第16話 トカゲと戦おう!
「なんだ!?」
僕はエマの方を見る。彼女は砂色のトカゲに組み敷かれていた。
「くぅ!」
エマは戦扇を両手で持っており、その間にトカゲが噛み付いているという状況だ。
「はああ!」
ミアがトカゲの背中にナイフを投げつける。
「グギャア!」
トカゲは悲鳴を上げて飛び跳ねると、そのまま直ぐに息絶えてしまった。ナイフに毒が塗られていたからだ。
「砂小恐竜だな。こいつは群れを作るわけだが」
嫌な予感を感じて、僕はしゃがみこむ。次の瞬間には、何者かが空気を噛む音が聞こえた。僕はショートソードで襲ってきたトカゲの首を跳ねる。
「なぁ! いつからそこにいたのよ!」
「こいつらは気配を隠すのが上手いから気をつけろ! 地面をよく見るんだ! 足跡でどこにいるのか検討がつく。それと、風上にはいないはずだ!」
そう叫ぶと同時に、僕はパーティ全体に魔法を付与していく。
「視力強化、身体能力向上、魔法攻撃力向上、物理防御力向上、魔法攻撃力向上、第六感向上魔法付与!」
視力だけでなく、第六感も強化することで、砂小恐竜の居場所を特定しやすくする。
位置さえ分かれば、そんなに厄介な魔物ではないからだ。
「そこにいるのね!」
ミアがナイフを立て続けに投擲する。数体の砂小恐竜たちの頭に突き刺さり絶命した。
よく見ると、いつの間にか周囲を砂小恐竜たちに囲まれていた。彼らは気配遮断魔法を使うことができるから厄介極まりない。
まぁ、第六感を強化したせいで、彼らの位置はもうらばればれだけどな。
投げナイフを使い切ったミアはロングソードで他の砂小恐竜をばっさばっさと切り伏せていく。
エマは戦扇を広げた状態で舞うように彼らを切りつけ、クラリッサはショートソードで迎え撃っている。これなら何とかなりそうだな。
僕も腰に吊るされていたショートソードを引き抜く。右手に噛み付こうとしてきた砂小恐竜の左頬にショートソードを突き刺した。
ショートソードを抜くと、砂小恐竜の左頬から血飛沫が飛びでる。同時に、左右から2体の砂小恐竜が襲いかかってきた。
僕は天に向かって高く飛び上がる。足元から、2つの口が空気中を噛む音が聞こえた。
僕は空中で身体の上下を反転させつつ、腰に吊るされた予備のショートソードも抜刀する。
2本のショートソードを胸の前でクロスするように持つと、身体を回転させ、2体の砂小恐竜たちに切りつける。
「エア・バッファー!」
地面に向けて風魔法を放つと、再び空中で体勢を立て直すと、地面に着地する。
彼らの顔に刃が当たったものの、右側にいた砂小恐竜はまだ息をしていたため、そいつの首にショートソードを差し込む。
「ギャア!!!」
大柄の個体がタックルを仕掛けてくるが、ショートソードで受け止めてやる。
まさか短剣で受け止められると思っていなかったのか、腹部にショートソードが刺さった状態で暴れてくる。
しかし、僕がショートソード越しに魔力を放ってやると直ぐに息絶えた。
「ふぅ、こんなものかしら」
ミアたちも無事、砂小恐竜たちを殲滅し終えたようだ。至る所に亡骸が転がっている。
「相手の居場所さえ分かれば、大したこと無かったねぇ」
「この死体、どうするの?」
「1箇所に集めて、燃やしてしまおう。毛皮は一応売れるから、剥げるだけ剥いでおくか。全員、空間魔法に余裕はあるよな?」
「全ての毛皮の半分くらいなら余裕で入るわ」
「同じく」
「私は3分の1くらいかな〜」
「よし。なら任せた。僕は空間魔法が使えないからね」
「先生程の人が使えないのは意外よね」
「まぁ、魔法には向き不向きがあるからな。こればかりはどうしようもない」
僕たちは砂小恐竜たちの毛皮を剥いでいく。
サンタリア学園で毛皮を剥ぐ経験は全員がしたことがあることもあり、ものの1時間で作業は完了した。
「「「収納!」」」
空間魔法によって、全ての毛皮が異空間に移動する。
毛皮を剥がされた肉塊は全て積み上げて、火魔法で燃やし尽くす。地面に滴り落ちていた大量の血液も同様に処理した。
こうしておかないと、血の匂いを嗅ぎつけて他の魔物を呼び寄せることになりかねないからだ。
死体の処理を全て終えると、僕らは突然の襲撃によって中断されていた晩餐を再開する。すっかり冷めてしまっているけど仕方がない。
「さっきの魔物なのだけれど、酒精と違って、まともに訓練を受けていない冒険者が狩るのは難しいんじゃないかしら」
「そうだね〜。レオン先生の付与魔法が無かったら、私たちでもかなり苦戦しそう」
「低ランク冒険者が利用するペレ砂漠にしては、強すぎる魔物な気がする」
「そりゃそうだろう。本来、この魔物がこんな場所に生息してるのはおかしいことだからな」