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アーロが恋に落ちたその時と恋敵の顛末 そしてガラ・ルファ!

お読みいただきありがとうございます。

やっぱり文字数多いです。

すいません。

 アーロは少々有頂天になっていた。


 ガラ・ルファがガラ・ルファと呼ばれる所以であるのは、そここそがゴートにやってきた老若男女の目的地であるからだ。


 ガラ・ルファには浴場が屋内屋外といくつもあるが、全身で浸かる目的の場所は当たり前だが男性用女性用と別けられている。

 しかし、大人の膝丈の深さの足湯しかないフィッシュセラピー専用ゾーンは、服を着たまま楽しめるので男女の区別などしていない。


 よってフィッシュセラピー専用ゾーンは、腕を組んだ老若男女の睦まじい姿ばかりという、ゴートでは大人気のデートスポットなのである。


「俺がヴェルヘルミーナとガラ・ルファするのか」


 彼はしみじみと呟いた。

 王城のパーティを警護していた彼が、仕事を忘れるぐらいに目を引かれたのが、かのヴェルヘルミーナであったのである。


 迷子の仔猫のようにして不安そうに周囲を見回していた彼女は、グラスを持つ手を彼の胸元にぶつけてしまった。


 それは彼のせいだ。


 本来ならばパーティ会場で単なる影となり、参加者の誰にも気づかれずに動き回っているはずの彼が、彼女に見惚れて影になるどころか壁になり、彼女の手にぶつかってしまったのだから。


「も、申し訳ありません!」


 アーロにグラスの中身をかけてしまった彼女は狼狽し、なんと、自分のドレスの裾を掴んでそれで彼の汚れを拭こうとしたのである。

 彼こそ狼狽しきって彼女の手を止めた。


「あなたこそ汚れてしまいます」


「あら?無駄な布地が沢山ありますから大丈夫ですのよ」


 彼は笑っていた。

 子供っぽい返しをしてきたが、こんな心優しい振る舞いをする彼女こそ、彼が守りたかった夢の中の姫君そのものだと、彼は感動していたのだ。


「いえ。これが仕事ですから。私こそ大丈夫なんですよ。どうぞ、今夜もお楽しみください。」


 ヴェルヘルミーナはにっこりとアーロに微笑んでアーロの胸を高鳴らせたが、次の一瞬で彼の胸を冷たく凍えさせた。

 微笑んだ彼女の瞳は彼を見てはおらず、不安そうな彼女が探していた者、それを見つけたという彼女の笑顔だったのだと気が付いたからだ。


 アーロがヴェルヘルミーナの視線を追って振り返れば、そこには輝ける天使のような外見の部下が立っていた。


「いま、このようにして!」


 思い出しをしながら振り向いたアーロの斜め後ろには、ヴェルヘルミーナの愛を勝ち取った部下では無いが、彼ぐらいに輝ける男が立っていた。

 その男がアーロと同じくガラ・ルファ体験専用ローブ姿であることに気が付き、アーロは物凄く嫌そうに眉根を動かした。

 相手に分かるぐらいに。

 ヨアキムはアーロに笑って返した。


「俺は君のボディガードなの。つかず離れずを我慢して頂戴よ」


「いいや。貴様はヴェルヘルミーナのふくらはぎを眺めたいだけだろう!」


「いいや。君と違って俺の世界はヴェルヘルミーナだけじゃないんだ。俺の世界は素晴らしき女性達で溢れている。堪能しない手は無いだろう」


「偉そうに胸を張って言う事か、覗きがしたいだけのすけべえが!」


 専用ローブは、寝間着のワンピースのような形をした単純なものだ。

 ガラ・ルファが相手がいない男女にも人気なのは、そんな専用ローブという薄着をした異性を眺められる上に、足湯に浸かった相手の素足を眺められるというセクシャルな部分を堪能できる場所でもあるからである。


「自分のイライラをぶつけるのは止めてくれ。お前が見つけた救国救世騎士団について俺は話が聞きたいと追いかけてきたのが実際だ」


「ちくしょう。お前こそ気が付いていなかったとは!」


「ハハハ。そのチクショウは俺こそだよ。お前にかこつけてゴートで遊ぶつもりだったのによ、余計な仕事を増やしやがって」


 アーロは溜息を吐くと、更衣室にある適当なベンチに座った。

 ヨアキムは彼の隣に腰を下ろした。


「ピーリネンとポルッキだ」


「了解。ハハリに関わっていた奴らか?そりゃ、忘れないよな」


「ああ。ハハリが密通の相手夫に撲殺されといて助かったよ。あいつの遺品からテロを王城に引き込む計画が露呈したんだからな」


「ハハハ。それで何の達成も出来ずにどころか、三年もたった今頃に、牢に繋がれた仲間の為に残党が蠢いているか。逃して貰ったんだから大人しく日常を生きればいいものを。で、大将。奴らをどうしますかね?」


