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二泊三日異世界の旅   作者: 燻製ちくわ
第一章 最初の転移者
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最初の転移者ー4

ようやく朝になってきたのだが、昨晩はほとんど寝ることが出来なかった。 泥棒や強盗を警戒して眠れないわけでも、ベッドが無いから寝れない訳でもない。 原因は膝の上で気持ちよさそうにねている優愛ちゃんのせいだ。


事の顛末は、寝るときに二人ともリュックからシートを二枚取り出して、一枚は下に敷いて、もう一枚は体を隠すように顔だけ出してかぶるようにして、二人ともかべに寄りかかりながら寝ることにしたのだ。 その時に、


「もしかすると、荷物の持ち逃げや誰かが入ってくる可能性もありますから、荷物と武器を近くに置いて、警戒だけはしておきましょう。」


「りょうかい。 それじゃあ、荷物を近くにおいて隆行君の近くで寝るね。 よし、じゃあおやすみ」


「じゃあおやすみ」


二人並んで壁によりかかって寝始めたのだが、優愛ちゃんは十分もしないうちに顔を僕の左肩に当ててきたのだ。 まるで、電車内で熟睡してとなりの座っているひとに寄りかかっているような状態だ。 熟睡しているので起こすのは気が引けるし、なにより体温があたたかく鼻には女の子の甘い匂いが来て、しかも手には優愛ちゃんの吐息がかかって気持ちいいので、起こすことも動く事も出来ずにしかも今まで眠かったのに心臓はドキドキ、頭の中はモンモンで目が完全に冴えてしまった。 しかも、そこからしばらくすると、優愛ちゃんの頭が僕の膝の上に着地をして、膝枕をしているような格好になってしまった。 当然眠れる訳もなく今に至ると言うわけだ。


優愛ちゃんが目を覚ましたようだ。 目を覚ました瞬間に今の自分の状況を把握したらしい。 急に飛び起きると、少し後ろに下がって、


「ごごごごめんなさい。」


まず、なぜかあやまってきた。


「膝痛くありませんでしたか?」


それよりも、ドキドキしすぎて眠れなかったですよと思ったけど口には出さなかった。


「軽かったですし、全然痛くないですよ。」


そう答えとくしか無かった。 優愛ちゃんを見ていると昨晩のことを思い出し、下の方も反応してしまいとても恥ずかしいので、


「それより、顔を洗ってきたらどうですか?優愛ちゃんが洗い終わったら今度は自分が井戸のほうに行きますので。」


そう言って優愛ちゃんを追い出したのだった。


朝ご飯も昨日会った男が三人分用意してくれたようだ。 男は、


「そういえば昨日は聞きそびれたが、君たちの名前はなんて言うのだ。 しばらく一緒にいることになるのだからお互い名前を知っていたほうがいいと思ってな。」


「僕は、内田隆行です。」


「私は、舟山優愛です。」


「隆行君、優愛ちゃんで呼び合っていたから名前は大体分かっていたよ。 私の名前はロック=ロンベルトだ。ロックと呼んでくれ行商人をやっていて、この地域で商売をしている。 聞いた通りなら短い付き合いになると思うが、まあ、よろしく頼む。 まずは、君たちの分も用意しておいたから遠慮しないで食べてくれ。」


そう言って、カロリーメイトみたいなものを渡してくれたので、食べてみたがかなり固く、また味はフランスパンみたいな味だった。 それと、商品らしき果物ももらったけど、そちらのほうはみずみずしくて美味しかった。


朝ご飯が終わったので、アローボードの町に出発する準備をしはじめた。 僕たちはリュックを背負って、水筒に水を入れ替えるだけだったが、ロックは荷物を積んだ馬もいるので時間がかかるのかと思っていたが、慣れているのか少しの時間で出発の準備が整ったようだ。


「アローボードの町にはどれくらいかかるのですか?」


そう聞くと、


「大体、昼過ぎには到着すると思う。 到着したら信頼できる宿とおいしいものが食べられる所を紹介するよ。」


何から何まで世話になって本当にありがたい。 異世界に来た当初は無事に帰れればそれで満点で、食べ物も寝る場所も相当我慢しなければいけないと思っていたが、この感じだと旅行みたいになってきた。そう思っていると


