19 気質
そんな僕の重い想いはともかく、
ヴァニシアさんの爆弾発言を、皆さんはしっとりさらりと受け止めてくれました。
つまり、ロイさんご家族はいつだって、いつも通りのほんわか雰囲気で僕たちを見守ってくれているのです。
「ごめんね、フォリス君」
「ヴァニシアとシュレディーケさんが血縁の可能性がある事、俺もすっかり失念してたよ」
「確かにヴァニシアも、リグラルト王家の出身だったね」
「でもさ、普段は俺たち、姫さま扱いなんて全然してないもんな、なにせヴァニシアだし」
「そもそも、シュレディーケさんとは何度も顔を合わせてるのに、なんで何も言わなかったんだろ」
いえいえ、きっと気を遣ってくれていたのですよ。
元お姫さま同士にしか分からない何かがあるのですよ、たぶん……
などと申しておりますが、実は僕なりに諸々考えていたり。
で、よくよく考えたら、気付くためのヒントって結構あったのかも。
ほら、シュレディーケさんとヴァニシアさんって、結構共通点ありますよね。
強気で挑発的なのに妙に可愛らしい態度とか、
他の女騎士さんたちともちょっと違う、独特な言い回しとか、
あのハンパ無いわがままボディとか……
「なるほど、その表情こそが、ツァイシェルが惚れ込んだ"むっつり真面目えっち"なのだな」
ちょっと、ヴァニシアさんっ、
何だか混ざっちゃってますよっ。
ほら、アヤさんにまで笑われちゃってるよ、僕。
みんなも笑ってるし……
あれ、そういえば、アリシエラさんは?
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お庭の隅で、ひとりたたずんでいるアリシエラさん。
あの愛らしいネコミミが、ぺたんとしょげかえって、
凛々しいネコしっぽも、へにょんとしおしお。
ロイさんは、あれは今回の『ナマハゲ』の件でへこんでるだけだから反省させておいてって言ってたけど、何だかほっとけないよね。
「……すごく残念なのです、フォリスさん」
けんちゃんに『ナマハゲ』を没収されたことですか。
「それもありますが、大事なのはその先の可能性が潰えたってことなんです」
「けんちゃんから開発中止を言い渡された魔導具は、もう二度と日の目を見ることはありません」
「もっとしっかり研究してから開発していれば、蘇生させずに鮮度のキープだけ出来たかもしれないんです」
「私の不手際でこんなミスが起きてしまったのが、あの子に申し訳なくて……」
アリシエラさんらしくないですよ。
「?」
いつもみたいに、誰にも負けない前向き魔導具技師でいてくれないと、みんなが愛用している魔導具たちも困ってしまいますよ。
『ナマハゲ』とはこれでお別れになっちゃうけど、これまで頑張ってきた魔導具たちも、これから生み出される魔導具たちも、みんながアリシエラさんの子どもなんです。
お母さんが元気でいてくれないと、子どもたちが心配しちゃいますよ。
もちろん、子どもたちを預かっている里親のみんなも、ね。
それに何より、アリシエラさんのチャームポイントのネコミミとネコしっぽがそんな状態だと、僕の元気の元も無くなっちゃいそうなんですけど。
「……もしかして、口説かれちゃってます?」
いえいえ、僕はシュレディーケさんひと筋なのが自慢なんです。
えーと、何だかみんなが僕のことをむっつりえっちって思ってるみたいだし、この際だから開き直っちゃいますね。
もうこれからは、僕の性癖がむっつり方面に邁進するのを誰にも止められませんよ!
「じゃあ、フォリスさんのむっつりパワーが満タンチャージされるよう、私も元気を出しますねっ」
そうそう、それそれ、
そのぴょこんと立ったネコミミと、
ピンッと立ったネコしっぽ。
それでこそ、天才魔導具技師兼ナイスバディネコミミメイド、アリシエラさん!
……ってなこと言ってるけど、実はちょっとだけ後悔。
せっかくハグなり何なりで直接なぐさめる機会だったのに、遠慮してネコミミをモフれなかったのは、へたれ方向にむっつり気質が作用しちゃったから、でしょうか。
修行が足らんぞ、僕。




