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街路樹の裏側で

 ファンニはトゥーラとその相手の道を塞ぐようにして前に出た。

 二人はピタリと足を止めたが、男の方がファンニと面識がないからか普通に彼女をやり過ごして先に行こうとトゥーラを促した。

 しかしファンニは逃がすまいとさらに一歩前に出て、偉そうに腕を組んだ立ち姿となって見下すように両者を睨みつけた。


 男の人にそんなことをして大丈夫なの?


 私は脅え、もしもの時の為に加勢できるように小石を探そうとした。

 しかし動いた一瞬で止まるしかなくなった。

 私の動きを止めるかのようにして、男性の手が街路樹の幹に置かれたのだ。


「君は動くなってあの馬鹿が言ってたでしょう?」


 私が動き出さないように街路樹に手を置いたのはアーロだったが、私に注意の声を上げたのはヨアキムだった。私の真後ろにヨアキムとアーロが立ってたのである。そして二人は、物凄く期待一杯の顔でニヤニヤと笑っているではないか。

 彼らの笑顔に思う所はあったが、私が二人の出現にホッとしたのも事実である。


「良かったわ。ファンニにもしもがあれば加勢しなきゃって思いましたの。あなた方が控えて下さるなら、私が武器となる石を探す必要もありませんね」


「素晴らしい。あなたは戦う女神であったらしい。どうぞお使いください。つまらないものですが」


 ヨアキムは物凄いキラキラ笑顔を私に向けながら、私に手を差し出した。その手には石では無いが石よりも攻撃力が高そうな、でも使っちゃいけないものが握られていた。アーロは彼の親友である証拠みたいにして、幹から手を剥がすと吹き出しそうな口元をその手で押さえた。


 ピラルクーの形をした文鎮は確かに攻撃力は高そう、でも。


「カレヴァ王子の大事な文鎮で人を殴れるわけは無いでしょう!」


「さいこう。御自ら殴りに行くつもりでしたか。しっかり応援させていただきます」


「もう!」


「しっ。君のファンニが動くぞ」


「全くあのはねっかえりは変わって無いな」


 ヨアキムは嬉しそうに懐かしむ声を出しながら瞳はファンニを見つめており、私こそファンニを見守らねばと視線を戻した。


「お待ちなさいな。ヴェルヘルミーナ様の名を騙る侍女、トゥーラ・マキさん。いえ、私が侍女に昇格ですから、あなたは首ですわね」


 直球!


 私は街路樹の幹に貼りつきながら、ファンニから目と耳が離せなくなった。

 だって御覧なさいな。

 トゥーラは上品そうに口元に左手の甲を当てると、貴婦人そのもの、と言う風な笑い声を立てたのだ。ファンニを嘲りながら。


「犯罪者だからと昨夜暇を出したばかりの方が何を言うの?警察に連絡しなかったのは私の恩情でございましたのに」


「そこが君の悪い所だよ。ヴェルヘルミーナ。君は優しすぎる。だからこうして仕返しにやってくるのだ」


「仕返し?私の尊敬する方の名前を騙るあばずれが優しい?あなたは人を見る目を養う方がよろしくてよ」


「あばずれはお前の方だろう!」


 男は罵り声をあげながらファンニの肩を掴み、そして、彼女が転ぶ勢いで彼女を車道の方へと押しやったのである。


 危ない!


 私は彼女を救わねばと飛び出そうとしたが、やはり、私は後ろにいたアーロによって抱き寄せられて動きを封じられた。

 そして、当たり前だが、考えるまでもなく、ファンニは彼女の恋人と自称する美丈夫によって守られ支えられていたのである。


 その男は私にピラルクー文鎮を渡した同一人物とは思えない顔付と威圧感を出していて、ファンニに狼藉を働いたばかりの男こそたじろいでいた。


「か弱い女性を守るどころか手をあげるとは。君の支持する救国救世騎士団の底が知れると言うものだ」


「はっ!強者のケツを舐めるだけの駄犬が!その女は我らが賛同者にして後援者でいらっしゃる紅楓子爵未亡人を侮辱したのだ」


「あらまあ!トゥーラはそんなことをしていたの?」


「あなたは救国救世騎士団とは関係ない?」


 アーロが私に向けた眼つきは探るようなもので居心地が悪いものだった。私こそ目の前で知ったばかりの情報に驚くばかりなのに、


「アーロ。私をお疑い?」


「いえ。確認です。救国救世騎士団はテロリストですから。目の前のあいつはアレクシス・ポルッキ。男爵家の三男なために必死に自分の後援者を探している金のない男。救国救世騎士団の活動を華々しく喧伝して寄付を募り、その寄付から自分用の小遣いをせしめて食いつないでいるダニですね」


「お金のありそうなお洋服をお召しでいらっしゃるのに」


「そんな恰好をしてなければ、騙されるものも騙されないでしょう」


「あなたは辛辣ですのね」


「そうなりました。ですからあなたのような方に惹かれるんです」


 はい?


 あなたは思い続けた方がいらっしゃると、はっ!それでも私に惹かれ始めたという告白ですの?


 私は自分の胸を両手で押さえていた。

 胸からびっくり箱のようにして、嬉しいって叫びが吹き出しそうだったから。

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