「おいしいもの、楽しみだね。」


僕も相当に楽しみである。 昨日の朝から質も量もろくなものを食べていないので、朝からまだ見ぬ料理が楽しみになってきた。


「じゃあ、出発しますか。」


そう言ってアローボードの町へ足を向けるのだった。



「ところで、アローボードの町ってどんなところなのですか?」


町に向かう途中にロックに聞いてみた。


「うーん 畜産が盛んなだけのそれと言って取り柄のない普通の町だよ。 とは言っても君たちはこことは全然違う世界からやってきたのだから、もしかすると驚くことが多いかもしれないね。 案内のしがいがあるよ。 それに、この町は他の町や村へのアクセスがいいから、商売をするにも適していると思っている所なんだ。 今回譲ってもらえる薬をうまく売ることが出来れば大きく稼ぐことが出来るだろうし、そしたらこの町でお店を持ちたいと思っているんだ。 そのチャンスをくれた君に感謝しても感謝しきれないよ。」


どうやら、自分が譲る薬はこれだけの価値があるらしい。 優愛ちゃんも同じ薬を持っていることは黙っておいたほうがいいな。 それにこれだけの価値のあるものを譲るのだから、いっぱい世話になってもバチはあたらないだろう。 なので、ロックが少し離れているときに、優愛ちゃんを手招きして小さな声で言った。


「優愛ちゃんの持っている薬の事は黙っていたほうがいいと思う。」


それに対して優愛ちゃんは、


「どうして? 私の持ってる薬も渡せばもっと喜ぶんじゃないの?」


「今、優愛ちゃんが持っている薬はどうやら価値が思っている以上に高いようだから、もっと持っていることを教えたら悪いことに巻き込まれる可能性が上がるだけだと思う。 だから、黙っていたほうが安全だと思うんだけどどうかな?」


「隆行君がそう言うのならそうする。」


話が終わった頃にロックが戻ってきて、


「もう少し進んだら昼ご飯でも食べるか。」


それから、しばらく進んだ後、お昼ご飯にした。 巡礼小屋から道なりにはずっと草原が続いていたが、この辺になると放牧されているらしい牛や豚を見かけた。


「油断してると豚にご飯盗られるから気をつけたほうがいいぞ。」


そうロックが言ったので僕と優愛ちゃんはまわりを見渡して、豚がいないのを確認してからリュックサックの中からパンとハム、それに昨日もらったリンゴを取り出して食べ始めたのだが、僕たちは上には警戒していなかった。 優愛ちゃんがハムを開けようとした瞬間にその時を狙っていたのか、トンビのような鳥がパンを咥えてそのまま飛び立ってしまった。 一瞬の出来事でもはや呆然とするしか無い。


「上の警戒を忘れてたな。」


ロックはボソリと呟いた。 なんか優愛ちゃんは怖かったのか泣きそうな顔をしていたので、なんと声をかければいいのか分からなかったのだが、自分の食べていたパンを半分に分けて、


「これ食べて。」


と渡した。 よく考えたら、怖い目に会った女の子に対してかなり赤点な対応なんじゃないかと考えてしまったが、


「ありがとう」


そういって泣きそうな顔から急にニコッとしてくれたので、うれしい気持ちになり、女の子ってコロコロ表情を変えるのだなと思った。 そんなことをしていたら、今度は豚にご飯を狙われていたようだが、それはロックが気付いて追い払ってくれた。


昼ご飯を食べ終わった後、しばらく歩いていると、少しずつ民家が見え始め、それとともに人も見え始めた。 自分たちの服はあまり見かけない服なのか、珍しそうな目でみられる事もあったが、なんだか日本に住んでいる人よりも穏やかというかゆっくりしているというイメージだった。 民家の数が多くなり、色々なお店などが見え始めたときにロックが、


「アローボードの町に着いたぞ。 まずは、宿屋に案内するからな。」


そう言い、宿屋に向かったのだった。










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