加えて地下にある制御室は多数の蜘蛛型エネミーに覆われ突破するだけでも困難、突破して制御室へ到達しても、プレイヤーやモンスターからの干渉を遮断するさらなる重点結界が巡らされています」
「わかりきったことを言うな!」「始末屋なんぞに俺たちが手を貸すとでも!?」「そうだそうだ!」
「でもあなたがた、ここから出られないんですよね」
そこで一堂は言葉を喪って殆どが俯く。
「あなたがたの手は借りません。
ですが僕も、このままここを出られないのは困るんです。
対抗策というか、打開策は考えてきてるわけですけどね」
「――それが、無生物ユニットの使役、絶対支配によるものか」
ひとりの男が、皆の前へ歩み出てきた。
アスカは彼に尋ねる。
「あなたは?」
「ポルキウスと呼んでくれ。
そのうえでアスカとやら、『それは不可能だ』」
「……無生物ユニットによる、結界制御室の侵入と解放、それが不可能だという意味ですか」
「そんな浅はかな考えで、きみがここにやってきたなら、君は文字通り墓穴を掘りにきたというわけだ」
数箇所から、嘲笑が聞こえる。
キノはアスカがここからどう転ぶか、内心ヒヤヒヤしていたが、アスカとアキトの顔に焦りは無い。
「確かに契約紋で縛られたユニットでは、生物・無生物を問わず、あの重点結界を通過できないでしょう」
「なんだと?
ならなぜ貴様はここにいる!」
ポルキウスとやらは、ここから出られないことに随分と焦っておられる様子だ。
「賭けをしませんか。俺がこの結界を解除できるか、あなたがたは結界の境界へ立っていればそれでいい」
「きみは、なにを望む」
ポルキウスへ、アスカは宣告した。
アスカの人称が、いつの間にか『僕』から『俺』に変わっていることにキノは気づいて震える。
「誓約を立てましょう、俺の手で結界が解けなかった場合、俺が所持する素材アイテムをすべて、ここにいるあなたがたで分配する。俺の所持するプレイアブルユニットについても、あなたがたへ譲渡します、早い者勝ちですよ?」
ざわついた中のひとりが、興奮して叫ぶ。
「それってあの災鴉のこともか!?」
アスカは確かに首を縦に振った。
オミット体の災鴉が彼の肩口へ寄って、存在を主張する。
お前たちの熱狂こそが、我の価値を高め昇華するのだと言わんばかりに。
「もちろんです、絶対支配のレシピも添えて差し上げますよ」
アキトが大した役者だとぼやいて、キノもそれに頷く。
(なんでああいうときのあのひと、やたら艶っぽいんだよ。
性別からして疑うな……いや男なのは知ってる)
その場合はピシカも手放すことになってしまうが、この場でピシカがアスカと契約したオルタナであることを知るものは少ない。ピシカは頬を膨らませているが、アスカならただで転ばないことも知っていた。
「逆に、きみの力で結界が解除される場合は?」
周囲は熱狂するも、ポルキウスのみは平静を失っていない。上手い話には裏があるのだから。
「今から俺の言うことを、信じるか信じないかはあなたがたにお任せします。
ただ……そうだな、まずはキノくん。
見えるようにこっちへ来てくれ」
「はい――俺、ですか?」
キノはそこまで、自分の呼ばれるとは思いもよらなかった。
「あなたがたのプレイヤーギルド聯合に対する心象は知りませんが、俺に従った場合、最悪あなたがたは聯合へ敵対することになるかもしれません。
そういうデメリットがあることを言っておきましょう」
「それとそこの少年と、なにか関係があるのかね?」
ポルキウスが詰問する。
「ここが閉鎖されているとはいえ、あなたがたも第二世代に関する噂は聞いているでしょう。
彼はその一人です」
皆、愕然となっていた。
「……第二世代、結構最近の話題だな。
聯合と敵対ということは『インサニス』らが盛んにプッシュしている、第二世代のソロプレイヤー狩りのことか?」
「その通りです。
俺の目的はキノくんたちを基軸とした、第二世代によるプレイヤーギルド複数の発足。
第二世代に対して排他的な聯合の風潮から彼らを守るために、彼らの共同体を成立させ、あなたがたには俺の任意のとき、必ず一度、それに協力してもらう」
「待ってくれアスカくん、第二世代の保護って、それってきみ個人に利益はあるの?」
「ありますよ。彼らのギルド『プロトポロス』、現在のギルドマスターは俺です。
第二世代の戦力強化が、そのままギルドマスターの俺の利益となる。
ただ俺個人は、彼を育成するつもりでここへ立ち入った。
準備はしてきましたけど、ここへ来ること自体が賭けだったんです。
あなたがたの救助はそのついででしかない、『始末屋』である俺を信じられないって方は多いでしょうから。そのうえでこちらは腹を割っているんです。
だからこそ誰も騙しようがない、成文の盟約が必要だ」
アスカは誓約書の文面を、その場にいたプレイヤーらへ一斉送信した。
「結界内の全域、アクティブなユーザーの全員に、今の誓約書を送付しました。
この結界にいる全員が納得して同意したとき、この誓約書は初めて効力を持ちます。
そうでなければ、こちらは動かない」
直後、むろん多少の反発はあったものの。
「一先ず、期限を一日と置きます。
各自散開ですね、皆さんは成否を送信して下さればそれで構いません。
持ち帰ってこの意味を、じっくり考えてください」
アスカたちはアキトとピシカの寝ぐらに待機している。
「てっきりその場の交渉で畳み掛けてカタがつくかとも想いましたが」
「俺的にはそれでも構わない。だがキノくん、思い出してくれ、俺がここに来た理由だ」
「第二世代のソロプレイヤー……そうか、あなたは」
「さっきの集会に顔を出していたかはわからないが、生き残ってレベルが低いままなら、きっと行き詰まっているだろう。
きみの名前と出自を明かした以上、接触があるはず。
彼はこちらを警戒するだろう、だから」
「わかりました、俺、行ってきます。
必ず勧誘、成功させますから」
「肩に力、入り過ぎないようにな」
キノがNOAHに跨って、寝ぐらの外へ出ていった。
アスカは膝へやってきたピシカの毛繕いを始める。
「よもやそんな不埒なこと、ミユキにまでしとったんじゃなかろうな?」
「不埒?
