ちょっと面白かったテレビ番組と面白くないほとんどのテレビ番組
私は諸事情で、普段、テレビ画面が目に入る。家にはテレビはないのだが、テレビを見ている時間はある程度ある。
それで、今のテレビ番組というのは本当につまらない。テレビがつまらない、テレビがひどい、と批判するのは、既に陳腐になっているし、あんまりくどくど言っても仕方ないのだが、まあひどい。
何がひどいかと言うと、どの番組も「テレビっぽい仕様」になっている事だ。「テレビっぽい味付け」というか「テレビっぽい演出」というか。全ての物事がその範囲で切り取られているので、見ていて、のっぺらぼうな紙を撫でているような気分になる。ドラマもバラエティもニュースも全部同じだ。
一つ例を上げると、「しゃべくり007」という番組を先日やっていた。私の知らない中年女性タレントがゲストで出てきて、彼女は娘二人を伴っていた。
それでこの女性タレントと娘二人のどうでもいいプライベートの話が散々繰り広げられるのだが、番組の最後には、娘が母への感謝の手紙が読み上げていた。
テレビで家族がテーマになると、いつも最後の方には「感謝の手紙」が読み上げられて、ほろっと泣かせにくる。この構成は、この文章を読んでいる人も散々見ただろう。ステレオタイプな、いつものパターンだ。私は未だこんなパッケージでやってるんだな、と改めて辟易とした。
テレビというのはこんな風に全てが「テレビ的な構成」でできている。それも各テレビ局が何故か足並みをぴったり揃えている。たまに映画が放映されると、一ヶ月前にタイムスリップしたかと思うほど、ジブリ映画を繰り返し流している。まるである時間枠から抜け出せないかのようだ。
こんな感じで愚痴を書いていても仕方ないからもう切り上げるが、テレビは全部同じようなパッケージでできている。だから情報量がない。ここで言う情報量というのは、現実のざらざらした側面の事だ。
現実というのはざらざらとしているが、それをペラペラした薄いパッケージに閉じ込めて、テレビはこちらに届けてくる。だからテレビはどの番組も同じだし、見ても見なくてもどっちでもいい、というものばかりだ。
※
テレビというのはそういう低次元なものだが、私は唯一、ちょっとおもしろいなと思った番組があった(スポーツは除く)。それはNHKの「ドキュメント72時間」だ。
私が見た時はアニメショップが舞台だった。アニメショップにアニメグッズやおもちゃを売りに来る人を取材していて、そうした人達がどうしてそういうものを売りに来たのか、事情を聞いていく。
例えば、ある女性は転職を理由に好きだったアニメグッズを売る、とか。ある男性は、娘が昔に使っていたおもちゃを売る、とか。この男性はそのおもちゃをを売って得た金を夜の外食の足しにすると言う。それでその時には、もうすっかり大きくなった娘も一緒に食べるらしい。
うろ覚えなので、上記の話は多少違っているかもしれないが、番組ではそんな風な個人的な事情の積み重ねが、テレビ的な意味付けがあまりされずに流されていた。私はそれを見て(ちょっとおもしろいな)と思った。
何が面白いかと言うと、それぞれの人の個人的な事情、ただしそれほど深刻ではない個人の生き方とか性格とか、そういうものがうっすらと見えるような気がして、面白く感じた。
「ドキュメント72時間」が他の番組よりも面白かった理由は何より、取材した内容にテレビ的な意味付けをしなかった事にあると思う(番組を全部見ていないので、最後の方はどうなっているかわからないが)。
他の番組なら間違いなく、テレビ的なエピソード作りの為に、個人個人の事情が編集され、ねじ曲げられた事だろう。しかし「ドキュメント72時間」は、それほどの味付けもしないままに、個人の事情が流されていたので、私には面白かった。
この面白さとは、私は、「現実というのはざらざらとしており、そのざらざらを確かめる」ような面白さではないか、と思う。
深入りは避けるが、シモーヌ・ヴェイユという思想家の本を読んでいたら「現実とはざらざらしている」と書いていた。私はなるほど、と思った。
現実というのはざらざらとしている。それに対して、私達の望む願望・夢というものはツルツルとしている。メディア上のイケメンの顔、美女の顔がツルツルとしているように。
テレビ番組のほとんどは、適当に流し見している視聴者のレベルに合わせて、現実を加工して、飲み込みやすいようにして流す。そこではお決まりのパターンがある。
人はざらざらとしたものを辿るのが面倒だから、決まりきった、自分が事前に望んでいた情報を得て満足する。例えば大谷翔平はアメリカで大人気だ、というような。結論は既に出ていて、マスコミはそれをなぞって再提出してくれる。
しかしそれはあまりにも加工された、質感の欠いたエピソードだ。認識の面白さは違うところにあるだろう、と私は思う。そういう意味で、現実のざらざらとした手触りを唯一感じさせてくれたのが「ドキュメント72時間」という番組だった。
もっともこの番組も十分程度見ただけなので、こう評価するのは早すぎるかもしれない。しかしあまりにもひどいテレビ番組の羅列の中で、私にはこの番組だけは少しだけ面白く感じた。