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ヨアキムとファンニとカレヴァ王子の事情

お読みいただきありがとうございます。

カレヴァ王子とファンニが結婚の裏話となります。

 トゥオネラの女子修道院からゴートの町に戻ったヨアキムは、相棒のアーロを恋人の元へと送り出すと、自分は報告の為にカレヴァ王子の館へと戻った。


 ヨアキムとアーロはカレヴァ王子を揶揄って遊ぶが、王族の人間ながら部下を見下すどころか対等に扱い、さらに小心のようで大概の事を許すおおらかさがある人物とくれば、彼を彼らが慕う気持ちは本物である。


 そんな王子が一途に思う女性がヴェルヘルミーナだったことには、ヨアキムには残念でしか無かった。ヨアキムはうじうじ悩む親友の為に、彼の恋こそ成就させようと考えているからである。つまり自動的にカレヴァ王子が失恋するように仕向けている張本人になるので、珍しくヨアキムは罪悪感を抱いているのだ。


 だからこそゴートの町の出来事については、彼はカレヴァ王子の面子を汚すことなく解決したいと考えている。


「トゥオネラ山を越えて他国に逃げたと考えるべきか、その実迂回して首都入りを果たしたのか。首都の方がやばいな。いや、あいつは人気者だから逆に人目から逃げられないことになるのか?」


「くうん」


 ヨアキムは自分の膝裏に鼻を当てた哀れな生き物に振り返り、トニの飼い主が今夜は帰って来ないはずだと思いながら頭を撫でた。


「飯は食べたのか?喰ってなくともな、俺も喰ってないからお前を憐れまないぞ。俺こそ空腹で憐れんで欲しい状況なんだからな」


「くうううん」


「わかったよ。王子に報告したら一緒に台所に行こう。一緒に干し肉でも食おうか?俺の酒盛りに朝まで付き合わせるぞ?」


 トニはヨアキムの言葉が分かったというように大きくシッポを振り、少しでも早く台所に行きたいという風にヨアキムを先導するように歩きだした。

 そして彼らは王子の自室に辿り着く。ヨアキムがノックする前にトニが大きく吠え、後ろ足で二本立ちしてドアを引っ掻き始めた姿に、彼の口元は綻んでいた。

 その微笑みは数秒後に固まったが。


「あら、どうしたの?食べ過ぎたからお散歩がしたくなったの?」


「俺は説教がしたくなったな。一体何をしていやがる?」


 ファンニはドアの前にいたのがトニだけでないと気が付くと、急いでドアを閉めにかかったが、隙間に犬が入り込んだのならば優しい彼女がドアを閉めきれるはずなど無い。


 王子の自室のドアは、犯罪者の隠れ家を検める時のようにして、ヨアキムによっておもいっきり開かれた。


 王子の部屋がドアを開いてすぐにベッドルームになるはずはない。

 ベッドルームの前にはサロンがあるものである。

 しかしそのサロンにて、お揃いのガウンを羽織っただけのあられもない姿の王子とファンニが寛いでいた、というなれば、ヨアキムには彼らがベッドも使っただろうと簡単に見做せた。

 

 王子とファンニが寛いでいただろう大きなソファの前にある低いテーブルには、フルーツに冷菜にと、沢山のつまみが並んでいる。ヨアキムは彼らが再びベッドに戻る英気を養うために、仲睦まじくソファに並んで座って飯をついばみながら恋でも語っていたのだろうと、推測した。


「あ、ああの、すまなかった。私が全部悪いのだ」


 脅えているような声音だが、咎を全て背負うという意思も取れた。

 ヨアキムは王子をしっかりと見返した。

 王子のガウンの胸元は少々はだけ、きめの細かい真っ白い肌を露わにしている。

 王子の姿は、ヨアキムの真横でどうしようと固まっているファンニよりも、なぜか艶めかしいと感じてしまうものである。


 そう考えた途端に、ヨアキムは物凄く冷静になった。


 ずかずかと王子の真ん前まで進むと、王子の対面となるソファにどかっと乱暴に座る。王子はヨアキムから目が離せない様子であり、ヨアキムはそこで気を良くしながらテーブルの上の空いているグラスを勝手に自分に引き寄せた。


「もらえますか?」


「新しいグラスを用意しよう」


「いや、人を呼びたくないのでこのままで」


「カレヴァに酷い事をしないで!!」


「何もしていないし、する気も無いからお前は適当にしてろ」


「なっ」


 ヨアキムはまっすぐに王子を見返すと、自分こそテロリストの頭領であるかのようにして微笑んだ。


「こいつは俺の大事な妹分ですのね。やり捨ては勘弁してくださいよ」


「やり捨てなんて失礼な!」

「私は結婚なんか考えていないからいいの!!」


 ヨアキムと王子が同時にファンニに振り返ると、彼女は子供みたいにくしゃっと顔を歪ませて再び大声で叫んだ。


「彼に好きだって伝えたかっただけだからいいの!!辛い時に読んだ絵本がカレヴァ王子のものだったのよ!!私は図書館で見つけたあの本のお陰でお母さんが死んで一人ぼっちになっても生きて来られたの。お、男の人に騙されて、も、もともと綺麗な体じゃないんだもの。いいのよ!!」


