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第5話【取引】

「がっはっはっは! なんだお前ら。すでに息ぴったりじゃないか。俺とカアちゃんもなぁ……」

「ベアード。話し足りないところ申し訳ないですが、彼女、エマと大事な話があるんです。世間話はまた今度の機会に」


「ん? ああ。こりゃ、すまんな! がっはっは。またカアちゃんに怒られちゃうな。あの怒った顔もまた可愛いから困っちまうんだが」

「わーったって! アッシュが言っただろ? 俺らの部屋にあげるかんな」


 うーん。ここまでベアードにベタ褒めされる奥さんというのを今すぐ見てみたい気もするけれど、それはアッシュとの話が終わってからでもいいかな。

 それにしても、ほいほいついて来たけれど、話の内容については何も聞いてない。

 一体どんな話をするつもりなんだろう。


 私はにこやかな笑顔を作るベアードに見送られ、階段を上り、突き当たりの一室へと向かった。


「ひとまずそこにある椅子に座ってください。今何か飲むものを出しますから」

「あ、俺がやるよ」


 アッシュが勧めてくれた椅子に腰掛けてる間に、今までほとんど話してなかったジュエルが自らやることを申し出た。

 程なくして、いい香りのするお茶が、不揃いのカップに注がれ運ばれてくる。


「あ、ありがとう」

「熱いから、気をつけろよな」


 お礼を言って受け取ると、少し伏せ目がちに、ジュエルが注意を促してくれた。

 あれ? 今まで気づかなかったけど、ジュエルって私より若いかも?


 口調も丁寧で物腰穏やかなアッシュは、どう見ても私よりも年上だろう。

 そんなに離れてはいないだろうけど。


 クレイは……多分私と同じくらいだろうけど、絶対精神年齢は私より下よね。

 そうじゃなきゃ、あんな失礼な発言うっかりでも言わないもの。


 そしてジュエルは、中性的な顔立ちだと思っていたけど、もしかしたらまだそういう身体的特徴が発達する前の歳なのかもしれないと思った。

 実際は分からないけどね。


 そんなことを考えながら私はカップを口元に寄せ、少しだけ口に含んだ。

 ほんのり甘く、すっきりした味わいのお茶が口の中に広がる。


「さて……ここに来ていただいた話をしたいと思うのですが、よろしいですか?」


 もったいぶったアッシュの物言いに、私は首を縦に動かすことで答える。


「話というのは他でもありません。エマさんと、取引をしたいのです」

「私と、取引?」


 取引とはどういうことだろうか。

 私は次にどんな話が繰り出されるのか想像してみたけれど、全く思いつかない。


「ええ。エマさんは言いました。名前以外は何も思い出せないと。あの最近入り口が地上に繋がった遺跡にいた理由すら」

「え、ええ。そうね」


「だとすれば、少なくとも、生きるために先立つものが必要なはず。さらに生きるための知識も。違いますか?」


 私の目をしっかりと見つめてくるアッシュに、私はドギマギしてしまう。

 だけど、アッシュが言っていることももっともだ。


 私が眠りにつく前に持っていた貨幣は、その価値を失ってしまっているだろうし、何よりこの時代の常識すら一切分からないのだ。

 誰か教えてくれる人が近くにいるに越したことはない。


 ただ、アッシュの口ぶりからして、善意で無償に提供してくれる気はなさそうだ。

 だけど、私にはその対価になりそうなものが思いつかない。


「そうね。もしだけど、アッシュたちが手助けをしてくれるなら、こんなにありがたいことはないわ」


 私は次の言葉を促すべく、アッシュの言葉に乗る。

 いずれにしろ、今の私は食べるものを確保することも、今日の寝床を用意することも難しい。


 その気になればそこらへんで転がって寝ることもできるけれど、この時代がどのくらい安全かも分からないのでは、そうも言ってられない。

 私の返事に満足そうにアッシュは頷き、続く言葉を発する。


「あなたが状況把握能力まで失っていないことに感謝します。まぁ、これまでのやり取りでは、それはないと分かっていましたが。単刀直入に言います。あなたの当面の生活に必要なだけの資金、それと、記憶が戻るまでの身の回りの世話をする代わり、あなたの持っているその魔道具(アーティファクト)を私たちに譲ってください」

「な!? おい、アッシュ! 俺たちに断りもなく、いきなりなんの話進めてるんだよ!!」


 アッシュの提案に驚いている私をよそに、クレイがアッシュに食ってかかる。

 そんなクレイをアッシュは右手を突き出して静止した。


「どうですか? エマさん。あなたにとって、そんなに悪い提案ではないはず。あなたは自分が発掘屋ではないと言った。それなら、その魔道具(アーティファクト)が無くてもそこまで困らないはずです」

「えーっと。もう少し詳しく聞かせて。具体的に、当面の生活にひつようなだけの資金というのはどのくらい?」


「そうですね……これくらいを考えています。五十万リラ。贅沢をしなければ、一ヶ月はゆうに暮らせるだけの金額です」

「おい!! アッシュ! そりゃないだろ!!」


 先ほど静止を受けたクレイが、再びアッシュに食いつく。

 もしかしてアッシュは法外な金額を提案してくれているのだろうか。


 だって、こんな光源の魔道具一個で一ヶ月暮らせるだけの価値があるだなんて。

 どう考えたっておかしいから。


「クレイ……私は黙ってくれと、合図を送ったはずですよ?」

「黙ってられるかよ! あの魔道具(アーティファクト)に五十万リラだと? いくらなんでも()()()()!!」


 クレイの言葉に私は目が点になり、アッシュは深いため息をついた。

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