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第3話【千年先の未来】

「しっかし、こんだけ頑張ったのに、収穫はゼロだとはなぁ……」


 クレイたち発掘屋のメンバーの一人である、ジュエルが頭の裏に両手を回した格好で、そう悪態をついた。

 ジュエルは発掘屋には欠かせない鑑定士という職業だと、自己紹介の時教えてくれた。


 青色のサラッとした髪の毛を後ろで縛り、碧色の目は、油断なく隅々を探索している。

 私たちが今いるところは、私が目覚めた部屋、つまり元研究室だった場所だ。


「残念ですね。ここを見れば、相当量のアーティファクトがあったことが窺えます。もしかしたら宝物庫か何かだったのかも。それにしては奇妙な作りですが……」


 そう言ったのはアッシュ。

 彼はメンバーの中のリーダー的な存在で、先ほどブレードスパイダーを倒した人物でもある。

 灰色の長髪を真っ直ぐに下ろし、銀色をした目で、手に持ったすでに原型を留めていない魔道具の欠片を見つめている。


 いやいや。

 ここは宝物庫なんかじゃないですよ。

 私の研究室ですよ!


 なんて心の中で突っ込んではみたものの、間違ってもそんなことを言える雰囲気ではない。

 少なくとも、私の発言は、一歩間違えれば、簡単に私の身を危険に晒すということだけは、今までの短いやり取りで理解したのだから。


 今の時代が人工冬眠装置に入る前の時代からどのくらい経っているのか分からないけれど、これだけは言える。

 この時代に魔道具師は存在しない。


 何故なら、彼らがアーティファクトと呼び追い求める物が魔道具であることは間違いないし、私がさっき創った魔道具が新品みたいだと驚いていたから。

 もし私以外に魔道具師がいるのなら、こんなどこにでもあるようなありふれた光源の魔道具を、さも珍しそうな目で見ないだろう。


 私がぼんやりそんなことを考えていると、突然視界を人の顔が遮った。

 私はびっくりしてズレ落ちたメガネを戻しながら、その人物の顔を見返す。


 焦点が合い、その人物がクレイだということが分かった。

 クレイは胡乱げな目つきで私の顔を覗き込んでくる。


「なぁ、エマ。あんた、さっきここから出てきたところだったんだろう? 本当に何もなかったのか? なんか隠してたりしないか? 特にその魔道具(アーティファクト)、実はここで手に入れたもんなんじゃないのか?」

「え、え? ち、違うよぉ。やだなぁ、もう」


 私はなんと返せばいいのか分からなくなり、適当な誤魔化しをする。

 まさか、ここで拾ったんじゃなくて、無事だった道具でたった今創ったなんて言えない。


「それはねーだろ。クレイ。見ろよ。この有様。せっかくのお宝が全部パァだぜ? そんなかに、そんなたった今作ったような魔道具(アーティファクト)があるわけねぇだろ?」

「それもそうだな、ジュエル。ちくしょう。せめてまだ使えるもの一つでもあれば収支は黒だったんだがなぁ。なぁ、ジュエル。本当に何処にも見つかんなかったのか?」


「だからねーって! 俺の鑑定を疑うのか? まぁ、しゃあねぇ。たまたま見つけた遺跡だったから、なんかあると思ったが、現実はこんなもんだよなぁ」

「そうですね。そう簡単に見つからないから魔道具(アーティファクト)なんですから。それにしても、エマさん。私は貴女に非常に興味があります。よろしければ、出口まで護衛を務めさせていただきますから、街に帰ってから色々とお話しをさせていただいても?」


 クレイとジュエルのやり取りをぼーっと聞いていたら、今度はアッシュが私に話しかけてきたみたいだ。

 きょ、興味があるってどういうこと?


 でも、さっきみたいな魔獣が他にも出てくるかもしれないなら、私に選択肢はないよね。

 だって、一人であんな魔獣と戦うなんてありえないし。


 少なくともクレイはびっくりするほど強い肉体を持っているようだし、アッシュは前の時代では趣味でしか習う人がいなかった、魔導の技能を持っているようだ。

 魔導のほとんどは、魔道具が代用できちゃうので、わざわざ訓練をする人なんて一握りだったけれど、魔道具がない時代なら、有用なのだろう。


 とにかく、か弱い私は、この二人に守ってもらわないと、現在の文明の在処までたどり着くこともままならない。

 私はアッシュからの申し出を二つ返事承諾した。



「ふわぁ! ようやく空だ!」


 久しぶりに見たような気がする青い空に、私は思わず声を漏らす。

 雲一つない空は、私の目覚めを歓迎してくれているような気さえした。


 あの後、私たちは出口へ向かって、歩き出した。

 記憶の中の建物では、私の研究室は一階の奥にあり、出口まではすぐだった。


 ところが、クレイたちが案内してくれる出口というのは、建物を上に登り、そして、屋上のあたりからさらに道なき道を登っていった。

 つまり、私が眠っている間に、地面の上に驚くほどの厚みの地層が降り積り、私が居た建物は地中深くに埋もれてしまっていたのだ。


 クレイたちから聞いた話によると、最近地震が発生し、遺跡、つまり研究室がある建物へ続く道が形成されたらしい。

 運が良かったみたいだ。


 もし目覚めた時に地中に埋もれたままだったら、酸欠で今ごろ死んでいたのかもしれない。

 そういえば、一番大事なことを聞くのを忘れていた。


 今の私は名前以外全て忘れてしまい、気づいたらあの場所に居たという説明を三人にしているので、この質問をしても怪しまれないだろう。

 そう思った私は、はっきりとした声で今すぐ答えを知りたい疑問を投げかけた。


「ねぇ。そういえば。魔道具(アーティファクト)が発掘できる遺跡って、大体どのくらい前のものなの?」


 私の質問を聞いた三人は、本当にそんなことも知らないのかという顔を三者三様に作り、返してくる。

 少しして、クレイが代表して質問の答えを教えてくれた。


「誰でも知っている神話の話だけど……」


 クレイの言葉に他の二人も頷く。

 どうやら、魔道具のことについても、遺跡と呼ばれる私の寝る前の時代についても、有名な話らしい。


「遺跡も魔道具(アーティファクト)も、今から千年以上前の物だって言われているよ。千年前の大災厄で一度滅んだ神話時代の文明の遺産だってね」

「せ、千年!?」


 私は想像もしていなかった時間の経過に、ただただ呆然とするだけだった。

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