「私は君と結婚を考えている!君は私を君を騙した男と一緒にするのか!」


「そ、そんなことはありませんわ!!」


「では、私を一生の独り身にするつもりか?」


 ヨアキムはにやっと笑った。

 彼はファンニを見つけた時に、彼女の身の上は全部調べ上げてある。

 だからこそ彼が妹分の彼女を引き受けようと考えたのだ。


 母親が出産時に亡くなったヨアキムにとって、隣りの家に住んでいた年下の女の子は、母親と一緒に死んだ妹同然なのである。


「だな。ファンニ。俺を裏切っても王子を選んだんだったらな、俺の尊敬する王子を幸せにしてやるんだ。身分違いだと罵られても王子にしがみ付け」


「だれがあなたと……って。そうよ、身分違いじゃ無いの!!」


「ぺテリウス!!君は黙っていて。それから、私が彼女を説得するから、君は好きなものを持って行っていいから、部屋から出ていきなさい!!」


 ヨアキムはテーブルの上の生ハムの乗った皿とワインの瓶を掴むと、カルヴァ王子ににっこりと笑った。


「ファンニが逃亡しないようにドアの前におります。狂暴なこいつに殺されないようにだけ気を付けてください。狂犬です」


「狂犬はあんたでしょう!!男だろうが女だろうが、平気で痛めつけて!!」


「妹を守るお兄ちゃんだからかねえ。お前がウザイというなら、残念だが王子もやっちゃうけど、どう?」


「カルヴァに何かしたら許さないから!!彼ほど素晴らしくて優しい男の人はこの世にいないのよ!!」


「それなら私と結婚すると約束してくれ!!」


「あ、え、あの、だって」


「じゃあ、俺は出るから。ほらトニ。お前も邪魔者だ。一緒に廊下に行こうや」


 ヨアキムは手に持ったワインの瓶に口を付けた。

 ワインの味に驚いて瓶を見返せば、なかなか値が張る、それなりな迎賓の時にしか見かけない良酒であった。


 カルヴァ王子はファンニに対して敬意まで抱いている。


 ヨアキムは物凄く機嫌が良くなった。

 そこで彼はトニを従者にして、軽い足取りでカルヴァの私室から出ていくことにした。気分の高揚に任せて、彼は鼻歌も口ずさんでいた。


 後ろでファンニのしゃくりあげる声が聞こえたのは、彼が歌ったものが、単なる子守歌であったからであろう。

 隣同士の幼馴染の五つも離れている相手ならば、彼が子守りだってした事のある相手なのである。


「ヨアキム兄さん。ありがとう」


「ばあか。俺を振って乗り換えたって方が、男はお前に惚れるぞ」


「君に惚れなかった女という方が価値が高い」


「王子は意外と毒舌だ。では、良い夜を」


 カレヴァ王子の部屋のドアは閉められた。


「くうん」


「トニ。今晩は俺に付き合ってもらうぞって、おい!」


 トニが王子の部屋の前でげえげえと吐き出していた。

 皆が彼を見ていない隙に盗み食いしたもの全部を、ヨアキムに見せつけているのである。

 ヨアキムはぎゅっと両目を瞑った。

 どうして飼い主を恋人の所へ送り出してしまったかと、歯噛みしながら。


最終話が主人公たちで無い上に三千文字もあって申し訳ありませんでした。

ヨアキム好きです。

そして、カレヴァ王子もとっても好きですし、ファンニも好きなのでこんなことがありましたと最後に書きたかったのです。


以下、こんなこと↓


本編でも子供達に人気の王子の絵本とヴェルが語っておりますが、王子の絵本は、こんな世界もあるよ、と絵本ながらも専門的な絵にカラフルな色が塗ってあるというものです。だからこそファンニは違う世界を夢見ながら実際の苦しさ貧しさから目を反らして生きていけた、そんな絵本を書いた王子は本当に優しい人だった、と、優しさに飢えていた彼女は王子に恋してしまったのでした。

そして、ファンニはヨアキムに育てられただけあって行動の人なので、失恋に落ち込む王子を襲っちゃった、そんな感じです。

そしてヨアキムは幼馴染のファンニが幼い妹にしか見えていなかったので、この展開は彼的にナイス!というろくでなしでした。よって犬のゲロ始末員です。


長くお付き合いいただきありがとうございました!!

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