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さあ、話していただきましょうか?

 私は人前で愛を手に入れられない想いを叫んでしまっていたが、幼い子供であるケイモが、その相手がアーロであるとズバリ聞いてきたことに驚いた。


 私は、あの方、としか言ってませんわよ?

 どうしてアーロだと思われましたの?


 私はケイモに聞き返そうとしたが、ケイモは女性の腕で掬い上げられて捕まえられた。

 彼を捕まえた女性はくすんだ金髪をした綺麗な女性で、大きなお腹をしていた。しかしそんな体で私に対して屈みこみ、泣いた子供に向ける作り笑顔を私に向けてきたのである。


「あの?」


「ヒルダと申します。キヴィの妻です。あなた様が口にされたあの人って、ケイモが言った通りアーロ・シーララ元隊長のことかしら?」


「いえ、あの、あ、はい」


 答えるや私の目の前に別の顔が割り込んだ。

 ケイモと同じ瞳と髪の色で、三人の子供がいるとは思えない儚い感じの優しそうな顔立ちの人である。


「マルケッタと申します。私の息子と娘がお世話になりました。アーロ・シーララ元隊長に想い人がいらっしゃるなんておっしゃった?」


「え、ええ」


「オルガと申します。息子のリュリュと私に良い思いをさせてやるなんて言って消えたティップの妻でございます。もしかして、アーロ・シーララ元隊長も私の馬鹿亭主と一緒に花街や酒場に行っているとおっしゃるのですか?」


 マルケッタに答えた途端に割り込んできたオルガは、黒髪できつそうな顔立ちだが、そんな外見を否定する可愛らしい声に脅え方である。


「い、いいえ。あ、あなたの旦那様は、きっとヨアキムが連れて行ったのだと思いますわ。今夜は皆様とパーティがしたいとおっしゃってましたから」


「ペテリウス」


 六人の女性達が一斉に同じぐらい低い声でヨアキムの名前を呟いた。

 私はびくっと震えた。

 そこで最初に目が遭った女性、真赤な髪が印象的な彼女が口を開いた。


「エリサと申します。アスモの妻ですが、あなたさまがどうしてアーロ・シーララ元隊長に想い人がいると嘆かれるのですか?」


「あの、それは、はっ!!」


 全員が見てる。

 答えろと言う目線で私を射抜いている!!

 私は彼女達から逃げるべきかとゆっくりと立ち上がり、これ以上自分の問題に彼女達に踏み込まれないようにと笑顔を作った。


「イーナ・ウッコと申します」

「ひゃあ!」


 私は貴族なんて言えない悲鳴を上げていた。

 イーナと名乗った蜂蜜色の髪をした彼女は私の脅えに少々鼻白んだ顔をしたが、その代わりという風に彼女の横にいた焦げ茶色の髪のお腹の大きな女性が私へと一歩踏み出した。


「マルガレータと申します。サミの妻です。お腹が辛くて。申し訳ありませんが、ほんの少しだけでも」


「も、もももちろんよ。さあ、お入りになって。ああ、ボーイが来ないわね。すぐに呼びますから、皆様は、さあ、お入りになって」


「ありがとうございます。それで、どうしてアーロ様に想い人がいると言って嘆かれているのですか?」


 はっ!!


 気が付いたら私は六人に対して対面ではなく、六人全員に囲まれている、という状況になっていた。

 どこを向いても、聞きますから話しなさい、という作り笑顔が私を向いている。


「あの、あの、皆様?」


「どうしてでございますか?」


 ヒルダが尋ね、オルガもどうしてと口を動かした。エリサとイーナは威圧的に微笑む。マルケッタとマルガレータが仲良くこつんと頭をくっつけて、子供のように声をあげた。


「おーしーえーて」


 私は個人の秘密を吹聴してしまう自分について神様に謝りながら、彼女達に自分の悩みを打ち明けてしまっていた。でも、なんだか女学院時代を思い出す。

 だから本当は彼女達に話したかったのかもしれない。


「あの方は想い人が三年前からいるそうなの。ずっと忘れられないみたいなの。だから、彼が私を愛してくれるはずは無いでしょう」


 ちぃ!!


 六人全員が一斉に舌打ちするなんて!!

 もしかして、彼女達はアーロの想い人を知っている?

 そして、もしかしたら、その方は実は酷い人だったとか?

 私の侍女のトゥーラみたいに!!


「あのって、きゃあ!」


 ヒルダが抱くケイモがミンミがしたように反り返ったのだ。

 落ちる、と脅えた私に対し、ケイモは楽しそうな笑い声を立てた。


「アーロおじちゃんが大好きなお姫様は~」

「はい。落ちるよ、ケイモ」


 大きいが長くてきれいな指を持つ手がケイモを支えた。

 私はミンミをぎゅうと抱きしめる。

 自分の心の拠り所のようにして。


 アーロはケイモを引き抜いて抱き上げると、私に軽く片目を瞑った。

 まるで夫婦のようだと思った途端、私の両目に涙が溢れ、視界がボヤっとした。

 それはまるで光一杯の中で目がくらんだ時にも似ていて、舞踏会のあの日のようだと思ってしまった。


 私が彼にぶつかって彼にお酒をかけてしまったあの日。

 近衛の衣装の彼の姿は、会場のまばゆい光を背中に浴びた格好で、逆光の中の影絵となってしまっていた。


 どうして私はあの夜のあの時に、ガブリエルに恋しているなんて勘違いしていたのだろうか。どうしてアーロを見つけ出せる両目を持っていなかったのか。


 私が愛する人は、私の理想の中の夫そのものの振る舞いで、彼が抱いていた子供を下に優しく下ろした。

 それから、私を労う様にして、私の腕の中から赤ん坊を引き抜いた。


 アーロの子供を私は手に抱けない。

 それを思い知らされる気持ちだった。


「ヴェルヘルミーナ。小さな子がいるから、君の部屋を彼女達にしばし貸して貰えないだろうか?俺は君と二人だけで話したい。俺のずっと抱いていた真実を君に打ち明けたい」


 私は、いいわ、とちゃんと声に出して言えたかしら。

 愛されなくても、せめて、彼には自分の事を好意的に覚えていて欲しい、から。

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