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本気で呪われてしまった女

 私の向かいに座ったアーロ。

 まるで私と一線を画すようなその行為。

 しかし、その理由は彼が語り出した事で、私は理解した。


 トゥーラの死、それに、私が今まで教会にしてきた寄付によって数々のテロ行為が国内に起こっていた、それをアーロに告げられたのである。

 ヤーコブ神父が救国救世騎士団の頭領で、トゥーラを殺してしまっていた?


「なんてこと!!わた、私がテロリストのパトロンになっておりましたのね」


 私はアーロを真っ直ぐに見つめた。

 アーロが顔に受けた火傷の痕。

 それこそ私のせいであったのね。


「ご、ごめんな――」


 アーロは私の謝罪を遮るように右手の手のひらを私に見せた。

 それから大きく溜息を吐いてから立ち上がり、私の横へと座り直した。

 そして、私に腕を回して私を彼に押し付けた。


「アーロ」


「俺が弱すぎて申し訳ありません。俺は君の横にいたら君からちゃんと話を聞くどころじゃ無くなると距離を取りました。そのせいで君を心細くさせて、君に涙を零させてしまった。なんて俺は不甲斐無い!!」


「あ、ああ、アーロ。あなたが不甲斐無いだなんて!あなたはこんな私に失望されるどころか、なんて、心が広いの。あなたが身に受けたその傷は、全部私のせいではありませんか」


「それは違う。俺の怪我はテロリストの爆弾のせいだよ」


「だからそれが、私のお金のせいで」


「君の金が無ければ別から融通するだけだ。ああ泣かないでくれ。では、ヤーコブ神父について君が知っている事全部、人となりや出自など、覚えていることを教えて欲しい。逃亡した彼を捕まえる鍵となる」


「す、素晴らしい方としか。私は父をはやくに亡くしました。父と同じぐらいの年齢のあの方は、私の悩みを何でも聞いてくださりましたわ」


「何でも?」


「ええ!迷った時はいつも頼っていましたわ」


「ヤーコブ神父とはいつからです?」


「ヘンリの喪が明けて、私はまた社交界に顔を出すようになりましたの。その頃ですわ。混乱した私が駆け込んだ教会にあの方はいらっしゃったの」


「混乱?それはなぜだい?」


「意に染まぬ結婚を受けなければいけなかったの。な、なぜか知らないうちに間違った部屋に入っていて、そこに半裸の男性がいたのよ。って、きゃあ」


 アーロは私を両手で抱き直し、さらに、彼の膝の上に私を座らせた。

 そして私を伺う彼の表情は、怪我をしていないか?と転んだ私を心配した父がした表情と同じだった。


「そいつに何をされたんだ!!」


 ひゃあ!!


「な、何も、です。すぐにドアが開いて、パーティの他の人達が入って来たの。でも社交界のルールでは、個室に男性と二人きりになったら行為があったと見なすものでしょう。それで結婚しなきゃいけなくなったのよ」


 アーロは私の頬を優しくなでた。

 私は彼の大きな手の平に自分を委ねる。


「ああ、あの場に貴方がいたら、私こそあなたを部屋に閉じ込めちゃってたわね」


「君にお酒をかけられるあの出会いも俺には最高だったんだ。とっても大事な記憶だから、俺達はこの出会いで良かったと思うよ」


「そうね。あの頃だったら、私は本当に素敵な男性を見抜く目を持っていなかった。あなたを見逃してしまったかもしれないわね。三年前のように」


「ワインが熟成するように、俺の中で君への想いが深くなったからいいんだよ」


「あなたったら」


 私達は口づけあった。

 アーロの左腕は彼の膝に座った私を落とさないように支えているが、彼の右手は私が彼の膝の上で暴れたくなるような刺激をしてくる。頬を撫で、首筋を撫で、そしてその手は私の喉元から下へと下り。


「うみぃ」


 幼児の寝ぼけ声によって、私達二人は同時にびくりとなって動きを止めた。

 それからそろそろと動き出し、マットに横になっている天使達を伺う。


「寝返りか。いや、天使からの警告だな。ちゃんとしろって」


「そうね。大事なお話し中だったわね」


「君を可愛がることこそ俺の大事な事なんだけどね」


「あなたったら。どこまで話したかしら」


「ムカつく男との結婚話。それで君は当時ヤーコブが赴任していた教会を突撃してたと言う事か。それからの付き合いと」


「ええ、それからの……ああ」


 私は自分の口に両手を当てていた。

 やはりすべて私のせいだったのだ。


「どうしたんだい?」


「私を助けるために、もしかしてヤーコブ神父は人を雇ったのかもしれないわ。いいえ、トゥーラを殺したのが神父だとあなたがおっしゃるなら、あれはもしかして、いいえ、偶然よ、偶然のはずだわ」

「し、しい。大丈夫だ。さあ、落ち着いて。何を思い出したんだ?」


「私が人の死を願った事ですわ。マルコ・ハーンパーと結婚したくないと、亡くなったエーメルやヘンリ、そして神様に声を上げてお願いしたの。どうか、この不幸から救ってください、と」


「マルコ・ハーンパー。石蕗つわぶき子爵の五男か」


「ご存じでしたの?」


「ああ。酒瓶を口に咥えて息絶えた男だろ?有名だ。瓶が喉を突き破る勢いで差し込まれていた遺体だったと、酒場の噂にって、泣かない!君のせいでもあれは悩む必要などない!あいつは有名なろくでなしだったのだから!!」


「で、でも、やっぱり私のせいですわ!私を助けるためにヤーコブ神父が手を汚されたと言う事ですのね」


 私はアーロの膝から降りようと身を捩った。

 けれど、私はかえってがっちりと抱きしめられ、私の頭は彼の胸に押し当てられた。まるで、父親が子供をあやすように彼は私を抱き締めたのだ。


「う、うう。あ、あなたはどうしてそんなに優しくていらっしゃるの」


「優しくなんて無い。君を愛しているだけだ。愛する君を決して逃がさないと決めているだけだ。君が呪われている未亡人?その通り。君は俺に呪われているんだよ。君は俺の愛そのものなのだから」


「アーロ」


「そうだろう?俺は君に去られたら世界を憎むだろう。救国救世騎士団?そんなものは子供のお遊びだったと誰もが思うくらいにね、俺は完璧にこの世界を瓦礫にしてみせるよ?」


「アーロ」


「俺から世界を守れるのは、俺が愛する君だけだ」


 私はアーロに脅えるべきかもしれない。

 でも、私はこの恐ろしい男にうっとりしながら、彼の唇を受けいれていた。

 絶対に愛する彼を逃しはしないと、彼の体を両腕でぎゅうと抱きしめながら。

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