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アーロが今回受けし爆弾

 アーロはドアの向こうで、お客様です、とホテルボーイが唱えた事で、ああ、と情けない声を出して頭を抱えた。


「またか。」


 アーロは次に起こるだろう流れに、ウンザリしたような声をあげた。

 アーロの見舞いに来た見ず知らずの女性が、自分をアーロに見舞いの品として渡すどころか、叫び声をあげてアーロから去る、という小劇場だ。


 けれど親友を想うヨアキム的には、そんな行動をするばかりの馬鹿な女ばかりじゃない、と思いたくも賭けたくもある。

 アーロには内緒だが、実際に今回のゴートでアーロが結婚相手を見つけられれば、仲間内での賭けに勝ったという事で大金を自分が手にできるのだ。


「いいよ。ドアを開けてちょうだい!」


「お前!」


 ソファからヨアキムが扉の向こうのボーイに大声をあげると、当たり前だがアーロが怒った声をヨアキムに対してあげた。

 ヨアキムは身を乗り出したアーロに乱暴に肩を掴まれたが、アーロがそこで動きを止めてしまった事に気が付いた。


 どうしたことだろうと、ヨアキムはアーロが凝視している方角、つまり戸口に振り向いて、心の中で部屋に入れろと言ってしまった自分を叱りつけた。


 戸口にはピンクに輝く不思議で美しい金髪をした美女が、大きく目を見開いてアーロをみつめて立っていたのである。


 その女性こそ、親友が恋い焦がれているらしい子爵未亡人様だ。


 ヨアキムは自分の肩を掴むアーロを乱暴に振りほどき、ソファに沈んだアーロに大き目のクッションを抱かせると、おもむろに立ち上がった。

 大柄な自分の体でアーロを隠せるように。


「あ、ああ!っと。初めまして俺はヨアキム・ペテリウスと申します。ええと。」


 彼は言葉に詰まった。

 今までアーロの姿を見て、恐怖の叫び声をあげて逃げ出す女性ばかりだったからという彼の行動なのだが、彼の目の前に立つヴェルヘルミーナがポロポロと涙を流す姿を目にする事になったからである。


「君!ええと!」


「ああ!私はお終いだわ!この程度のお怪我では、この方だってすぐに死んでしまうじゃないの!この程度の傷で騒ぐ程度の弱いお方だったなんて!」


 ヨアキムは、どうしようかな、と言葉に詰まったが、牛の唸り声が後ろで聞こえ、自分の背中に大きなクッションがぶつけられたので、気兼ねなく選手交代をしようとアーロに場を譲ることにした。

 つまり、ヨアキムは立ち上がったアーロの邪魔にならないようにして、ソファに座り直したという事だ。


「君は何者だ?勝手に訪ねて来て勝手に罵倒するとは、相手に対して失礼な行動だと思わないのか?」


 譲るんじゃ無かった、ヨアキムは溜息を吐いて目元を手で覆った。

 その彼女はお前の想い人だろ?

 ヨアキムは叫びたい自分を戒めるべく歯を噛みしめた。


「紅楓子爵夫人とまであろう方が、職も面目も失った男をあざ笑いにいらしたという事ですか!」


「さっき何者だってヴェルさんに言ってたじゃないの!あと、お前が失ったのは面目じゃなくて左頬の皮膚一枚だ!」


 ヨアキムは結局はアーロに声を上げていたが、アーロに罵倒された不幸な女性は逃げ出すよりもさらに泣き出した。

 いや、天晴れと褒めてやりたいぐらいに、泣きながらも叫び返したのである。


「どうして足と手を失っていらっしゃらないの!あなたが不死身の男だからって聞いたから、私は会いに来たんです!不死身の方ならば私と結婚しても死んでしまわないでしょう?なのに!これっぽっちの火傷!この程度の傷で大騒ぎする小鳥みたいな方でしたら、何もしなくとも明日には死んでしまうじゃないですか!わたくしは結婚がしたいのに!」


 ヨアキムは、アーロの想い人には死神の肩書もあったなと思い出し、彼女の言い分が分かるなと思いながらアーロを見返した。

 アーロは、すまない、と落した声で謝った。


「雑誌にあった手足を失ったのは俺ではなく犯人の方だ。確かにこの程度の火傷で俺は騒ぎすぎたかもしれない。だが、俺が不死身の男と呼ばれているのは伊達では無いのだ!」


 アーロはシャツを捲った。

 腹部には大昔に切られた大きな傷が残っており、しかし、筋肉質の体に線を引くその傷跡は恰好良いと思える傷跡でもある。


 ヨアキムは同い年のアーロが自分の一歩も二歩も前に出て、近衛連隊長に昇りつめた手腕を見たような気がした。


「お前は最大限に自分をよく見せる事が出来るんだな。」


 真面目で不器用な男だと考えていた奴が、実は自分を出し抜いていた事に気付かされた気持ちになりながら親友を見つめていると、アーロは堂々とシャツを脱ぎ捨ててしまったのである。

