17 開放
『阿呆』
ロイさんのお宅の屋根の上、
僕たちを見下ろしながら、
ひと声鳴いたアレは、
ススケ鳥!
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『ナマハゲ』を開けた瞬間、元気に飛び出してきたススケ鳥。
上空でくるりと輪を描いてから、ロイさんのお宅の屋根に。
おや、つかんでる何かをついばんで、
って、アグラタケかよっ。
本当、なんで生きてるのさっ。
「やっぱり、こうなっちゃったんですね」
えーと、どなた?
「ご無沙汰してます、皆さん」
「フォリスさんは、初めまして、ですね」
「僕は『鏡の賢者』と呼ばれている風来坊です」
「けんちゃんって呼んでもらえると嬉しいです」
「あちらでにこにこしているメイドさんは、アヤさん」
「今日は、アリシエラさんの新作魔導具の件で伺いました」
初めまして、けんちゃん、アヤさん。
えーと、この『ナマハゲ』が何か?
「本当に凄い魔導具が発明されたみたいですね」
「凄すぎて、ちょっとほっとけないくらいに」
??
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お庭に用意されている食卓には、盛りだくさんの副菜やデザート。
えーと、メインディッシュは飛んで逃げちゃいましたし……
で、ちょっとアレな空気の中、みんなでそれを囲んでお食事会。
自己紹介の後、けんちゃんから、いろいろとお話を聞けました。
けんちゃんは、この世界の全てを見守ってくれている管理人さんなのだそうです。
普段はできるだけ世界に干渉しないようにしているけど、
人の手に負えないような魔物や天災が大暴れしそうになったり、
人の手に余るような魔導具が発明されたりした時に、
ちょっとだけ世界を修正して、僕たちを導いてくれるのだそうです。
えーとつまり、今回は『ナマハゲ』がそれに該当する、と。
「アリシエラさん、頑張っちゃったみたいですね」
「普通の『収納』バッグでは劣化を防げないアグラタケみたいな特殊なモノでも完璧に保存出来るようにと、これまでの魔導技術の粋を集めて開発しちゃったのでしょう」
「それで、凄い付与を掛けまくった結果、あり得ない性能の魔導具に」
つまり、入れたモノをできるだけ新鮮な状態に保とうと凄い付与をし過ぎたせいで、
いちばん新鮮な状態、イコール、生きている状態となって、
死んでいた獲物が生き返っちゃった、と。
「まさにそうなのでしょうね」
「その証拠が、あそこの屋根の上に」
『阿呆』
……本当に凄いですよね、アリシエラさん。
でも死者蘇生の魔導具なんて、それこそ人の手に余る存在ですよね。
「フォリスさんが噂通りの方で良かったです」
「この『ナマハゲ』は、やはりこの世界にはあってはならないモノなんです」
「それを正しく認識してくれたフォリスさんを、僕は尊敬します」
いえいえ僕なんて、いたって平凡な狩人、
って、僕の噂って、なんなんですか!?
「大丈夫ですよ、悪い噂ではありませんから」
「"魔灸の森のその奥に、誰よりも生真面目で、ちょっとえっちな、"若狩人"と呼ばれる若者が、ひっそりと暮らしている"、だそうですよ」
良かった、変な噂じゃなくて、
って、ちょっとえっちってなにっ!
「うん、ちょっとえっちだよね、フォリス君」
ロイさんっ!?
「少々むっつりえっちさんだと伺っておりますよ」
セシエリアさんっ!?
「フォリスさんくらいの歳頃の男の子なら、それくらいが普通ですよ」
リノアさんっ!?
「でも、むっつりはいかんな」
「男たる者、開放的かつ積極的であるべきだと思うぞ」
「まあ、ツァイシェルが妻として側にいてくれるなら、何ら問題はあるまい」
「主に性的な意味で」
ヴァニシアさんっ、主に性的ってなんですっ、
ってか、なんでシュレディーケさんの本名を!?
「血縁であるから、だな」
「最も、あの国にいた頃は顔を合わせる事は無かったし、ツァイシェルは私のことは知らないと思うぞ」




