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心して聞けよ?

 トゥオネラ山の麓の女子修道院、そこにトゥーラが収監されていた。

 アーロとヨアキムは、救国救世騎士団の頭領がヤーコブ神父であるなら、彼について情報があるのかトゥーラ確認しようとしたのである。


 ポルッキは救国救世騎士団の単なるシンパでしかなく、彼が集めた金は回収人に手渡されていた。教会への寄付という形で。

 また、ピーリネンに関しては研究資金を受け取る立場であり、依頼があれば爆弾の製作などをしていたのだろうとヨアキムはアーロに語った。


「教会の人間らしき男がどちらの男とも関わってる目撃者がいる。それからね、俺は王城でハハリと間違えられた事もある。あの神父に」


「それでヤーコブ神父が頭領だと?強引だな」


「逃げちまっただろ?確定だ」


 ヨアキムが部下を連れて教会に乗り込んだが、すでにヤーコブ神父は助手を連れて姿を消していた。そこで、アーロとヨアキムはたった二人でトゥオネラ山へと馬を走らせたのである。

 被疑者全員と関わっていたのは、トゥーラ一人であるからだ。

 しかし女子修道院に到着した彼らを迎えたものは、すでに死んでいる女だった。


「遅かったか」


「先に尋問しときなさいよ」


「俺は、ピーリネンの尋問やら神父逮捕の許可証を手に入れたりで大変だったの。落ち込んでた君は全然手伝ってくれないし」


「俺は婚約者を守ることが仕事だ」


「はん?失恋してたんじゃなかったっけ?ぐじぐじ落ち込んでカレヴァ王子の胸で泣いてたんだっけ?そっからどうやって起死回生したんだ?」


「うるさいな。最後ならばと想いを告げた。それだけだ」


「最初からやっとけよ、馬鹿」


 アーロはヨアキムを睨みつけると、遺体の前にと一歩踏み出した。

 アーロの頭の上ぐらいに明かりとり程度の小窓がある。

 破ったシーツで出来たリボンが窓の格子にひっかけられており、そのリボンの端を首に巻いたトゥーラが揺れているのだ。


「遺体を降ろしてくれ」


 アーロの指示に修道女達はざわつき、彼は窓の高さを考えれば自分でするしか無いと観念して大きな溜息を吐いた。


「他殺確定だな」


「だな。修道女に無理な高さならば、トゥーラには無理だろう」


 アーロとヨアキムは布の縛り目を確認すると、その縛り目を解かずに遺体を支えながら布をナイフで切り取った。

 それから遺体をゆっくりと石の床に横たえた。トゥーラの頭は生まれたての赤ん坊のようにぐらついて、大きく横にがくりと転がった。死体のその首の座りの悪さに、彼女の死因を調べるまでも無いと二人は考えた。


「ヨアキム。口封じならば、俺達の前に俺達が追っていた奴がここに来ていたってことだな。どうしてここにトゥーラがいると知ったのか知らないが」


「みんな兄弟姉妹だからでしょう。善意しかない者は善意で沢山お喋りをする。聞き耳を立てているのが悪魔とは考えずにね」


 アーロは遺体の首から布を取り去り、首の骨が無慈悲な程に完璧に折られていると再確認した。


「彼女を殺さねばならない秘密は何だったのだろうな」


「アーロ。それを確認できるか?」


 アーロは牛のような唸り声をあげた。

 教会でヴェルヘルミーナの寄付金額を見たヨアキムは、今までの彼女の寄付金額と寄付した日付を教会のお茶会の時に聞き出していたとアーロに語った。その結果、アーロ達が対応していた救国救世騎士団の大きなテロ行為が起こされた時期と、ヴェルヘルミーナが寄付した時期が全て合致すると気が付いたのだと。


「アーロ。彼女は無邪気だ。どれも裏の意味など無い単なる寄付でしか無いだろうと思うが、俺達はもしもを考えなきゃいけないんだよ」


「わかっている。だが、真実を知れば彼女は傷つくだろう」


「そこを何とかするのがパートナーだろ?」


「だな。だが俺は相棒については君しか知らないからさ、ヴェルヘルミーナを傷つけてお終いになりそうで怖いんだよ」


「だからこそ話し合え。追及しろ。全部剥いでまっさらな相手か見定めろ。そんで相手が悪人だったとしてもね、愛するんなら外国にでも逃げてしまえ」


「君は!!もしかして、ファンニにも同じことをしたのか?」


「マダムクリオの横領事件?あんなもん調べるまでもない。ファンニについてあいつの同僚に色々聞いてたら、マダムクリオについても色々知ったってことだよ。貴族でもない侍女が高いドレスを買っているが、その売り上げがあんまりないのはなぜだろうねって。隠し金をしていたのかな。税金徴収官に売り上げを隠匿するのに横領で誤魔化したかねえ」


「そっか。それで賭けやなんかで金を作ろうとしてたのか。まかり間違って捕らえられたら金で解決できる。そんなに彼女の事を想っていたのか。俺の三年どころじゃないな」


「妹みたいなもんなんだよ。女手の無い我が家に飯を差し入れてくれた恩義もある。再会して困ってたんならさ、助けてやらなきゃだろ?困ってたら結婚だってかまわねえ。美人に育っているし俺も所帯を持ってもいい頃だ」


「そういうことにしとくよ」


「そうしてくれ。さて、帰るか。敵は逃げた。無駄足の俺達は温かい胸で温めて欲しくなっている。だろ?」


「だな」

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