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あなたのどこが良いというの?

 私の侍女だったトゥーラの告白に、私は鼻白むばかりである。

 私の婚約者だったジョサイヤ商会のヘンリ様は、今の私があるのは彼のお陰と言うぐらいに私に財産と法的な加護を与えてくれた恩人だわ。

 そんな素晴らしい人を階段から落として殺したのが、トゥーラだったなんて。


「ま……あ。ひどいわ。どうしてそんなことを」


「ジジイとの結婚でお前を絶望させてやりたかったのに、あのくそ伯爵は勝手に死んで、それで、ヒヒジジイと有名なヘンリを引っ張って来たのに、あのヒヒジジイが紳士の物まねなんかするからよ。それで、なに?可愛い妻に私という売女が手を出せないように守る?女に背中を押されただけで階段を転がり落ちちゃう程度のひ弱なジジイが、ねえ」


「あ……あ……」


 私は両手で口を押えていた。

 そうしないと嗚咽の声が出てしまいそうだった。


 ヘンリが、彼は、本気で私を守ろうとしてくださっていたとは。

 なんて素晴らしい方だったのか。


 それなのに、私と関わったせいであの方は亡くなってしまったのね。


「でも、ようやく私は私に戻れるわ。この美貌に見合う生き方を私はようやく取り戻せるのよ。協力して下さいましね」


「私を殺してもあなたが紅楓子爵夫人になれなくてよ?」


「この国ではね。私は紅楓子爵夫人として外国に行くの。そして、あなたを知ってる人達は、カレヴァ王子の研究のせいで大爆発して死んでしまうんだわ」


「そ、そんな」


「紅楓を犬に襲わせるのを失敗して良かったかもしれないな。君の顔に傷を付けるのは悲しすぎる」


「あら?包帯で隠して怪我のある振りをすればいいだけよ。だから、この女の顔なんか、ぐちゃぐちゃになっていて欲しかった。うふ。鼻を削いでしまいましょうか?ええそうよ、絶望させて自分で自分を殺して貰いましょう」


「ど、どうして、そこまで憎むの?私はあなたが悲しくないように、ドレスも宝石も差し上げて来たでしょう?あなたが盗んだ宝石だって、あなたが可哀想だからって見逃して来たのだわ」


「それがムカつくのよ!」


「きゃあ!」


「奥様。何を言っても無駄ですわ。奥様と違って男に弄ばれるだけの人だからこそ、大事にされるばかりの奥様を恨むのです」


「弄ばれてたのはこの女の方よ。ガブリエルは、私の信奉者で、私の為にこの貧相な女を誘惑していただけなんだから」


 ファンニはトゥーラの悪意から私を守るように、私を抱きしめ直した。

 これは、私が傷ついたからと思っての行為だろう。

 私はファンニの優しさに涙が零れた。


「奥様」


「君は本当に悪女だなあ」


 戸口の大男は、トゥーラにうっとりとした声をあげた。

 この男は毒で人を奴隷にする研究をしてきた人よ。

 私は泣いている所ではない、と涙を拭った。


 自分の侍女だった女に酷い目に遭わされるのは、大間抜けだった私一人で充分だわ。こんな恐るべき悪人達に、この上なく優しいファンニを酷い目に遭わせてたまるものですか。ファンニを私の事情に巻き込んではいけないのよ。

 けれども、ファンニこそ私を守ろうと考えているようだ。


「奥さま。大丈夫です。隙を見て逃げましょう」


「あなたこそ逃げられるときに逃げて」


「逃がすわけ無いじゃ無いの」


「逃がした方がいいと思うよ。君のこの先を考えたらね」


 聞き覚えのある声にファンニが震え、彼女の指先が私の腕に喰い込んだ。

 でも私はこの痛みが嬉しいばかり。

 だって、この声はファンニを守ろうと決めている人のものだし、彼がいるならば彼の親友もいるのだ。


 そして、その声が警告したとおりに、状況は変わった。

 戸口の大男は白目を剥き、そのまま沈み込んだのだ。

 もちろん、床に転がった男の後ろには、晴れ晴れとした顔をした私の想い人が立っていた。


「アーロ」


 彼は私に軽くウィンクすると、倒れた男を乱暴に引き上げて縄をかけ始めた。


「カールロ・ピーリネン。素晴らしき人に行いしお前の数々の犯罪行為について、全て吐いてもらおうか」


「バカお前。気絶中」


 親友に軽口を叩いた金髪の男は、アーロが拘束する男の足を邪魔だという風に蹴とばすと、そのまま真っ直ぐにトゥーラの前に出た。

 そして、自分こそ主役だという風な大輪のひまわりのような笑顔をトゥーラに向けた後、酷い台詞を口にした。


「君は自分が思っているほどきれいじゃないよ。あのくそガブリエルの本命は、最初から最後までそこのお姫様だ」


「うわあああ!」


 トゥーラは獣みたいな大声をあげると、ナイフを持った手でヨアキムに殴りかかった。しかし、ヨアキムはナイフを持った手首を簡単に掴んでひねる。


「ぎゃあ!」


 トゥーラは床に転がされ、その時に何かが抜けた音が聞こえた。

 それはトゥーラの声なき悲鳴だったのか。

 彼女は白目を剥いて気絶している。


「あ、腕を抜いちゃった」


「私はあなたのそういう所が怖いのよ!!」


 ファンニはヨアキムに向かって吼えるぐらいの気力を見せたが、私の腕にしっかりと爪を立てていた。

 ヨアキムが怖いのよね、わかるわ。

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