教会で鳴らされたのは?
お読みいただきありがとうございます。
「初志貫徹しましょうよ、と」は最終章だったのですが、話数が多くなりすぎてバランスが悪いのでもう一章増やします。申し訳ありません。
ホテルの廊下にて気持を確認し合った私達は、幸福の絶頂となった。
アーロは自分の嬉しさを世界に思い知らせるかの如く、私を抱き上げた格好で笑い声をあげながらホテルの廊下にてグルグル回る。
すると部屋のドアが開き、アーロの部下の奥様達に囲まれたのだ。
私達を取り囲んだ彼女達は悲鳴のような歓声を上げ、口々にお祝いの言葉を叫ぶように言ってくれたのよ。それから、泣きながら、良かったわねと、アーロの背中をバシバシ叩き始めたりもしたの。
こんなにも私達の恋の行方を応援してもらっていたのならば、それに応えましょうよ、と、私達の気持はさらに盛り上がったのですわ。
私とアーロはホテル近くの教会に、ええ、ヤーコブ神父を訪ねて、今すぐにでも結婚の祝福を受けねばと思ったの。
そこで、十代になったばかりの子供みたいに、私達は手を繋ぎ合い、笑い声をあげながら教会へと走ったのだわ。
抱っこ?それはまた今度。
アーロの腰が壊れたら大変でしょう。
一分一秒でも早く教会に辿り着くことこそ大事だわ。
しかし、私達の幸せに神は遺憾であるのか、ヤーコブ神父は不在であった。
彼の従者も。
そして私達に応対して神父の不在を告げた教会の修道士は、とてもウンザリして疲れた様子で私とアーロを教会の執務室へと案内した。
「お留守ですのに?他の神父様をご紹介下さるのかしら?」
「お友達の説得をお願いします」
私とアーロは顔を合わせ、互いに疑問顔を見せあった。
けれどアーロがドアを開ければ、修道士が困っていた理由をひと目で理解する事となったのだ。
「おい。ヨアキム!神の家で何をしているんだ!」
執務室の中では、見覚えのある男性二人とヨアキムが、引き出しから何から引っ張って中を確認しているという状況だったのである。
「何って、押収。本星は逃げた。足が速いよ。ここで決めたかったのに!!」
近衛兵の実働用の制服を着て部下達と一緒に室内を漁っていたヨアキムが、アーロの問いに対して憤懣やるかたない叫びをあげた。
「本星って何をおっしゃってるの!」
「俺も聞きたい。これはどうしたことだ?」
「何って、救国救世騎士団の頭領の逮捕だ。ちくしょう!目を付けた先に逃げ出すとは、なんて鋭いんだ!!」
「どうしてヤーコブ神父がテロリストなんですの!!」
「ヨアキム。これは俺に全く知らされて無いことだよな?」
ヨアキムはハハハと乾いた笑い声をあげると、適当な椅子を持つと壁に向かって歩いて行った。そして彼は壁に背もたれを付けるようにして椅子を置き、そこに座ったのである。
これはどういう意味なのかしら?
私はヨアキムが理解できないと不安になったが、私の隣のアーロもきっと同じであったのだろう。彼は大きく溜息を吐いた。
そうよね?ヨアキムの行動の意味が分かりませんわよね?
私は横に立つアーロを見上げたが、すでに彼はそこにはいない。彼もヨアキムと同じように適当な椅子を引き摺って歩いているのだ。ヨアキムに向かって。
数秒後にはアーロとヨアキムはベンチに隣どうして座っているみたいな格好となり、私は絵的にも見えるその情景に違和感ばかりを抱いていた。
だって、報告会をしているみたいなのよ?
私に聞かせたくなければ二人で私の傍を離れれば済むだけで、こうして並んで椅子に座る必要なんてないのではないかしら?
「あの二人はいざとなるとあれだな」
「久々に見れたと喜ぶべきか、成長してねえと嘆くべきか」
私は声がした方へ振り返ると、昼間の警察官の振りをしていた二人が、捜索の手を止めて棚のあるそこに二人で寄りかかっている。彼らは私と目が合うと、私に向かって親しみのある笑みを返して来た。警官の扮装を解いて近衛兵の制服姿である今の彼らは、近衛だと間違えようもないひと目でわかる麗しさだ。ただし、二人とも顎髭が付け髭だったのか、肌が微かに赤く腫れていた。
「あの。昼間はありがとうございました」
「いや、いいよ。これでシーララも片付いた」
「そうそう。ようやく哀れでじめじめシーララが消えるんだ。そんためならさ、俺たちゃいくらでも脱ぐよ?」
「お前が言うとお前が裸になるにしか聞こえねえな。ティップ」
「うるせえよ。脱ぎたいのはお前だろうが、キヴィ。お前は愛女房ちゃんに突っ込みたくても突っ込めねえもんなあ」
「突っ込みたくとも突っ込めねえのはお前だろ?俺達はガキに邪魔されずにいくらでも突っ込めるところに突っ込んでいるさ」
「ヴェルの前でなんて話をしているんだ!!」
「お前らうるせえよ!アーロが集中できないだろうが!」
まあ!今にも喧嘩しそうにアーロは真っ赤になっている。立ち上がったアーロはキヴィさん達に向かって行こうとする。そこをヨアキムが仲裁人の如くアーロを引き寄せて椅子に座らせ直した。
「放せよ。俺は必要ないだろ?」
「おや、君は自分にこんな怪我をさせたテロリストの逮捕には興味ない?」
アーロは両目を瞑って自分を落ち着かせるように溜息を吐くと、再び両眼を開けて凛とした表情に変えた。
まあ、仕事中の殿方はあんな素敵な表情になるのね。
「全て許す。俺は婚約者と今すぐ結婚する事しか考えていない」
「まあ!アーロ」
バシ!!
きゃあ、ヨアキムがアーロの肩をおもいっきり叩いた。
「おい。ティップ。ヴェルちゃんをホテルに帰しちゃって。でもって君は今日はそこで解散でいい」
「さんきゅう。愛してるぜ、ヨアキム」
「近衛連隊長様。俺もそれしていいですか?」
「いいよ。そんかわりヴェルちゃんをしっかり守ってちょうだい。で、ヴェルちゃんは、こいつらとアーロの為にあと三日は滞在してくれないか?」
ヨアキムは冗談めかした口調で私に頼んで来たが、私を真っ直ぐに見つめる青い目は真面目この上ないものだった。
「いいわ。でも、今夜からアーロと一緒だと思ったから、そこは残念ね」
ガタタタン。
アーロは座っていた椅子を転がして立ち上がった。ヨアキムはやはり椅子を転がす勢いで立ち上がってアーロに飛び掛かっていた。
「放せ!俺はヴェルと一緒だ!」
「わあ!ヴェルちゃんたら煽らないで!!キヴィ、ティップ、はやく行け!!」
「おうよ!!」
「ハハハ、じゃあな、もと隊長!」
私は両手に花どころか、麗しい近衛兵に狩りの獲物みたいにしてぶら下げられて引き摺られる事になった。
一体何が起きているの!!