『流星群の宝物』
ある村に、6歳の双子の男の子が住んでいました。名前は兄がアラン、弟はアルと言いました。
2人はとても仲が良くて、いつも一緒に遊んでいました。2人の母親は病気がちでいつもベットに寝ていました。それでも母親はとても優しくて、2人は母親に抱きしめられるのも、絵本を読んでもらうのも大好きでした。
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はく息が白くなるほど寒い夜でした。
「アラン!ふたご座流星群見に行こう!」
アルが、寝ていたアレンを揺さぶって言いました。
ぐっすり寝ていたはずのアランでしたが、アルの言葉に眠気がすっかり飛んでいきました。
「ふたご座流星群!?どこで!?いつ見れるの?!」
「僕たちがいつも遊んでいる丘でだよ!今夜見えるって!今お母さんとお父さんが話してるの聞こえたんだ!」
アルは興奮して、今でも飛び出していきそうな勢いでした。
「これって僕たちチャンスだよね!?」
鼻をフンフンと鳴らして興奮するアルにそう言われ、アレンはこの村に伝わる『流星群の宝物』のことを思い出しました。
『流星群の宝物』とは、昔母親に読み聞かせてもらった絵本のお話でした。
真冬に2人の男の子が、病気の母親を助けるために世界を冒険をする話で、最後に、2人は数多の流れ星の下で、宝物を見つけます。その宝箱に入っている財宝を手に入れると、何でも願いごとが叶うと言われていました。2人はそれを持ち帰って、家族といつまでも幸せに暮らした…という物語でした。
アランとアレンは最後の流星群のシーンの絵がとっても大好きで、母親に何度も何度もその場面を読んでもらっていました。
『たくさんの流れ星、いつか見てみたいね。』
『そしたら宝物をお母さんにもっていくんだ。』
いつの間にかそれが双子の夢になっていました。
「アル!チャンスだ!宝箱を見つけに行こう!今すぐ!」
アランも急いで準備をして、こっそりと家の裏口から外に出ていきました。
外は霜が降りるほど冷えていましたが、
2人は夢が叶うかもしれないという期待に、少しも寒さを感じませんでした。
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丘につくと、2人は肩を並べて仰向けに寝転がりました。
「アラン、本当に流星群、見れるのかな。」
「見れるよ。きっと。」
「そしたら、宝物、見つかるかな。」
「絶対、見つかるよ。」
「そしたら、お金持ちになれるかな!?おもちゃも買えるかな!?」
アルは起き上がり、目をキラキラさせてアランの方を向きました。
「もちろん!絶対お母さんを元気にさせるんだ。」
アランの目はまっすぐ空を見つめていました。
2人は横になってしばらく空を見上げていましたが、
一時間もすると急に眠気が襲ってきて、そのまま眠りに落ちてしまいました。
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「アラン!起きて!!!」
アルの声にアランが目を覚ますと、頭上には、満点の星空が広がっていました。
いくら願い事をしてもしきれないくらい、次々と星が流れていきます。
「これが、ふたご座流星群…。」
その絶景に、2人とも言葉を失いました。
その時、
一つだけ、赤く光る尾を引いた流れ星が丘の向こうに落ちたように見えました。
「アル!見て!今赤いのが落ちた!」
アレンは赤い光が落ちた方へと走り出しました。
丘を越えると、光が落ちた方向に、小さな箱が落ちているのを見つけました。
「宝箱だ!」
「やった!あの物語は本当だったんだ!」
2人は手を取って喜びあいました。
ドキドキしながら箱を開けると、中には金でできた指輪が一つ入っていました。
アランはそれを取り出して、自分の人差し指につけてみました。
「きれい…。」
純金の指輪がアランの手でキラキラと輝いていました。
―これで、夢がかなうのかな。
そう思った瞬間、指輪からまぶしい光が放射され、
その光の中に包まれて、2人はそのまま気を失ってしまいました。
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「本当、困った子たちなんだから。」
曖昧とした意識の中で、遠いところから、聞き覚えのある声が聞こえてきました。
アランが目をゆっくり開けると、そこには呆れた顔をした父親と、温かいミルクを注ぐ母親が立っていました。体には毛布が掛けられていて、目の前では暖炉の火がめらめらと燃えていました。横にはぐっすりと眠ったアルがいました。
「お母さん…?」
「あら、やっと起きた?おはよう。」
アランは自分に起きたことを思い出して、両親に言いました。
「僕たち、宝箱を見つけたんだ!!これでお母さんの体も治るよ!!」
必死に訴えるアランの様子を見て、両親はびっくりした後、ふふふと笑いました。
「流星群のお話の夢を見たのね。ベットを見に行ったら2人ともいなくなってるんだから、びっくりしたわよ。」
「僕が今夜流星群が見られるって話をしていたから、もしかしたらと思って探しに行ったら、2人とも丘で寝ていたんだよ。きっとそこで夢を見ていたんだね。」
「夢…だったの?」
宝物でお母さんを元気にさせられる。そう思っていたアランは涙をこらえることができませんでした。
「お母さん…ごめんなさい。僕たち、流星群の宝箱、見つけられると思ったんだ。そしたらお母さんを助けられると思って。」
母親は泣きじゃくるアランを抱きしめて言いました。
「いいのよ。ありがとう。お母さん、元気になるからね。」
母親の温もりがアランの心の痛みを癒していきました。
ふと、アランは違和感がしました。自分の右手がむず痒いのです。
人差し指を見てみると、そこにはピンクの星型をした花草でできた指輪が付いていました。
「この指輪…もしかして、夢じゃなかったのかな。」
不思議な出来事にアランはドキドキして、もう一度母親の胸元に顔をうずめました。
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3年後。
あれから、母親の病気はだんだん回復していき、今では家族みんなが元気に暮らせるようになりました。
「アラン!行くよ!」
「アル!水筒忘れてる!」
「いってきます!」
「いってきます!」
「いってらっしゃい。」
母親が走っていく2人に手を振りました。
これは流星群の夜に、双子が起こした奇跡の物語です。
一度でいいから流星群を見てみたいものです。