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報告と行動

 アーロはむしゃくしゃしている所では無かった。

 ヴェルヘルミーナが自分から逃げ出そうとしているどころか、彼に対して、一緒に住んで互いを知り合いましょう、なんて夢のような提案をしてくれたと言うのに、恋敵の王子によって台無しにされたからだ。


 それでも彼はカレヴァ王子の命令を受けいれた。


「狙われているのが自分かヴェルヘルミーナかわからなきゃあ、俺は気楽にヴェルちゃんとイチャイチャできないもんなあ」


 アーロの横に座る親友が芝居がかった仕草で自分の胸を両手で押さえて、ふざけた物言いをして見せた。

 アーロは親友に蔑みの目をむける。


「勝手に俺の内心を言葉にするな」


「はは。そんな事は考えていないって怒んないんだ。このすけべえ。いや、三年童貞だったもんな。溜まっているよな」


 アーロは自分の膝に頭を乗せている犬の頭を撫でながら、トニが元気になった暁には、最初にヨアキムを襲わせようと心に誓った。


「ねえ。一つ聞きたいんだけどいいかな。」


 アーロとヨアキムは自分達に声をかけて来たカレヴァ王子を二人一斉に見返し、カレヴァ王子こそ彼らに質問を投げかけたはずなのにほんの少しだけ動揺した様に後退って見せた。


「王子?あなたが面倒を解決しろとついさっき命令したばかりでしょ。そんな数分で出せる報告なんてありませんよ」


「そ、そんな言い方!」


「仕方ありませんよ。アーロは世界がヴェルちゃんで出来ていますから。恋路を邪魔された男は攻撃的になるものです。で、俺達が邪魔とか言ってたくせに。仲間外れで寂しくなった?」


「君達が邪魔なのは変わりません。どうして研究室の隅のベンチに仲良く座っているかな?何かあるとそうやって並んで座っているよね?私は君達にそれが聞きたいだけです」


「やっぱり寂しくなりましたか?」


 ヨアキムは優しく王子に微笑み、彼はアーロに目配せを送った。

 アーロの犬は飼い主の手の動きで飼い主から離れると、ベンチの横に移動してそこに転がり直した。

 するとアーロとヨアキムは、よいしょ、という風に二人同時に左右に分かれて二人の間に空間を作ったのである。


「何を考えている?」


「いえ。どうぞ真ん中に」


「そうそう。元近衛連隊長と現近衛連隊長の間にどうぞ、王子」


 カレヴァ王子は一瞬戸惑ったが、彼は基本的に人柄の素直な人間だ。

 また、研究肌の根っからの学者であるからか、自分で不思議に感じた事は自分が納得するまで探ってしまう性分でもある。

 彼は勧められるままにアーロとヨアキムの間に腰を下ろした。


「狭い。ってか、王子。こうしてくっついて気が付きましたが、あなたはそこいらの女よりもいい肌してますね。きめが細かくて吸いつくようです」


「ヨアキム。お前はそればっかりだな。で、王子?疑問なんですが、王子様達ってたまった時はどうしているんですか?召使いの目が多すぎですよね?」


 王子はベンチから立ち上がると、タコのように真っ赤になって失礼な下々の者達を叱りつけようとした。

 だが、生意気な下々の二人は磁石がくっつくようにして座り直し、これが種明かしだという風に二人一緒に両手を開くポーズをして見せた。


「な、なな?失礼じゃないか!」


「同じ立ち位置だったら普通の男同士の冗談でしょう?」


「俺達友達じゃんて、そんな感じだったのに」


「え、ええ?」


「いやね。この阿呆が俺が近衛連隊長に抜擢された時、俺が先に出世したのが許せないって騒いだんですよ。そこで俺は一策を講じました。隣同士に肩を並べて座っての報告会!これで俺達はいつも通りの相棒だと彼に知らしめることができる!とね」


「そうそう。今や俺が肩書き付きでこいつは一般人でしょう?君が一般人でも信頼している俺の相棒だよ、そんな風に、ですね、今も続けている俺達の大事な友情の証でもあるんですよ」


「それで話合いはいつも横に座って?……君達ってバ、いや、いい。それだけ我が国は平和なんだと考えよう。このゴートはそれどころじゃないようだがな」


「国王は最近爆破されかけましたよ?」


 ヨアキムは静かに爆弾を落とし、王子は両目を大きく見開いた。

 それから王子はよろよろとよろめきながら体を捩じり、ヨアキムとアーロが再び隙間を開けた二人の間に腰を下ろした。


「この国で一体何が起きている?」


 ヨアキムはふざけた顔を真面目な近衛連隊長の顔に戻した。

 それから彼は、静かで信頼できる隊長の声を出して、王子に報告をしはじめたのである。

 アーロはそれを聞きながら、これは報告という名の王子への揺さぶりだな、と口元が緩みそうになっていた。


「それを探っている最中です。このゴートの平和のため、行動は出来る限り静かにと考えておりますが、それでは時間はかかります。懸念として、時間がかかっている間にヴェルヘルミーナが襲われる可能性もあります」


 王子はヴェルヘルミーナの一言でごくりと唾を飲み、そんな王子をさらに脅かすようにヨアキムが囁いた。


「アーロの犬が襲おうとしたのは、本当は誰だったのでしょうか?」


「じ、時間がかからない方法はあるのか?」


 ヨアキムは明日の天気の話のような口調で答えた。


「荒っぽいものになりますねえ」


「それで何日かかる?」


「何日だろう。お前はどう思う?アーロ」


 アーロは雨が通り過ぎる予感のようにして答えた。


「数時間ぐらい、かな」


「何かを最初から掴んでいたのですね?」


 アーロは王子を見返して、気さくそうに微笑んだ。

 カレヴァ王子はアーロが切れ者であると王城に住まう兄に聞いていたと思い返しながらも、切れすぎるという評価はどういう意味だっただろうかと思いながら彼の答えを待った。


「ピーリネンとポルッキをこの阿呆が発見していたそうです!」


 子供のようにして答えを発言したのはヨアキムであった。

 温和な王子はそれを聞くなり、珍しく歯ぎしりの音をギリっと響かせた。

 それから彼はすいっとベンチから立ち上がり、仲間ではなく上に立つ者としてベンチに座る男を二人を見下ろした。


「行ってきなさい、猟犬ども。私が責任を取りましょう」


 アーロとヨアキムは同時にベンチから立ち上がり、姿勢をぴしっと正すとカレヴァ王子に敬礼をした。

 その後は、嬉しそうな笑い声を立て、弾丸のようにしてカレヴァ王子の研究室を出て行った。

 そして王子は空になったベンチに腰を下ろし、両手で頭を抱えた。


「もういや」



お読みいただきありがとうございます。

取りあえず二人には動いてもらわねばなりません。

久しぶりの更新でラブなくてすいませんでした。

アーロとヨアキムが必ずベンチに隣同士に座るわけ、そんな説明回で本気ですいません。

次話ではラブ行けるように頑張ります。

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