木霊
分厚い暗雲が立ちこめる中、雷鳴が鳴り響く。一陣の風が突き抜けた先、嵐はもう、すぐそこまで押し寄せてきていた。見上げる天。見出せない、縋り付きたい希望。目指す、約束の地はまだ遠い。抜けられない、閉じられた狭き門を前に、窓を叩く。
「もはや、望みはないのでしょうか」
抑えつつ、期待を少しでも込めた願い。ただ、隔てた向こう側。皺を刻んだ初老の男性は、何度同じ言葉を繰り返したことだろう、疲れを見せる顔と声で応じた。
「申し訳ありませんが、ございません」
持ち合わせる答えのない、救いのない謝罪。新たな啓示が、今この瞬間に降りてくるはずもなく、だが、背かず寄り添おうとする姿勢は、男性の実直さを表していた。
「ならばどこかに、光は…」
「それも…、ございません」
指は空を打ち、示すもののない、平板な面。しかし、向き合った目を互いに逸らすことはない。置かれた立場を分かり合う、通じ合える空間がそこにはあった。が、天は残酷だった。
訪れる一面の雨、吹き荒ぶ風、万雷。
叩き付けられ逃げ惑う、押し込められる人々。災いは、悪戯ではない神の差配。人は弱く、抗し難く。しかしだからこそ、抗おうとするのではないか。
「他に、他に何か手立てはありませんか」
望みは去ろうと、光は途絶えようと、しがみつく最後の足掻き。それはたとえ、彼の地に辿り着けようもなくとも。
「でしたら、臨時便がございます」
<<音声>>
駅構内全域で、木霊した。