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最高の結婚式

 近衛の真っ白な礼服は、祝い事だとひと目でわかるようにか、色とりどりのリボンで装飾された金と銀の勲章で胸元は彩られ、肩には金色の飾り紐もこれ見よがしに飾られていた。そんな艶やかな制服を纏った金髪碧眼の近衛連隊長の姿は、沿道の既婚未婚問わず女性達の視線の的になっている。


 彼が率いる近衛連隊の隊員も、王族の為に選別されたのが一目でわかるほどに、全員が見栄えの良く溌溂とした青年達だけである。そしてそんな青年達を束ねる分隊長六人も、全員が連隊長に負けず劣らずの美丈夫だ。しかしながら麗しき分隊長達全てが既婚者であるというならば、唯一の独身者であり彼等の長で美の頂点たるヨアキム・ペテリウスへの注目がさらに高まるのは当たり前であろう。


 ヨアキム・ペテリウスは全ての視線をさらに煽るようにして、右腕を持ち上げ、彼の動きに沿道から悲鳴のような歓声が起きる中、隊への号令をかけた。

 彼の隊の鉄砲隊が空に向かって祝砲をあげ、楽団がそれを合図に演奏を始める。

 彼らが奏でるのは、ペルタゴニア国家、我らの心は永遠に、だ。


 沿道の人々は胸の前で祈りを捧げるように手を組み、近衛連隊が誘導してきたパレードの中心である馬車が王城に戻って行くのを見送った。


 金色の顎までの巻き毛はキラキラと輝き、頭の上に乗せられた王子の冠はちかちかと太陽光を時々反射している。ぷっくりとした頬は以前よりも引き締まっているが、幸せでしかないと緩んだ口元で以前よりも幼く見える。


 王子は自分の幸せは彼女のお陰だという風にして、自分でデザインした花嫁衣裳に身を包んでいる妻となった女性に微笑んだ。彼女は緊張で強張っているようだが、王子の笑顔にほっとした笑顔を返す。


 沿道は王子と花嫁の初々しい姿に自然と笑顔になり、言葉にならなくとも祝いの悲鳴や大声を上げた。


 私だって!! 


「ああ!感動だわ!ファンニがお姫様だなんて!」


 本日はカレヴァ王子と私の侍女だったファンニの結婚式が行われ、二人はヨアキムを先導にして披露の為のパレードをしていたのだ。


 一年前のあの日、彼女がホテルに戻って来なかったのは、彼女と王子が一線を越える事を致してしまっていたかららしい。


「ヨアキムにも感動してやれよ。あいつは今日の為に何度も涙ぐましい練習をしていたんだよ。どうしたら自分が一番恰好良く見えるかを、鏡に映してね」


 私の隣に立つ私の大事な夫は、口とは違って友人を誇らしそうに見つめている。

 私はアーロこそが近衛の衣装を着た時のことを想像して、体の中が熱くなったそのまま大好きな夫に寄りかかった。


「ヴェル?」


「うふふ。ヨアキムの気持はわかるわ。あなたという素敵な近衛連隊長のイメージよりも上に行かねばと思えば、ええ、その頑張りはわかりますわ」


 私の肩にアーロの腕が回され、彼は私をさらに彼にくっつけた。

 彼の喉を鳴らす笑い声が心地よく、私は何て幸せ者なんだろうと、自分達の結婚式を思い出した。


 私達の結婚式も素敵だった。

 私が幼い頃に夢みたそのままだった。

 友人達に囲まれて、世界で一番愛する人と愛を誓い合ったの。


 いえいえ、夢以上のこともあったわ。

 私のドレスは友人達が手製してくれた素晴らしいものだったのよ。

 結婚式まで三日しか期限を設けていないのだから、ドレスショップですでにできているものを選ぶという私に対し、マルケッタ達とファンニが盛大に反対し、なんと、ファンニデザインの素晴らしいものを縫いあげてくれたのだ。


 マルケッタ達は、私の結婚式に招待されたことだけでなく、仕事で首都にいるはずの彼女達の夫までも参加させた私に恩義を感じてくれたようだ。


 だって必要でしょう?

 花嫁にはブライズメイド、花婿にはベストマン達が。


 本当に最高の日だった。

 あのドレスを着た私をガラ・ルファの中庭で待っていたアーロが、この上ない笑顔で私を迎えてくれた事を思い出すたびに、私の胸は何度だって高鳴るわ。


 そしてあのドレスは私が大事に保管している。

 私の永遠の思い出であり、もし私が亡くなることになったら、私はあれを着て埋葬してもらおうと思っている。もちろんアーロだって花婿の衣装を着せて埋葬してもらうわ。私達は死んだって離れられない花嫁と花婿なんだから。


「さあ、俺達も王城に入ろう。俺を苛立たせるやんちゃ坊主か、俺を蕩かすお姫様か、どちらかの重石を体に抱えている君だ。君こそ大事にしなければ」


「あなたを泣かせちゃうお姫様か、あなた似で私を虜にする王子様かもよ?」


「俺は君に似ていたら、どっちでも甘々に甘やかすね」


 私は笑いながらそっと彼のお尻に触れた。

 ほんのちょっとだけ。

 触られた彼は吹き出して笑う。


 彼の笑い声も笑い方も清々しくて大好き。

 結婚して一年も経ったのに、どうして彼を愛する気持ちばかりが増してしまうのだろうか。


 彼だってそうかしら?

 アーロは結婚してからほんの少しだけ膨らんだもの。

 彼は幸せ太りだと言っている。幸せ過ぎて最高の肉体に戻っただけだよ、と。


 そうね。

 今のアーロのお尻は、以前と比べて遜色は無いどころか、さらに素晴らしいものになっているわね。


 彼は男爵であるのに、働き者でもあるのよ。

 彼は近衛時代の知識を活用して民間の警備会社を立ち上げたばかりか、警察組織の顧問となり、日夜市民の平和のために心血を注いでいるの。


 いいえ、私が幸せに過ごせる安全な世界の為にって言っているわ。


「大事にしていただき過ぎて、私は実は不満ですのよ?あなた」


「君は!」


 素敵に笑った彼は、私の頬にキスをした。

 ついでに私の耳元に素晴らしい声で囁いた。


「君という呪いに俺は本気でどっぷりだよ」


「もう。あなたがそんな風に言うから、呪いの凌霄花ノウゼンカズラ男爵夫人なんて呼ばれてしまうのですわ」


「いやかな?」


「幸せですわ。ですから、ずっと夫人のままにしてくださいましね」


「俺は殺しても死なない男だよ?君を未亡人になんかするものか」


 アーロは私に腕を差し出し、私は彼の腕に自分の腕を絡めた。

 そして、友人達が待っているだろう王城に向けて、私達は一歩踏み出した。

 来年も再来年も、きっと二人で幸せに歩いているだろうと思いながら。

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