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プロローグ

 三日前から私はおかしい。

 三年前に愛する人を失ってから、二度と恋などするものか、いえ、結婚を望む事なんてしないと誓ったはずなのに、今は結婚したくて堪らない。


 それは、三日前の出来事による。


 お店屋さんでぷよぷよの手をした三歳の女の子から、どうぞ、と小さな花型のクッキー、それも涎でベトベトなものを貰って以来、私の中がおかしいのだ。


 彼女の母親は自分の娘の行動を知って私にひたすらに謝って来たが、私は彼女による謝罪の言葉なんか何一つ頭に入って来なかった。

 汚れた手で母親のドレスにしがみ付いているその子から、私はただひたすらに目が離せなくなっていたのだ。


 なんて可愛いの、欲しいわ、と。


 そこで結婚がしたくて堪らなくなったのである。


 だって、私は二十五歳だ。

 私がこれから赤ん坊を生むと考えると、今すぐにだって家を飛び出て適当な男を捕まえてしまいたいぐらいなのである。


 いえ、それで良いのかもしれなくてよ。

 だって私は、「夫殺しのヴェルヘルミーナ」よ?

 普通に名乗って挨拶するだけで、男の人が脅えて私から逃げてしまうという、悪名高き未亡人なのよ?


「いえ。名乗らなければ男を一人ぐらいは引っ掛けられるかしら?」


 無意識に自分の口が言葉を呟いていた。

 私は自分の言葉の意味を理解するや、居間のソファから勢いよく立ち上がり、居間の壁に掛けてある悪趣味に豪華な鏡に向かった。


 自分の姿を今すぐ確かめなければ!


 そんな気になっていたのだ。


 あまり出歩かない生活だからか、私の肌は日焼けしていなくて瑞々しい。

 悪名があれど求婚が絶えなかったのは、相手から見ても自分は好ましい方の外見だからよね、と、自分の青い目を見つめて自分に言い聞かせた。


 猫みたいな水色の瞳は、男の人には好感度が高いはずよね?

 そうよ!自分に言い聞かせなきゃ。

 売春婦のように男を誘って一夜を過ごすの!

 赤ん坊を手に入れるために!


「お嬢様の髪は滅多にないストロベリーブロンドですから、お嬢様の思惑なんか叶いません事よ?」


 私の侍女にして私の唯一の友人のようになったトゥーラ・マキが、私なんか気にしない風にしてドレスデザイン画を捲りながら、私の思惑を台無しにする台詞を口にした。

 私はもう一度鏡を覗き込む。

 トゥーラが言う通りに、私の頭にはピンクっぽい金髪という、二十五の今現在には可愛らしすぎる色合いの髪が乗っていた。


「確かに。この間の朝刊には、死神の本当の姿はピンク色の髪をした女だって新聞とは思えない論説が載っていたわね!」


 大きな溜息を吐いた。

 私のピンク色の前髪が、私の溜息でふわっと持ち上がった。


「私には幸せな結婚って無理なのかしら?」


「お嬢様。でしたら、論説よりも噂話はいかがでしょうか?昨年陛下の護衛を命がけでなさった近衛連隊長様。今は男爵位を受けられて引退されておりますが、殺しても死なない男と有名らしいですわよ?」


「殺しても死なない男?」


「はい。あの有名なアーロ・シーララ様は、陛下をお庇いになったというあの有名な出来事の際、お腹を切られた上に左腕と右足を失われたようです。そんな大怪我でも亡くなられなかったから、不死身だと有名になったらしいですね。」


 私はふむ、と考え込んだ。

 子供は欲しい。

 本当の意味での男性との結婚生活だって、実は、体験したい。


 だったら殺しても死なないような男を選べばってトゥーラの提案は、ものすっごく合理的なんじゃ無いかしら?って。

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