最初の転移者-3
男は少し先に行くと巡礼小屋があると言っていたが、歩いても歩いても見えるのは草原の同じような景色だった。 人通りも全く無くて、本当に巡礼小屋があるのか少し不安になりながら歩いていた。
「なかなか着かないね。 さっきの男の人は少し先だと言ってたのにね。」
荷馬車の男にとっては少し先なのだろう。 そう思って黙々と歩いていたら、ようやく木でできた古い丸太小屋のような建物が見えてきた。 近くまでくると、井戸のようなものも見えた。 おそらくこれが巡礼小屋なのだろう。 誰でも入っていいとの事なので中に入ってみた。
小屋の中は真ん中に消し炭のようなものが残っていて、おそらくここで火をつかえるのだろう。 それを囲むように切り株が置いてあり、小屋の外側には汚れたカーペットみたいなものが敷いてあった。 とりあえず雨風がしのげるレベルな建物だけど、かなり歩いてお腹がすいていたので、
「ここでお昼ご飯にしませんか?」
そう言うと、優愛ちゃんは
「賛成 もうお腹ペコペコだよ。」
と言い、リュックサックを開けた。 自分もリュックサックを開けて食べ物を取り出すけど、これからの事を考えるとあまり量は食べてはまずい気がする。 なので、先ほどもらったリンゴとパン1つと缶詰を食べることにした。 優愛ちゃんは、リンゴとパン、そしてハムを開けて食べようとしていたが、
「缶詰、半分ちょうだい。 かわりにハムあげるから」
そう言ってハムと缶詰の交換を提案してきた。 気軽にいいよと言ったけど女の子とおかず交換をするのは生まれて初めてなので、交換した後からドキドキしてきた。 そんなのはお構いなしで優愛ちゃんはおいしそうに半分渡した缶詰を食べていた。
昼ご飯を食べ終わった後に、この先にあるアローボートの町に向かうべきか、それともここを拠点にして3日間過ごすべきか話をした。 自分の考えは町までどれだけ距離があるのか分からないし、町にたどり着けたとしても、お金を持っていないからおそらく野宿することになるだろうから、ここに3日間とどまっていて、時間が来たらゲートに入って帰るのが確実だと思う。 自分の考えを優愛ちゃんに話したら、
「私もそう思う。 まず、日が暮れるまでに町に着くかどうかも分からないもんね。 少し先でこれだけ歩かされたのだから、町に着けるか不安だよ。」
まずは、ここにとどまる事で決定だ。
「では、旅のしおりを目を通して、その後、外に出て食べられるものを探しましょう。」
「何か見つかるといいね。 今あるだけだと足りないもんね。」
こうして、食料探索を始めた。
夕方になって、日が暮れてきたけど、食べられる物は何も手に入らなかった。なんとか食べられると書いてあった果実は見つけられたけど、木の背丈が高かったので断念したのだ。 しかも、思っていたよりも遠くまで食料を探していたらしく、巡礼小屋に着いた時にはかなり暗くなっていた。
巡礼小屋の中に入ると、中には先客がいた。見た感じ話しやすそうと言うか、車などを売る営業マンのようなイメージの痩せ型の男が炭を継ぎ足して火をおこそうとしていた。 自分たちも手伝わないといけないのかも知れないけど、火のおこすための道具も材料もないので、火をおこすところを見ていたけど炭を継ぎ足した後に細長い棒のようなものを炭に押し当てていたら、そのうち炭が赤くなってきた。炭がある程度赤くなってきたところで男の方から声をかけてきた。
「こんばんわ。 このへんでは見かけない格好をしているけど、もしかして君たち遠くから来た者かな?」
「前にあった人にも同じようなことが聞かれました。 おそらくそうです。今日、日本から来ました何もかも知らないことだらけですのでいろいろと教えて下さい。」
「オーケーだ。 昨日カミル様からお告げがあって、君たちの事は遠くから来た者、又は繁栄をもたらす者と呼ばれている。昨日にいた町ではこのお告げがどういう物なのかで話題は持ちきりだった。 おそらくどこの町でもそうだろう。これだけ大規模なお告げなど今まで無かったからな。 なので、こちらこそ君たちの事をいろいろ教えてほしい。これは自分にとっても大きなチャンスになりそうだからな。」
そう言って、鍋のような物を取り出し、水と乾麺らしきものを中に入れ、火で温め始めていた。 僕はとなりにいる優愛ちゃんに小さな声で
「この人に、今まで起きたこと全部話して思うのだけど思うのだけど どう思う?」
「私は賛成かな。 なんか優しそうな人だし、危ない目にあうことはなさそうな気がするから。」
こうして、僕たちは昨日の事から 今日、自分たちに起きたことを男に話した。
「聞いていて信じられないことばかりだ。 けど、見ている限り本当の事のようだね。とんでもないことに巻き込まれたじゃないか。 すなおにそこは同情するし、できることは助けてあげたいよ。 まずは食事にしないか?」
