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第21話 行き過ぎた自衛

 街中で起きたプレイヤー襲撃事件の犯人はアスカだった。

「犯人!?

 犯人ていやお前、何やってのけたの!!?

 襲われるならまだしも――」

 ギルドネストへ自首してギルドのプレイヤーらに連行されてきたアスカだったが、彼を確保したプレイヤーたち自身、なにがなんだかわかっていないのが正直なところだ。

 愕然とするキューリに、アスカは淡々と答えた。

「そりゃ、返り討ちにしたまでだよ」

 アスカの肩口には、先程までミユキのところにいたはずのユニスライムが載っている。


 ギルドのラウンジで長いこと待たされてから、ギルドマスターが二階から降りてきた。

 のちのゴゥレムマスター、時縞マリエその人である。

「うちのギルドで暫定的に研修を受けていた、二人のプレイヤー『マルチネス』さんと『カトル』さん、でしたっけね。私も面接に立ち会って日も浅いから、よく憶えてるわよ。

 ふたりともパーティー経験があり、中堅へ差しかかろうってところなのでしょう?

 彼らのレベルは30を越したくらいだったでしょう、それがどうしたら、レベル23のプレイヤーひとりに、非戦闘エリアであるはずの街中、路地裏で四肢をバラバラにされて転がって……なんてことになるんでしょうか。

 それで、初めましてのひと、『アスカ』くんでよろしかった?」

「えぇ」

 アスカのリアルネーム『三条亜寿佳』が流布されだしたのもこの頃で、むろん悪評を添えて拡げたのはキノからフルネームを聞き出したカトルである、おまけに襲撃事件の起こる前だったからして、より始末に負えない。ただミユキという女が欲しいために、アスカへの敵意と劣等感をむき出しにするうえ、マルチネスのようなカタギでない強いやつにはすぐ媚びてのける小姓気質というか……。

「被害者ふたりと、トラブルでもあった?」

「それを説明したいのは、吝かじゃないんですけどね」

 アスカはラウンジの中にいるプレイヤーらを見渡したうえで、

「個人的な事情が含まれるんですが、ここにいる全員に聞かせなくてはダメですか?

 うちの二人、パーティーメンバーにも関わることなんです」

「この場では話せないと、それももっともかもしれないけど、……ごめんなさいね、アスカくん。

 みんな恐慌しているのよ、非戦闘エリア内であなたはプレイヤーへ危害を加えてのけた。

 彼らの緊張を取り除くに足る、納得いく説明をあなたはできると約束してくれるなら、私はそれでもいいけれど」

「アスカ」

 キノがこちらを見ていた。

「カトルさんはともかく、マルチネスってこの前のあの物騒なやつだよな、ミユキちゃんを蹴って怪我させてた……どういうことだよ、それにゆにちゃんが突然いなくなったら、なんでお前のところに――」「あぁ」

 アスカは頷く。マリエはキューリとその隣にいる少女がミユキだと察したなら、嘆息した。

「きみは一人で、うちの幹部数名の監視はつくけど、それで構わないかな?

 応接間を用意している」

「ええ、こちらはやらかした側ですもんね、拒否権ありませんから」

 マリエからすれば、襲撃事件の犯人は当初からして非常識なプレイヤーにしか見えなかったろう。

 不安げなキューリだったが、そんな彼にアスカは云うのだ。

「とって食われるわけじゃない、心配するな」



 応接間に通されたアスカは、幹部たちの前で事の経緯を一通り話した。

「……あなたの話をまとめると、以前行動を共にしたパーティーのメンバーだったカトルさんが、それ以前にあなたがたと一悶着あったマルチネスさんと結託してあなたを襲撃、おまけにマルチネスさんはあなたに対して、以後もミユキさんやキューリくんへ危害を加えることを仄めかしたと、脅迫ってことね。

 肝心のマルチネスさんなんだけど、左目の視力が回復していないうえ、未だパニック症状に見舞われている。おかげで彼から裏取りを取れないのだけど、あなた、なにをしたの?」

「トリックってほどのものじゃないですからね、非戦闘エリアだろうと『纒』は換装できますから。

 ダメージは出ずとも状態異常で翻弄するなんて定石じゃないですか。

【解体C-】ってスキルで、全身ぶったぎってやっただけです」

「だからその一本角のスライム。

 でもそれは、あなたの所持するモンスターでないと聞いたけど」

「上位調教です」「……ごめんなさい、話が見えてこないんだわ」

「だから、街で噂になってるプレイヤーと調教契約したプレイヤー『三条亜寿佳』ってのは、俺なんですよ。

 ユニスライムは、契約紋の孫紐付けから呼び出せたんです」

「少し、待って。

 わからないのではなく、情報を頭のなか整理する時間が欲しい」

 流石にプレイヤー襲撃の犯人と上位調教の使い手が同一人物と聞いたなら、マリエも戸惑っている。

 それからもいくつか言葉を交わした。

 やがてキューリとミユキも、応接間へ呼ばれる。

「あの、アスカは――」

「ミユキさん、あなたがアスカくんと契約した眷属であり、プレイヤー、これは間違いのないことですか」

 この質問を彼女へ投げたときのマリエの顔はこわばっていた。

 ミユキはきょとんとしてから頷く。

「はい。私はアスカさんのものですから」

 幹部たちは愕然となってそれを聞いていた。

 マリエは宣言を聞いてのち、アスカとキノを交互に睨んだ。

「皆さん、すいませんけど席を外してもらえますか。

 彼らの聞き取りは私自らやらせていただきます」

 幹部たちが退室してのち、残った三人へ詰問が始まった。

「はっきり言って、異常なことよ。

 プレイヤーがプレイヤーを契約紋で使役する、契約紋の効果が通常通りなら、眷属は主人の命令へ絶対服従の強制力を働くことが可能で、彼女はアスカくんに反逆できない。

 そうですね、キューリくん?」

「えぇ、まぁ。なんで俺に聞くんです?」

「三人とも、そもそもの話をいいかしら?

