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悪の華による陰謀

お読みいただきありがとうございます。

新章ですが、最終章の予定です。


 私とファンニがホテルの私の部屋に戻った時、私が全て後手後手の大失態の中にいたのだと知ることとなった。


 なんと、部屋が既に引き払われていたどころか、空っぽになった部屋にて警察官らしき男二人とホテルスタッフの一名と言う三人組が、今かと私達を待ち受けていたのである。


 どうして警官らしいと彼らを見て思ったのかは、頬まで伸ばしたもみあげと警官特有の制服を着ていたからよ。警官とメイド服はどちらも黒く、外から入って来たばかりの人間には部屋の影に溶け込まれて気が付かなかった。


「奥様!」


 私の真後ろで状況を知ったファンニが喘ぎ声をあげた。

 何も知らずに部屋に入り切ってのこの状況だ。

 私達は愕然とするしかない。

 私達が動けなくなったところで、警官の一人が私達が再び逃げないようにドアの前に移動した。それからもう一人の警官の方が、彼の横に並ぶホテルスタッフに確認の言葉をかけたのである。


「彼女がファンニ・キースキか?」


「間違いありません。ファンニ・エルノと名乗っておりましたが、マダムクリオを利用されていた方があれはキースキだと」


 警官の質問に真摯な風にそのホテルスタッフは答えたが、警官が私達へ視線を動かしたところで微かに意地悪そうに微笑んだ。茶色の髪をメイドらしくきっちりと結った彼女は、それなりに顔立ちが整っていたが、その意地悪そうな表情が外見の良い所全てを台無しにしていた。


「イーネス!この部屋にあった奥様のドレスやお道具をどうしたの!」


「あら、本物の奥様のおっしゃるとおりにしましただけよ。残念ね。せっかく取り入った相手が単なる侍女のほうで。新人は新人らしくおまるを磨いていれば警察に売られる事も無かったのにね。誰だっておまる掃除は嫌だもの」


 イーネスという名だったホテルメイドは、ファンニの言葉に嘲りの言葉を吐いてそれなりな外見の自分を完全に台無しにした。

 私は彼女に言い返していた。


「あなたこそ私が首にした元侍女に取り込まれてたってことね。あなたにお似合いの仕事こそ、汚れたおまる磨きじゃないのかしら?泥棒の手先に簡単になってしまえる倫理観しかお持ちじゃないみたいですものね」


 胸を張り顎を上げ言い返した私は、高慢な貴婦人そのものであったと思う。

 いつもの私だったら、どうしたらよいのだろうと途方に暮れてしまっただろうが、今日の私はこの状況に打ち勝ってやろうという気概ばかりだったのである。


 捨て鉢な気持ちだったからかもしれない。

 アーロへの完全失恋と言う喪失感を誰かにぶつけたかったのかも。


 さらに私は声をあげた。

 私こそ子爵夫人で、もと伯爵令嬢だった者なのよ。


「全く一体何事です!私の部屋を勝手に触り、荷物を勝手に移動させるなんて!このホテルは利用者のプライバシーを何だと思っているのです!オーナーを今すぐお呼びなさい!この所業は紅楓子爵家を侮辱する行為です!」


 私の一声に、警官らしき男とその横のイーネスは、大きく目を見開いた。後ろの警官からは、紅楓子爵?という驚きの呟きも聞こえた。彼らはイーネスによって、この私こそが紅楓子爵の侍女の方だと思わせられていたのだろう。


「そんな!嘘よ嘘よ!私こそ紅楓子爵夫人の目に留まったの。私こそ子爵夫人のお付きにして頂けるお約束をして頂いたのよ!この女が紅楓子爵夫人のはずはないわ。だって、こんな品のない髪色をした女なのよ!」


「奥様のどこが品が無いんだああ!」


「きゃ。ファンニ、待って」


 私の後ろにいたはずのファンニが殴りかかる勢いで私の前と踏み出し、私は慌ててファンニの体を後ろから抱き締めた。


「奥様」


「ありがとう。いいのよ。ホテルオーナーを呼べばすぐに誤解はとけます」


 私はファンニから腕を外すと、再び自分が一歩前に出た。

 それからいかにも貴族の女だという風にして胸を張り、私の部屋だった場所に集う部外者達をしっかりとねめつけたのである。


「さあ、ホテルオーナーをお呼びなさい。彼でしたらどちらが本物の紅楓子爵夫人か間違える事などないでしょう。私の荷物をどうなさったの?このホテルはお客の荷物を盗む場所ですの?もしかして、その指示をしたのはあなたこそなのかしら?これは泥棒と同じ行為ですよ!」


「泥棒って息をするように嘘を言えますのね」


「この女があの馬鹿王子を煽った魔女か!」


 トゥーラの声とそれに続く聞いた事のない男性の声に戸口を見返せば、そこには初めて見た大柄な男性とトゥーラが夫婦のようにして立っていた。

 手入れをしっかりしているらしきキラキラした巻き毛の金髪は肩下まであるが、弛んだ贅肉も感じる大柄な肉体のせいで麗しきなど程遠い。また、私を睨みつける目は細めら小さく鼠みたいだが、眇めているからだけでは無くてもともと小さい目であるからというものであった。


 つまり、ネズミ目をした底意地悪そうな男が立っている、だ。


 そしてこの男がトゥーラにお似合いだと思うのは、彼が体が纏う服装が自分に似合うかを考えるよりも流行ばかりを追っている様だからであろう。


 最近流行の世の伯爵達が休日に着そうなツゥードの灰色のジャケットにそれよりも濃い色のパンツは品が良いのに、胸元に悪趣味とも言える派手なスカーフを飾っている。

 ジャケットの下のシャツは無駄にひれがあるシルクであるし、革靴から覗いている靴下の色が真紫という悪趣味で軽薄なものなのだ。


 同じようなジャケットを着たアーロは、世の伯爵達よりもこなれた感じで質素上品に着こなしていたというのに。いいえ、彼はスタイルがよろしいから、ほら、素敵なお尻と長い足をお持ちだし。

 私は結局思い出してしまうアーロの姿を頭から消し去って、おしゃれが好きでもちぐはぐにしか見えない目の前の大男へ意識を戻した。


 私が彼を値踏みしていたように、彼こそ小さな目で私を値踏みしていたようだ。彼は嘲るように鼻を鳴らした後、憎々しいという風に口を開いた。


「王族と言うだけで優遇され、私の一世一代の研究を踏みつぶし、栄誉あるクラウス賞を茶番に落したあの年の事は忘れられん。あの間抜けカルヴァを唆してあの悪夢をこの女が引き起こしたというのか!顔を潰すだけでなく舌も抜いて二度と喋られなくした方が良いのかもしれないな」


 もしかして、昨夜の犬やピラニアはこの人の仕業、だった?

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