そういわれたので、自分たちもリュックの中からパンやハムを取り出すと、
「何だこれは。 パンのようだけど見たことがないぞ。」
どうやら、包んであるビニールなどは見たことが無いらしい。 腐ったり汚れたりしないために包んであるものだと説明したら、
「君たちのいる国ではこういう物があるのか。」
普通にありふれていますと答えたら、
「便利なところだな。 ぜひ行ってみたいものだ。 それと、今ゆでてるのを食べないか? これだけだと少ないんではないか?」
そう言ってくれた。 非常にありがたかった。こちらの食料は保存は利くかもしれないけれど、量がすくないのだ。
こうして、乾麺みたいのを足してくれたので三人で食べた。 味はチキンラーメンみたいな味だったけど、すごくおいしく感じた。 それを食べながら
「ところで、お金はどうすれば手に入りますか? 働いて手に入れる以外の方法はありますか?」
そうたずねると男は
「自分は旅商人だから、めずらしいものがあったら買い取るよ なんだか珍しい物をもっているようだしね。」
そう言ってくれたので、自分のリュックサックにはいっている物を目の前の男に見せた。男は中に入っているものの中で小さな瓶に入っている薬を見て、
「これは完全回復薬ではないか。 しかも外傷用の完全回復薬もあるのか。 これ二つで自分の荷物全部と交換してもお釣りがくるぞ。 これを売ってくれてもいいのか?」
僕たちとしては、優愛ちゃんも同じ物をもっているし、元の世界に戻ったら無くなってしまうので、町で宿泊と食事ができるお金だけもらえれば十分だった。けど、いくらくらいの価値なのかわからないので聞いてみたら市場に出回ることはあまり無いけど安くても金貨100枚ということだった。 そして、町で二人宿泊と食事をしたとき、豪勢に使ったとしても、金貨2枚あれば足りるとのことだった。 なので、薬を売りたいのだけれど手持ちにいくらあるのか聞いてみたら金貨10枚と銀貨30枚あるようだった。なので
「このお金と薬を一本交換しませんか? それと、提案なのですが次の町までついてきて案内してもらえませんか。 そうしてくれたら、自分たちが帰るときにもう一本のほうの薬もあげます。」
「本当にいいのかそれで。 この薬をちゃんとした値段で売れればしばらくはお金に困らないぞ。」
「あさってには元の世界に戻る予定ですし、薬もお金も持って帰れないらしいので、この値段でお売りします。」
そう言って完全回復薬と金貨10枚、銀貨30を交換した。それと、行先の予定を変更して明日はアローボードの町へ戻る事にしてくれたらしい。 僕たちが渡す薬にはそれだけの価値があるようだ。 しかも、男の持っている袋から干し肉と水筒を取り出して、
「これは俺からのおごりだ」
そう言って、鍋の中に干し肉を入れて、柔らかくなってきたら渡してくれた。 食べてみたらビーフジャーキーをお湯で戻した感じだったけど、とてもおいしかった。そこに隣で静かに干し肉を食べていた優愛ちゃんが
「私たち大金持ちだね。」
そう言ってくれた。 あと2日半滞在滞在でこれだけのお金があれば確かにそうかも知れない。 なによりも、これで無事に帰れる可能性が大幅に上がったことは間違いないと思う。
「一応受け取ったお金を半分こにしておきましょう。 何がおこるかわからないですし。」
そう言って優愛ちゃんに男からもらったお金を半分渡した。優愛ちゃんはうれしそうな顔をしてありがとうと言ってくれた。 その顔を見て少し照れくさくなり、微妙に目をそらした時に、
「若いってすばらしいなー」
男は水筒に口をつけ、ニヤつきながら言った。 顔が幾分赤くなっているのでおそらくはお酒なのでは無いかと思う。
「君たちはいつ知り合ったの?」
そう聞かれたら、すかさず優愛ちゃんが
「今日の朝に会いました。」
そう答えた。そしたら、男の人はさらにニヤつきながら、
「彼のことはどう思う?」
と訪ねてきた。 この酔っ払いが何きいてんだと思ったが、優愛ちゃんは
「隆行君はとっても頼りになると思います。 わたしが朝起きて混乱しているときも、初めて現地の人に話しかけた時も、そして、今この瞬間も、隆行君に頼りきりです。 彼がいなかったら今、こうしてゆっくりと食事なんて出来なかったです。だから、これからも一緒に歩いていきたいです。」
優愛ちゃんは顔を赤くしながらそう言ってくれた。 その顔は本当に可愛くて、彼女を地球に戻るまできちんと守り切ろうと思った。多分自分も顔は真っ赤になっていると思う。
「愛されてるねー。」
男はそう言い、ここにいる全員が顔を赤くしながら異世界に来て最初の夜は更けていくのだった。