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呪術的解釈

 もう一日、動力のないラジオと、そこから響く女の声と同居し……ぐったりしながら雷古はラジオを抱えて、すべての始まりの地、三人で騒いだ神社に足を運んでいた。

 時刻は昼時、天気は晴天。にもかかわらず気分は憂鬱。原因は狂ったラジオ。言うまでもない。石碑を通り過ぎ、天満宮と刻まれたモノを見て、本物らしき少年は頷いた。


「あぁ……なるほど。これは場所が悪かったですね」


 あくまで丁寧語だが、二つ下の少年……明石 優魔の口ぶりには粘着質な気配がある。弟を通して、ここに至るまでの経緯もSNSで送信済みだ。顎下に手を添える『本物』の彼に目線をやると、すぐに彼は説明する。


「この神社……『天満宮』では、どなたをお祀りしているかをご存じで?」

「え? いや……全然。ただの神社としか思ってない……お狐様とか?」

「それは稲荷神社系列ですね。有名ですし、各所に社もあるので、確かに多いです。ですがここに鎮座なさっているお方は――『菅原道真すがわらのみちざね』様です」


 菅原……どこかで聞いた事のある苗字だ。歴史の授業で目にしただろうか? 記憶を探る雷古に対して、優魔は頷く。


「平安時代に生まれた貴族の御方……当時は相応の立場を持っていた御方のようです。ですが政略によって無実にも関わらず左遷……と言うより、事実上の死罪を言い渡された。だが、かの御人は死してなお、怨霊として無念を晴らしたのです。自らを貶めた者どもへ……雷を直撃させてね」

「雷って……それ偶然じゃ……」

「さぁ? 実際はどうでしょう? でも『菅原道真』の祟りだと、信じられる状況はあったようです。直前まで晴天だったのに、急に曇って雷が降り注いだ。おまけに被害を受けたのは、積極的に政略に加担した人間ばかりだったそうです。人間が雷で直接被害を受けるケースは稀ですが、その上被害者が軒並み偏っていては……」

「…………」


 偶然、とは思えないだろう。今の雷古にも『偶然』とは思えないのに、神仏の力がずっと強かった時代なら、間違いなく怨霊の祟りと思うだろう。「ここに祀られているお方は、そういう背景をお持ちだ」と言い、優魔はラジオを指して告げる。


「故に――恐らく悪霊に対しても、比較的寛容であらせられる。自分自身もかつては怨霊やんちゃだった訳ですから……この境内にたむろするぐらいなら、大目に見ていたのでしょう。それを……どうもあなた方三人は、運悪く拾ってしまったらしい。とはいえ雑霊の類ですので、被害はささやかで済みましたが」

「ふざけんなよ。クッソ怖ろしい目に――」

「力の強い悪霊でしたら……その場で全員神隠しか、もっと良くない事が起きていますよ?」


 暗に『迂闊な事をするな』と、叱責を食らった気分だ。実際の所そうなのだろうが、年下の分、気に食わない。むっとする雷古を無視して、優魔は話を続けた。


「持ち込んだ道具も……触媒としてほぼ最適な物を選んでしまった。ラジオやテレビの類は、はっきり言って『巫女』と同じ効力を発揮してしまう時があるのですよ」

「巫女? 巫女ってあの……赤い袴と白装束の奴?」

「そうです。イタコや口寄せ役と言い換えても良いでしょう。神託を受ける――と言う行為を、あなた方は疑似的にしてしまったのです。

 神域・神社と言う『霊的な世界と電波が通じやすい場』

 儀礼・儀式と言う『チューニング』

 そして受け取り手である巫女は――いわば『神意の受信機』なのですよ。丁度ラジオが、電波を受け取って、音楽や言葉にするように。口寄せの巫女は神の言葉を受諾し、人の言葉に還元する。いわば……『巫女とは神の言葉を受信し、解釈し、言葉にして発するラジオのようなもの』なのです」

「…………じゃ、じゃあ、俺たち三人がやったことって」


 彼らは神社に集まり、ラジオ片手にどんちゃん騒いだ。

 明石 優魔の説明通りなら――霊的な電波の繋がりやすい神社で、どんちゃん騒ぎが儀式、すなわちチューニングになってしまい……『受信機』の機械であるラジオ、いや『巫女』に取り付いてしまっている……?

 馬鹿なと思う反面、既に超常現象は目にしている。まだ信じきれない雷古に対して、優魔は一つの例を上げた。


「良くあるでしょう? 悪い霊に取り付かれて、そのまま意識や体を取られかける話が。巫女にも稀にある話です。今回の場合はそれが『生身の人間』ではなく『ラジオ』に変わった……ボクはそう解釈しました」

「……で、どうすればいいんだ? ラジオを壊せばいいのか?」

「確かにそれでも、解決するかもしれません。ですがラジオから解き放たれた女の霊が、別の物に乗り移らないとも限らない。ここは……この場の主である、道真様に助力を乞うてみるとします」


 すっ、と瞳を細め、奥にある神社に目を向ける優魔。異形の気配の奥底に、真摯に事態と向き合う人の意思を感じる。静かに雷古を見つめると、ついつられて頷いた。

 なぜ、と言われると原因は分からない。けど『そうすべきだ』と、心のどこがが知っていた。何も合図する事もなく、明石優魔と重田雷古は……天満宮、すなわち『菅原道真すがわらのみちざね』へ……人ならざる超常、祀られる平安の怨霊貴族の御方と対話すべく、その聖域に足を踏み入れた……

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