「騒いだら狩る」


「了解」


「で、お前の目的が奴らじゃなかったんなら、本当の目的はなんだったんだ?」


 ヨアキムはにやっと不敵に笑った。

 その笑い顔でアーロが得をした事は無いと思い出し、彼は一先ず口を閉じると、上司時代に部下を脅しつける視線で親友をねめつけた。

 すると、アーロに睨まれたヨアキムはアーロに恐れを抱くどころか、さらにいっそう嬉しそうにして瞳を輝かせたのである。


「俺は大事な大事なお友達の恋を――」

「あ、そうだ!」


 アーロは慌てたようにしてヨアキムから視線を剥がすとベンチから立ち上がり、アーロは思い出した彼の目的を達成するべく急いで歩き出した。


「あれ、俺の話はいいの?」


「それどころじゃない!」


 着換え終わったヴェルヘルミーナが、アーロに待ちくたびれたらどうするのだ、と急に気が付いて恐慌に陥った。

 しかし、焦って更衣室を出て行こうとするアーロの背中に、彼の親友の笑い声とのんびりとした足音が響いた。

 親友はアーロの警護を本気でするらしい素振りだが、実はアーロの恋路を盗み見る楽しみを放棄したくないだけだろう。


 だが、友人の悪友ぶり事を気にいしていられないほどに、アーロはヴェルヘルミーナの元に急いで辿り着きたかった。


 ヴェルヘルミーナとガラ・ルファは、一生に一度の機会なのだから!


 そんな彼がようやくフィッシュセラピー用プールサイドに辿り着いて見ると、そこは人だかりどころか閑散した様相を示していた。

 ただし、アーロにはその環境こそ神の恩恵だと感じ、あとでゴートの教会に寄付と祈りを捧げに行こうと決意したほどだ。


 誰もいないプールサイドにて、桃色に輝く美しい想い人が腰を下ろしていたが、彼女は人気が無い事を良い事に、腿までローブを捲り上げて美しい足を晒しているのだ。


 自分の持ち物が専用ローブの薄地を突き出すという嫌らしい主張をしないようにと、アーロは大きく息を吸った。

 それから間延びした表情を作り変えると、ヴェルヘルミーナへと真っ直ぐに、心なしか余裕があるように見えるように歩いて行った。


「待たせたようだね」


「あ、あら!」


 ヴェルヘルミーナは慌ててローブの裾を膝まで引き下ろし、アーロに見せつけている肌部分を全て真っ赤に染めた。


 純潔らしいと彼女が言っていた通り、彼女は何て純粋なんだ!


 アーロは自分の頭の中が、今現在のヴェルヘルミーナの肌と同じぐらいに真っ赤に染まってしまった気がした。

 その真っ赤は自分の下半身に集中して来たと気が付いた彼は、急いで、かなり慌てたようにしてヴェルヘルミーナの横に腰を下ろした。


 さあ、足を水につけて、いきり立ちそうに沸騰した自分の血を覚ますんだ!


 ぼちゃん。


「静かに足を入れないとお魚さんが逃げちゃうって、案内板には書いてございますわよ?」


「失礼した。君の足にキスをする魚に嫉妬してしまったみたいだ」


「あら?まだキスはされていませんわよ」


 ヴェルヘルミーナは悪戯そうにアーロに笑い返し、ゆっくりと白く輝く美しい足を水の中に差し込んだ。

 アーロはヴェルヘルミーナの長く美しいふくらはぎを惚れ惚れと見つめていたが、彼女の足にキスしたいと望んだそこで、美しい彼女の隣に座る自分の今現在の姿を思い返してしまった。

 火傷を全身に負って醜くなった自分が、急にみじめで厭わしいものに感じたのである。


「アーロの足は綺麗ですわね。競走馬のような躍動感がありますわ」


「ははは、お恥ずかしい!」


 アーロはプールの中の自分の足を覗くようにして前屈みとなった。

 自分の足など見てはいない。

 零れ落ちた涙を女神に見せたくなかっただけだ。

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