こんなかわいい猫娘がいたら、そりゃ愛でるでしょ」
「お前にとって主従とはなんだよ!?」
「アスカさん、この人だいたいいつもこんな感じでやかましい変人ですから、ほっといていいですよ。
でもそういえば、ミユキさんとの契約を解除したって――喧嘩でもしたんです?」
「いや、ミユキとは元々そういう契約だったというか。
あの子を自立させるところまでで、俺の役割は終わってる……この話はやめよう」
アキトの視線がみるみるキツくなったので。
「あなたは……ここへ逃げてきた、第二世代のプレイヤーさんですか。
聯合のプレイヤーに追い回されましたか」
キノが語りかけると、彼は周囲を確認しながら出てくる。
「『プロトポロス』とか言ったよな。あのアスカってひとを信用しているのか?
始末屋という、物騒な二つ名がついているが。
聯合の命を受けて、何人ものプレイヤーを葬ってきた外道だろう」
「噂は事実をもとにしていますけど、第一世代の問題は、プレイヤー間の抗争とそれに対する抑止力として、あの人が災鴉という絶対的な力を持っているから、畏れられ、あるいは悪意をもって捻じ曲げられているところも大きい。
あのひと、せこいところがあるのは認めます。けど僕らの自主性を尊重したうえで、僕にギルドの運営権を委ねてくれています」
「また騙されるかもしれない、彼が聯合へ寝返れば、『プロトポロス』へ集まったプレイヤーを一網打尽に魔女狩りが起きるんじゃないのか?」
「あの人はいつだって、誰かを生かすために最善の行動を取る人です。
聯合の命で動いた時のプレイヤーキルは、これ以上の被害拡大を防ぐとか、そういう汚れ仕事でしたよ。
ぼくの目の前でだってそうでした」
レイド級変異種を相手に圧搾寄生弾体を用いた彼の姿をみて、この人にはそれができてしまうのだと、感覚として理解できてしまったから。
「僕はいまのあの人を『信じる』、でも、あなたがそれを理解できない気持ちは、変えられないし、変えなくていいと想ってます。むしろそのままでいい、だからこそ『あの人』じゃなく、『僕』のこれからを信じて――『プロトポロス』の活動に乗って欲しいんです!」
外の会話は、こちらまで聞こえていた。
「キノとかいうあの少年、お前と違って王道的なカリスマのあるようだな。
まさしく指導者としての器だ」
「そうだね。だから安心して任せられる」
「聯合の最近の動きに、私は疎いんだが……きみの除名運動とやら、相変わらずやっているのか?」
「最悪そうなる前に、彼へギルドマスター職を引き継がなきゃならない、そのためにはまず、彼らのステータスを単純に強化して権限開放ができなきゃいけないんです。
ここからは時間との勝負になる、あなたにも協力してもらいますからね」
「結界を抜け出してもいないうちから、取らぬ狸の皮算用か?」
「契約紋に直接縛られたユニットでは動けないなら、やるべきは契約紋に縛られないユニットです」
「契約紋に縛られないユニット?」
「『ヘリオポリス』のゴゥレムマスターをご存知でしょう。
本当はあのひとみたいのが適任なんですが、一度やるまで確証のないことを人任せにできませんからね」
「なるほどサイドジョブか、考えたな。
だがそのようなオブジェクト使役系は、プレイヤーのなかでも限られているはずだ。
きみに『回復術師』以外のサイドジョブがあるとは、聞いたことがないが」
「だから俺は、故人の力を借りることにしましたよ」「?」
『死霊術士』を『死霊術師』へランクアップさせてる前から、アスカは嘗てゆーのすけが使役したアンデッド化モンスターユニットの一部を支配下に取り込んでいる。
(術者が死ねば、別の術者の手で支配権を簡単に置き換えられる。
流石にプレイヤーのアンデッドまで扱うわけにはいかないけれど……こんな形で、役に立つなんてな)
これは、ゆーのすけさんの力だ。あのひとが背負った苦しみ、絶望の裏にあるもの――だけど俺は、目的のためならすべてを使いこなしてみせよう。




