軍法会議とアフタヌーンティー ※ジェラルド視点
────実は、軍法会議にかけられていた、と言ったら、君は怒るだろうか。……もちろん、すべての意見を覆して、返り討ちにしたのだが。
ところで、ステラにつけているのは、元王家の影であるレザンだけではない。
ラーベル公爵家は、王国の貴族で最も高い位置にある家であると同時に、王家の影そのものだということは、ごく一部の者しか知らない事実だ。
その象徴と言うべき存在が、執事長ドルアス・リーゼ。
王妃を輩出したこともある、リーゼ伯爵家出身の彼は、私が風の精霊ルルードの加護を受けたあと、教育係に任命された。
しかし、それは表向きの理由で、実際は彼は王家の影として私につけられたのだ。
王家の影は、隠れ忍んでいることもあれば、一般の人間のように、ごく当たり前のようにそこに潜んでいることもある。
ドルアスの場合は、元々の生まれもあり、後者が選択された。
そして、現在王国で騎士団長バルトと並び、剣の腕をたたえられているのは、ドルアスからの過酷な指導に耐えたからに違いない。
自らも精霊を従えているドルアスに、加護の力の使い方も学んだ私は、王立学園でもバルトとともに並ぶ者がいない武勇を誇るようになった。
「まあ、ドルアスとレザンがついているなら、確実にステラの身は安全だろう」
ステラが、普段見せていた冷静で大人びた王太子の婚約者としての姿。
それが、本来の彼女の姿ではないと知っているのは、ごく一部の人間だけだ。
「ふむ。今朝の様子からして、大人しく屋敷で過ごすことはないのだろうな……」
ステラと朝食を楽しんだあと、屋敷を出た私は、軍部のための会議室に足を運んでいた。
まだ、誰も来ていない会議室の窓に、コンコンッと小さな音。
やはりと思いつつ窓を開ければ、小さな青い鳥が小さな手紙を首につけて自慢気に羽根を広げた。
小さな手紙には、小さな文字。
メガネを掛けて、読み進める。
ドルアスの精霊の加護は、動物たちと意思疎通ができるというものだ。
対する私の加護は、多岐にわたるものの、未来が時々視えるという事以外は、身体強化や剣や魔法の力の向上など、目には見えづらい加護だったため、羨ましく思ったものだ。
「レザンがついているなら、もちろんステラの身は安全だろうが……。公爵夫人としての体裁までは考えられないのだろうな。……まだまだ、教育が必要だ」
小さな手紙には、案の定ステラのことが記されていた。
今日は、この王宮で私の姪である第三王女レイレアとお茶会をするという。
そして、ステラたっての希望、というよりもその暴走を抑えるため、お茶会の席はこの会議室がよく見えるテラスにセッティングすることにしたということが記されていた。
「ふむ……。さすが、王太子妃教育を受けているだけあって、展開の予想が正確だな」
気がつかれないように細心の注意を払っていたつもりだが、これから行われるのは、私が戦線を許可なく離脱した事に対する軍法会議だ。
勝算はもちろんある、精霊に愛される加護を受けた乙女を危険にさらしたことに対し、怒りを覚えているのは私だけではない。これは、精霊たちの総意だ。
***
そして始まった軍法会議。私は、持っている情報、権力、財力、全てを使って、展開を有利にしていった。こちらは問題ないだろう。そもそも、先に精霊たちを裏切ったのは、甥であるフェンディルだ。
彼はすでに王太子の資格を剥奪された。もし、私があの場に駆けつけなければ、この王国は精霊の加護から見放されたに違いない。
「しかし、見えづらい」
細かい文字が少々見えづらいことが否めない今日この頃。
精霊の加護を受けて以降、私の視力はものすごく良くて、どんなに遠く米粒のような対象でもはっきりその姿を確認できる。
その弊害として、近くのものは若い頃から少々見づらいのだ。
「──しかし、眼鏡まで必要になったのは、最近だ。……年かな」
私の罪状を長々と書き連ねた書類。
思わず眼鏡を外して目頭を押さえる。
もう少し、大きな字で書くという配慮はないのだろうか。
この会議には、もちろんバルトも出席するが、そのほかの面々は私よりもよほど、細かい文字が見えないに違いない。
眼鏡をかけ直し、もう一度書類に目を通す。
「……さて、そろそろか」
すでに、自分たちこそが軍法会議にかけられる側だったことに気がついて、青ざめている貴族たちを尻目に窓の外に視線を向ける。
「ずいぶん、楽しそうだな……」
「おいおい、この空気どうしてくれるんだよ。お前、どれだけ王国中の情報に精通しているんだ」
バルトが、近づいてきてため息交じりに俺の肩に手を置いた。
普段から、気安く接してくるから、あらぬ噂が立つのだろう。
そんなことを思いながら、楽しそうなステラから視線を外す。
「お、お嬢ちゃんか……。以前と違って、行動的だねぇ。しかもあのドレス、お前の贈り物か? さすが、可憐で美しいな」
「……見るな」
少しだけ、騎士団長としての仮面をずらしたバルトが、ステラに興味を示すだけで、いらだつ私の心は狭いに違いない。
それに戦場にその身を置く彼も遠目が効く。
にもかかわらず、メガネはまだ必要ない。
腹立たしいことこの上ない。
窓に視線を向けると、ちょうどステラがもう一度双眼鏡を当てたところだった。
こちらは、すでに見られていることに気がついているというのに無邪気なものだ。
遠くがよく見えるように眼鏡を外して、彼女を見つめ軽く首を傾げる。
驚いたように彼女は双眼鏡を外し、少し慌てているようだ。
微笑んでしまったのは、そんな彼女が可愛すぎるからに相違ない。
さて、さっさとこのつまらない会議を終わりにして、彼女を迎えに行くとしよう。
あの場所では、可憐な彼女の姿に、周囲の視線が集まってしまうに違いない。
「……軍部の最高責任者という立ち位置に未練などなかったが、守るために必要とあれば、しがみつくのも悪くない」
微笑んだまま、そんなことを呟いた私に、その本気を感じたのだろう。
会議に参加した者たちの顔色は悪くなるばかりだ。
そう、ステラを守るためなら、手段を選んだりはしない。
────この場の指揮権は、もちろん私にあるのだ。
老眼……ではないです!!
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