銀の鱗と図書室の鍵 4
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想いが通じ合った……。
そう思ってよいのだろうか。
これで、私たちはようやく本当の夫婦になれるに違いない。
けれど、先ほど見せられたジェラルド様の表情は、忘れられそうにない。
だからこそ、もうあんな顔をさせないと決意する。そう、ジェラルド様は、私がお守りするのだ。
それはともかく、私には先ほどから気になってしかたないことがあった。
「それにしても……。どんな二人だったのですか? 可愛いかったでしょうね……。ジェラルド様にも似ていますか!? 男の子と女の子、どちらが上ですか!?」
「はは、質問責めだな……」
「だって、私たちの子どもですよ!? 私だけ見られなかったなんて!」
「……あまり煽るな」
「煽る」
「失言だ、忘れるように」
優雅にお肉を切り分けて、口に運んでいたジェラルド様が、珍しいことに赤ワインを一気に飲み干した。もしかして、香辛料がかかりすぎていたのだろうか?
「こうなったら、早く二人に会えるように、白い結婚宣言を撤回していただきます!!」
「はあ、ステラ、君は……」
「わかってます! 私、ちゃんと習いました!」
「……何を習った?」
王太子の婚約者をしていたのだ。もちろん習ったに決まっている。
……詳しいことは、よくわからなかったけれど、何とかなるに違いない。
「……聞き捨てならないな? 君は、誰に何を習ったんだ?」
「ジェラルド様?」
立ち上がったジェラルド様が、なぜか怒ったような笑顔のまま、私に近づいてくる。
そのまま、長い指先が顎に当てられ、上を向かされる。……なんのご褒美なのだろう。
「頬を赤く染めて。……腹立たしいほど、扇情的だ」
「扇情的」
「そう、それで、誰に何を習ったんだ?」
「……えっと、教育係に」
「教育係ね……。なるほど」
ジェラルド様が、笑みを深めた。
あまりに妖艶なその表情に、なぜか背中がゾクゾクして、それなのに頬が熱くなる。
「えっと……」
「それで、何を習った?」
顎を上げられながら、触れあいそうなほど唇が近づく。……困った。白状すれば、私は実はよくわかっていない。
「あの、つまり、夫婦が一緒に寝て」
「……ああ、それで?」
「すべて万事、旦那様にお任せすれば良いと」
顎に当てられていた指先が離れていく。どうやらお預けらしい。
「はあ」
ジェラルド様は、私から離れていった大きな手で、なぜか顔を覆ってしまった。
「あの……」
「すまない。……いや、君はもうしばらく、そのままでいてくれ」
「えっと……?」
なぜかわからないけれど、ジェラルド様に呆れられてしまったらしい。
でも、普段であれば、相手に知らないことがあったからといって、呆れるような人ではない。
これは、よほどのことなのだろう。
「……さあ、そろそろ明日に備えて休もうか。部屋へは、もう戻れるようになったか?」
「……」
このままでは、もちろんバラバラに眠ることになるに違いない。
白い結婚の解消の鍵は、夫婦が一緒に寝ることにある。それだけは、間違いない。
「実は、まだ覚えられないのです! 連れて行って下さいませんか?」
もちろん私は、一芝居打つことにしたのだった。
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