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身の程知らず

 紅楓子爵夫人である身分を偽られ、奪われかけている、今、なのだ。

 ファンニによってわかりやすく身を立ててもらったと感謝するべきであろうが、私は死神と名指しされてしまった事に落ち込むばかりだ。


 ファンニにかかれと煽られた警察官達は動く気配もないどころか、死神という単語にだけ反応して私をじっと見つめている。


 そうよ私は、男達を次々死なせてきたと有名な女ですわ!!


「ファンニ、ひどいわ」


「あ、ああ。ごめんなさい。奥様!で、ででも、奥様は奥様ですから」


「えええ!本当にそっちが本物だったの!ああ、そうだわ!ゴシップ誌に死神はピンク色だって書いてあった。書いてあったわ」


 悲鳴のような大声を上げたのは、ファンニを警官に売ろうとしていたホテルメイドのイーネスである。彼女は私を呆然と見つめた後、すぐにそして物凄く失敗したという顔付となった。その次には当たり前だが、イーネスは自分を騙したそのものを見返し、トゥーラの涼しい顔に全てを悟ったと表情を変えた。

 するとトゥーラは恥じ入るどころか、堂々とした様子を崩さない。


「わた、私を騙したのね」


「あなたが信じている私が紅楓子爵夫人であればいいの。おわかり?」


「え、ど、どう」


「本物も偽物も二つあるから紛らわしいのよ。一つにしてしまえばいいの。できるわよね。でないと、あなたが大泥棒になっちゃいますもの。あなたがぜ~んぶ指示したんでしょう。この部屋の荷物を引き上げたのは、あなた」


 トゥーラは何を言い出すの?

 しかし、トゥーラの手下だったイーネスには通じたようである。

 私を見返し、物凄く失敗した顔となった。そして、なぜか意味不明の雄叫びをあげながら私に突進してきたのである。


「どうしてあたしばっかりいいいい」


「奥様!」

「きゃあ、ファンニ」


 私とファンニは抱き合い、いいえ、ファンニは私の盾になるようにして私を抱き締めたのである。

 だって、イーネスは右手に輝くものを掴んでいたから!!


 私が臆病で良かった。

 私の足は力を失ってへなっと床に崩れ、私を抱き締めるファンニも一緒に床に座り込むことになったのだ。


 イーネスのナイフは何も無い空間を切り裂いた。

 でも、次は動けない私達のどちらかに刺さるだろう。

 イーネスはナイフを持つ手を高々と振り上げた。


「奥様!!」


 ガツン。


 ファンニは私を抱き締めたまま床に転んだ。

 私達は抱き合いながら床に転がる。

 イーネスのナイフは今度は床という所に突き立った。


「くっ」


 イーネスは床に深く刺さったナイフを抜こうと力を込める。

 私とファンニはゆっくりと身を起こした。

 男達は、勿論あのエセ科学者は動かなくても当たり前だが、警察官こそまるで舞台の喜劇を鑑賞している様子なのだ。部屋の真ん中でイーネスが唸りながらナイフを床から抜こうとしていて、私とファンニがそれに脅えて床に座り込んでいるという、そんな状況をお芝居みたいに楽しんでいるだなんて。


 あれが抜けたら私とファンニは刺されてしまうのよ。

 どうして警察官が助けに動いてくれないの?


「お願い!止めてちょうだい!!誰か止めて!!どうして誰も動かないの!!」


「ここにあなたの味方なんか誰一人いないからよ」


 戸口から一歩室内に踏み込んで来たトゥーラは、素晴らしい見ものだという風に私を見下した。

 それから自分こそ勝利者だという風に、大きく笑みを作った。


「さようなら、私」


「どいうこと?」


「私は伯爵令嬢のはずだった。お前の母親が私を受け入れなかったから、私はお前の召使いでいるしか無かった。私こそ伯爵令嬢になって当たり前の美貌であるのに、お前の母親は私を認めようとしなかった」


「何をおっしゃるの?はっ!」


 私は父と母が仲睦まじい夫婦だと思っていたが、実は父は陰で愛人を抱えていたという事なのだろうか。

 それで、愛人の娘だったトゥーラは私を恨んでいた?

 え、でも、トゥーラは私よりも年上で、ええ?お父様?


「私の方が綺麗だった。おかしいわ。おかしいの。優れた者が上に立つものよ?あなたこそ私の召使になるはずなの」


「トゥーラ?」


「そうよ。だからあなたは私の幸せの邪魔ばかりなのね。桃花伯爵は私を妻にすると約束してくれたのに、あなたが私を侍女のままにしたいと言ったから、私は桃花伯爵夫人になれなかったのよ」


「え?叔父様にはすでに妻もいて、あら?え?ご存じなかったというの?」


 トゥーラはずかずかと室内に歩いてくると、まずはイーネスを蹴り倒した。


「きゃあ!」


 その衝撃でイーネスのナイフは床から抜けたが、床に転がるイーネスは蹴られたお腹を抱えて唸っている。

 トゥーラはイーネスの手からナイフを奪い取ると、再び私にその体を向けた。


「そんなの、階段から落としてしまえば、あのデブババア、簡単に死ぬんじゃ無いの?大の男のヘンリも簡単にあの世に行ったじゃない。ああ、悔しい。お前が余計な事をしなければ、私は伯爵夫人。だったのに」


「ま、まさか。白鷺伯爵エーメル様も、ジョサイヤ商会のヘンリ様も、それにそれに、私が死んでほしいと願ったあの若者も、あなたが?」


「伯爵は年寄りの冷や水よ。ハハハ。ヘンリは、そう。私を侮辱したからよ」

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