 あなたたちはなぜ、上位調教による主従契約なんて結んでしまったのか」

「アスカ」

 キューリがまた不安げな顔をして、アスカは口を開こうとする。

「いや、アスカくんの説明はあとで聞く。

 私は先に、キノくんからあったことを聞きたいの」

「ええと、はい」

 キノはマルチネスに絡まれた経緯から話し始め、盗賊としての役割に認識を振り回されていたミユキをアスカが確保し、ダメ元だったはずがなんか契約成立しちゃったところまでを隠さず余さず話してしまう。

「ないわー……」

 それを聞いたマリエの最初に出た感想だ。

 三人は揃って首を傾げる。

「カトルさんはミユキちゃんに言いよって、挙句アスカくんについての悪評をばらまいてたらしい、こっちはさっき裏の取れたよ、よほどアスカくんが怖かったのね」

 のちに聞いたところによれば、『あんなヤツに会わなければ』って震えていたそうだ。

 この頃彼のおかげで腸煮えくり返る気分を味わったアスカだが、そいつを聞いたときは自分の起こしたアクションが間違いでなかったのだと穏やかな気持ちにさえなれたとか。

「だからって暴力で解決するのは下策だと思いなさい。

 マルチネスってひと、色々調べているけれど、どうにもカタギの人じゃなかったくさいのよね。

 本人も現実での前科者だのヤクザの舎弟だの名乗っていたそうで。

 うちのギルドは女の子も多くてね、結果としてはああいうガチでヤバいひとはお断りしてるんだけどーー暫定とか研修とか、フィルター通して搾ってみたものの、人事の目は鍛えなきゃなぁ。

 ただでさえみな焦って攻略マップを拡げてる頃とはいえ、組織化すると足並みを揃えなきゃならないわけだし、課題も多い」

 アスカからそんなマリエは、手の届くものを手堅く守ろうとする、義理堅くしっかりした大人に見えた。

 それは実際にそうだったわけで、アスカは彼女との縁にその後もしばしば窮地を救われている。

「アスカくん、さっき話したとき彼女との契約をやめるつもりだと言ったわね」

「はい」「「!?」」

 ミユキとキノが愕然としている。

「なら今すぐにそうしなさい」

 赤の他人の言葉が、この時ほど救いに聞こえたことは人生でも初めての経験だった。

「その通りですね、やっとか」

 アスカは契約紋から展開した契約解除のタブからボタンをタップしようとして、ミユキに阻まれた。

「え」

 ミユキはアスカの腕へ無言でしがみついている。

「ミユキちゃん、どういうつもりかな」「――」

 マリエの声は剣呑だった。

「なにも、聞かないで」「うん?」

「私をそばに置いていてくれませんか、形がないと、怖いんです。

 兄さんみたいに、もう誰もいなくならないで……」

 彼女のゲーム内ではぐれてしまった兄の話が出たのは、このときが初めてだ。


 ミユキはまともに話せる状態でないと判断され、幹部が連れて先にラウンジへ降りていった。

 アスカとキューリは、マリエに注意される。

「人はペットを飼うのとはわけが違う。

 当たり前のことだけど、あなたたちには常識がないようだから」

 辛辣な言葉だ。特にキューリに対する視線が厳しかった。

「キューリくん、あなたが半端な仏心とくだらない悪戯を思いついたから、アスカくんに負担が行っている」

「はい……ごめんなさい」

「誰に対してのごめんなさい?

 アスカくん、それともミユキちゃんへの?

 結局恋人関係だそうだけど、こうなってくるなら最初からアスカくんに契約を使わせなくてよかったんじゃないの」

 キューリは黙りこくるしかない。

「アスカくんはアスカくんで、合理主義に寄り過ぎてて怖いんだけど。

 まぁ始まりの街のパニックは、私自身も目の当たりにしている。

 あの状況では身の回りの近しい誰かを守るので手一杯だったのは、きっとその通りだったと想う。

 彼女が隠れプレイヤーでNPCに実質粉飾されていたのなら、なおのこと、私でも同じ状況なら放置したかもね。ただ問題はそのあとよ」

「?」

 マリエは続ける。

「連れ回しておきながら、あの子自身の言葉を何も聞いてあげていないでしょう。

 さっきの言葉、ああして溜め込んでいたものが、ひとに急かされて初めて形になった。

 それって怖いことだと想わない?

 そういうことが、たとえばバトルフィールドで起きたとき」

「――」

「私たちの身体はいま現実にない、死んでゲームオーバーになれば、このまま一生話すこともなくなるかもしれない……デスゲームと云うのは、私もまだ半信半疑だけど。

 あなたはあの子のこと、嫌いかもしれないけど、寄り添う努力くらいはしてあげて」

 なるほど、含蓄のある言葉であった。

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