 次いでアーロはズボンのすそを捲り上げると、自分の体の左側側面が分かるようにして体の向きを変えた。


「これは左頬の火傷を負った時のものだ!実は全身に爆風を浴びている!それでも生き残ったのは不死身とは言わないか?」


「ばくふう。」


 美女は溜息交じりに言葉を呟いた。


「爆発があったは、今んとこトップシークレットでしょう。」


 ヨアキムは脱力した声で呟いていた。

 そんなヨアキムの冷めた視線を感じたからか、アーロはハッとした顔をすると、慌てたようにしてシャツを拾い上げて袖を通した。

 そして、ボタンを覚束ない手つきで止めながら、呆然と突っ立ったままの美女の方へと小走りで駆け寄ったのである。


「俺は部下達から不死身の男と呼ばれています。お見舞い、どうもありがとうございます。どうぞ、こちらでお茶でもいかがですか?」


「お前さっき、その人に失礼なんたら言ってただろうが!」


「誤解だ。それもすぐに解けた。そうですよね。ヴェルヘルミーナ。」


「え、えっと。名前を呼んでもいいとは。」


「は。申し訳ありませんでした。では、カム、さま。」


「い、いいえ。ええ。ヴェルヘルミーナで良くってよ。あなたが不死身でいらっしゃるなら私はあなたと結婚しようと思っておりますもの。では、私もあなたをアーロと呼んでもよろしくて?」


「もちろんです。ですが、結婚に関してはお受けするとは言っておりません。俺に時間を頂けないでしょうか?」


「いや、受けろよ。今すぐ受けろ!そして今すぐ死んでしまえ!」


「え?」


「雑音です。気になさらないでください。君の提案に対して善処する方向で考える時間を頂けませんか?」


「ま、あ?ええ、そうね。突然過ぎましたわね。ではお誘いどおりに一緒にお茶を、お茶を。ええと。」


「どうかなさりましたか?」


「あ、あの。私的な会話には、あの、あなたは今日はご友人がいらっしゃっているようですし、あの。」


「あ、ああ。次回に?本日のディナーをご一緒にいかがですか?」


「いえ、あの。」


 そこでピンクの輝きを纏う可愛らしい美女はにっこりと笑い、ヨアキムの壊れてしまったらしい親友をさらに壊した。

 そして、噂にたがわない悪女ぶりを発揮したのである。


「お友達にお帰り願えないかしら?私は実は今日中にでも子供が欲しいくらいなのよ?」


 アーロは近衛連隊長時代の瞳に戻った。

 自分の前に立つ輩があれば、生きていることも後悔するぐらいの勢いで排除してやるぞ、そんな現役時代の彼の殺気を身にまとったのである。


「待て、この馬鹿!仕事の話をしてからだ!」


「仕事?俺は兵士を引退したただの男爵様だよ。出て行ってくれたまえ、近衛連隊長殿?」


「いや、こら待て!なかったはずの仕事を作ったのはお前だ!それから、結婚を考えさせてくださいの男が結婚希望どころか今すぐ子供が欲しい女と部屋に籠って何する気なんだ!この大馬鹿者が!」


 果たして、ヨアキムは部屋から追い出された。

 追い出された彼は、目の前でドアがバタンと閉まった時、掛け金が手に入ると喜ぶよりも失ってしまったような気になってぞっとした。


 ヨアキムが気が付かなかった救国救世騎士団の残党を見つけた、とアーロが言って来たならば、今現在のゴートは危険な状態ともいえるのである。


 アーロが結婚前に死んだら俺の賭けがお終いじゃないか、と。



お読みいただきありがとうございます。

ここまでの設定です。


ヴェルヘルミーナ

ことごとく結婚相手や婚約者が死んでいる未亡人。死なない相手と子供が欲しい!

ストロベリーブロンドが可愛い、少し抜けている美女。


アーロ

ヴェルヘルミーナに恋をしているお堅い元近衛連隊長様

彼女を好きすぎて時々壊れます

もともと外見に自信が無いどころか、現在は左頬が火傷のケロイドがあるという状態。


ヨアキム

アーロの親友にして現在の近衛連隊長

アーロの護衛で遊べるとゴートに来たのに、アーロの馬鹿がテロリストを発見しちゃったらしいことを言いやがっているぜ。アーロの結婚相手がゴートで見つかるか仲間と賭けているというろくでなし。


トゥーラ・マキ

ヴェルヘルミーナの侍女


アーロは自分の恋心をヴェルヘルミーナに伝える事が出来るのか、アーロは死なないで頑張って行けるのか、そんなお話です。

明日から一日一話更新できるように頑張ります。

どうぞよろしくお願いいたします。

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